日本で取得できるワインの資格は数ありますが(別記事「こんなにある!ワインの資格・検定まるごと完全解説」参照)、その中で最もメジャーなのが、日本ソムリエ協会の認定するソムリエ、ワインエキスパートの両資格です。
しかし、近年じわじわと受験者、取得人数が増えているのがWSET®のレベル別資格。そもそも、WSET®とは何で、どんな資格があり、どんな試験なのでしょうか。また、取得することで得られるメリットは何でしょう。
本記事では、日本における数少ないWSET®講座・試験の認定校であるアカデミー・デュ・ヴァンが、こうした疑問にばっちりお答えいたします。
WSET®とは何のこと?
WSET®とは、Wine & Spirit Education Trust(ワインとスピリッツの教育企業合同)の略で、イギリスはロンドンに本部を置く国際的な酒類教育機関です。日本ではダブリュセットと発音されることがありますが、ダブリュ・エス・イー・ティーというのが本国での発音になります。
その歴史は1969年まで遡り、イギリスのワイン流通業者の組合であるヴィントナーズ・カンパニー(Vintners Company)によって設立されました。もともとは、イギリスのワイン・スピリッツの流通業者を教育することが目的の機関だったのですが、1977年以降は世界各国のワイン教育機関と提携し、その講座と資格試験を行うようになりました。
現在では、その講座・試験は世界70カ国、700の認定校、15以上の言語で実施されており、講座受講生の4分の3がイギリス国外にいるほどの発展を見せています。年間の総受験者は今日世界で8万人以上いて、累積の資格認定者数は50万人を数えます。いまでは、酒類の流通関係者だけでなく、サービスのプロ、一般のワイン愛好家も多く受験する資格になりました。
WSET®の講座レベルについて ~難易度別の4つのレベル
WSET®には、スピリッツや日本酒に特化した講座・試験もありますが、ワインに関するものは4つのレベルに分かれています。
Level 1からLevel 4までで、数字が大きくなればなるほど学ぶ内容が多く、またWSET®が独自に開発したテイスティング・メソッドであるSAT(Systematic Approach to Tasting システマティックなテイスティング・アプローチ)のレベルが上がっていきます(分析項目が細かくなるなど)。試験の難易度も、レベルの数字が上がるにつれて高くなっていきます。
1 WSET® Level 1 Award in Wines
ワインにはじめて触れる初心者向けの講座・試験です。主なワインのタイプとスタイル、有名なブドウ品種とその個性、ワインをどのように保管しサービスするか、料理とワインの合わせ方の原則、そしてテイスティング(SAT Level 1)を学びます。最低6時間の講座受講が必要で、試験合格に必要な勉強時間数の目安も同じ6時間です。
2 WSET® Level 2 Award in Wines
Level 1よりは少しレベルが上がり、初心者から中級者向けの講座・試験です。ワインだけでなく、スピリッツとリキュールが範囲に入っています。
スティル・ワインの造り方、どんな要素がワインのスタイルに影響を与えるか、主要な白・黒ブドウ品種とその個性、重要なワイン産地、スパークリング・ワイン、甘口ワイン、酒精強化ワインの造り方、ラベル用語、料理とワインの合わせ方の原則、そしてテイスティング(SAT Level 2)を学びます。
最低16時間の講座受講が必要で、試験合格に必要な勉強時間数は最低28時間(講座時間数含む)とされます。
3 WSET® Level 3 Award in Wines
ワインのプロ、熱心な愛好家を対象にした上級者向けの講座・試験です。
ワイン生産における主要な要素(場所、ブドウ栽培、醸造、熟成、瓶詰め)、そうした主要な要素が世界のスティル・ワインやスパークリング・ワイン、酒精強化ワインの個性にどう影響を与えているか、ワインのスタイルや品質を説明するために得た知識をどう活用するか、そしてテイスティング(SAT Level 3)を学びます。
最低30時間の講座受講が必要で、試験合格に必要な勉強時間数は最低84時間(講座時間数含む)とされます。
4 WSET® Level 4 Diploma in Wines and Spirits
ワインとスピリッツについてのあらゆることに精通する専門家向けの講座・試験で、以下6つのユニットに分かれています。
①酒類飲料のグローバル・ビジネス
②ワイン生産(ブドウ栽培、醸造)
③世界のスティル・ワイン
④世界のスピリッツ
⑤世界のスパークリング・ワイン
⑥世界の酒精強化ワイン
テイスティング・メソッドであるSATはLevel 4用のものになります。最低118時間の講座受講が必要で、試験合格に必要な勉強時間数は最低600時間(講座時間数含む)とされます。
WSET®の試験はどんなもの?
