ニュージーランドのエッジィなワイン生産者インヴィーヴォが、サラ・ジェシカ・パーカーとのコラボ・ワインをプロデュース。あれよあれよという間に大人気になって、2019年の初ヴィンテージは世界中で売り切れ続出。クラウド・ファンディング、インスタ映えする写真やビデオ満載のきらびやかなホームページ、世界の子供たちの学校給食の支援プログラム「FEED」を通じた社会貢献活動、そして更新頻度の高いSNS。ワイン・マーケティングのお手本ともいえるケースだ。
文/織田 豊
【目次】
①サラ・ジェシカを担ぎ出そう!
②ソーヴィニョン・ブランと恋におちて
③インヴィーヴォのワイン造りの「たくみ」
④すこし大人なプロヴァンス・スタイルのロゼ
⑤まとめ
①サラ・ジェシカを担ぎ出そう!
2019年5月。春のニューヨーク。グリニッチヴィレッジのイタリアン・レストランにイエローキャブで2人の男性が乗りつける。
一人は銀色のアタッシュケースを持っている。足早に店内に入る。スタイリッシュなバー・カウンターを通るとテーブルで待っているサラ・ジェシカ・パーカーとハグ。
さぁ、ソーヴィニョン・ブランのブレンドを始めよう。そう、サラ・ジェシカ・パーカーとニュージーランドのインヴィーヴォのコラボのプロジェクト、X.SJPのファースト・ヴィンテージを造ろう。
セレブリティのワインは今に始まったことではない。
俳優ではブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーのミラヴェルのロゼや、キャメロン・ディアスにドリュー・バリモア、歌手ではアメリカのラッパーのジェイ・Zのシャンパーニュ、スティングやボン・ジョヴィ。他にもゴルフやアメフト、バスケットボールの選手たち。みずからワイナリーを所有したりプロモートしたりすることがセレブのお家芸になりつつある。
でも、今回の「仕掛け」はちょっと違う。起業家といっても良いだろうキーウィ(ニュージーランド人)のワイン生産者のロブとティムが積極的にマーケティングとプロモーションを組み立てている。
この2人、なんと、資金集めにクラウド・ファンディングを使って、ワインを好きになってくれたファンに株主になってもらうというビジネスモデルを2015年に立ち上げた。
先立つ2012年には有名会計コンサルティング企業のデロイトからもニュージーランドで最も早く成長したワイナリーと表彰されている。
もちろん、ワインそのものの方も、抜かりはない。
ニュージーランドの栽培・醸造の名門リンカーン大学を卒業して欧州で武者修行をしたロブ・キャメロンのワイン造りは、International Wine and Spirits CompetitionやDecanterなどから数々の賞を獲得するに至っている。
一方、ティム・ライトボーンはダノンやハインツでマーケティングの経験を積んでいる。学生時代からの友人、最高のコンビだ。
サラは1年前にこの話が来た時は、ワイン・ビジネスなんて全く関わったことが無いし、ワインは好きだけれど、ワイン選びにさえ苦手意識があった。
だからプロジェクトへの参加依頼の電話が有ったときは「そんなの馬鹿げているわ!」と言っていた。
それが、いまはひとりの普通女子のように、ウキウキと、ロブが持参したアタッシュケースから取り出した5本のフラスコ瓶に入った、別々の畑の区画から造ったワインのブレンドに夢中になっている。
「女性の曲線のような感じが欲しいわ。2番のワインを増やしましょう。3番は少ない方がいいわね。ただ可愛いだけじゃ駄目。ほんの少し醜さがあった方がいいのよ。」
多くの友達や家族がお祝いをしたり、カジュアルに集まったり、あるいは長い一日の終わりに楽しむ。そんなワインにサラはしたいようだ。
以前、どんな時にワインを楽しむのかとロブに聞かれて、「仕事が終わった後に。文字通り、毎日よ!」と答えている。
「私と夫は立派なワインの蒐集家でもない、ふつうの消費者よ。ただ、海外旅行へ出かけるにつれて色々な産地の地元のワインを飲むようになってワインが大好きになっていったの。」
この普段着感覚は、私たちと似たり寄ったりで、ほほえましい。
このサラが今はワインのブレンドに熱中し、ソーヴィニョン・ブランに、ほれこんでいる。インヴィーヴォの2人はどんな魔法を彼女にかけたのだろう。