WSET®の試験は、講座修了後に認定校が設定した試験日に受験することになります。
Level 1~Level 3までは日本語での受験が可能ですが(希望者は英語での受験も可能)、Level 4 については英語での受験のみです(従って、その試験準備もLevel 4については英語となります)。
Levelによって、テイスティング試験の有無などが変わってきます。なお、Level 1~Level 3については、どのLevelからも受験が可能ですが、Level 4については、Level 3の試験に合格していることが受験資格となります。
1 WSET® Level 1 Award in Wines
4択のマークシート方式の筆記試験のみで、問題数は30問、試験時間は45分間です。70%以上の正解率で合格となり、世界的な平均合格率が90%程度という易しい試験です。
2 WSET® Level 2 Award in Wines and Spirits
4択のマークシート方式の筆記試験のみで、問題数は50問、試験時間は60分間です。55%以上の正解率で合格となり、世界的な平均合格率は75%程度です。
3 WSET® Level 3 Award in Wines
知識を問う筆記試験のユニット1とテイスティングの実技試験であるユニット2に分かれており、両方に合格した際に資格認定がなされます。不合格になったユニットの試験だけを、次回以降に再受験することが可能です。
ユニット1の筆記試験は、4択のマークシート方式の50問と、短い答えを書く記述問題4問からなっています(制限時間は合計で120分)。ユニット2のテイスティング実技試験は、ワイン2種類のブラインド・テイスティングです。両ユニットとも55%以上の正解率で合格となり、世界的な平均合格率は30%程度です。
4 WSET® Level 4 Diploma in Wines and Spirits
試験は上記2.-4で述べた学習のユニット別に行われ、それぞれ試験日や試験内容が異なります。受験生はひとつずつ合格したユニットを増やしていき、全6ユニットに合格した時点で資格認定が行われます。どのユニットも、55%以上の正答率で合格できます。
ユニット1「酒類飲料のグローバル・ビジネス」
定められたテーマでの論文提出(自宅での調査・執筆が可能)と小論文筆記試験(1問)
ユニット2「ワイン生産(ブドウ栽培、醸造)」
選択式100問の筆記試験
ユニット3「世界のスティル・ワイン」
長めの答えを書く記述式筆記試験(5問)とワイン・テイスティング実技試験(12銘柄)
ユニット4「世界のスピリッツ」
短めの答えを書く記述式筆記試験(3問)とスピリッツ・テイスティング実技試験(3銘柄)
ユニット5「世界のスパークリング・ワイン」
短めの答えを書く記述式筆記試験(3問)とワイン・テイスティング実技試験(3銘柄)
ユニット6「世界の酒精強化ワイン」
短めの答えを書く記述式筆記試験(3問)とワイン・テイスティング実技試験(3銘柄)
WSET®の資格とソムリエ・ワインエキスパート資格はどう違う?
まず、独学で試験だけを受けることができる日本ソムリエ協会認定のソムリエ・ワインエキスパート資格と異なり、WSET®は認定校での講座を受講することが試験を受験する条件になっていることが大きく違います。
難易度について言うなら、WSET®のLevel 3が日本ソムリエ協会認定のソムリエ・ワインエキスパート資格とほぼ同レベルです(合格率も同じぐらい)。ただ、試験の傾向はかなり異なっていて、WSET®では筆記試験においても、テイスティング実技試験においても論理性が重視されています。たとえば、Level 3の記述式筆記試験に出される問題は次のようなものです。
「シャルドネは冷涼・温暖の両気候下で栽培されている。オーストラリアでシャルドネが栽培されている地域の中から、冷涼な産地と温暖な産地の例をひとつずつ挙げ、気候がブドウの果実風味にどのような影響を与えている説明せよ」
単に「知っているか知らないか」を聞くのではなく、「何故そうなのか」を聞くのがWSET®の試験の大きな特徴です。これはテイスティング・メソッドであるSAT(Systematic Approach to Tasting)についても同じで、システマティック・アプローチと言うその名の通り、感性よりもコメントの論理性・整合性が重視されています。
一方で、筆記試験対策として必要とされる暗記学習の絶対量については、WSET®のLevel 3と日本ソムリエ協会のソムリエ・ワインエキスパート資格では、後者のほうがずいぶんと多くなります。
また、日本ソムリエ協会のソムリエ資格の三次試験で課されるサービス実技の審査に類するものは、WSET®についてはどのレベルの試験でもありません。これは、ソムリエ協会の資格がもともとはサービスマンのための資格としてスタートしたものであり、WSET®がお酒の流通関係者のための資格としてスタートしたものだということに遠因があるのでしょう。
WSET®の資格を手に入れるメリットとは?
日本ソムリエ協会のソムリエ・ワインエキスパート資格と比べれば、日本国内での知名度はまだまだ低いWSET®。ただし、世界に目を向ければ状況は完全に逆転します。
WSET®の資格は、世界中どこへいっても、通用するのです。海外のワイン業界で、あるいは海外のワイン業界を相手に仕事をしたいと考えている場合、WSET®の資格を取得しておくことは、自分の能力と技能を証明する上で、大きくプラスに働きます。
また、WSET®の教育プログラムや試験は、50年の歳月をかけて練り上げられてきたものであるがゆえ、非常に完成度が高く隙がないものです。
レベルに応じて身につけられる知識や技能の水準は変わりますが、「ワインを知識・味の両面で深く、論理的に理解」できるようになるという点は、特筆すべきものと思われます。
ワインについて考える力が身につく、という点で、WSET®の資格取得はあなたがワインのプロであれ、熱心な愛好家であれ、大いなる進歩をもたらしてくれるものでしょう。
まとめ
本記事では、WSET®の資格試験がどういうものかについて、複数の視点から包括的にご紹介してきました。
日本では2021年7月時点で4つのワイン教育機関が認定校となっており(下記URL参照)、アカデミー・デュ・ヴァンもそのひとつです(教育機関によって実施している講座・試験のレベルや、講座の内容は異なります)。
参考:日本語で WSET® 資格を提供しているコース・プロバイダー
アカデミー・デュ・ヴァンでは、一流の講師陣による豊富な講座をご用意しております。
これからWSET®のワイン資格に挑戦したいという方は、合格実績多数のWSET®ワイン講座を是非ご検討ください。