ワインバーのオーナーにして、世界の歴史や文化の視点からワインをわかりやすく語る達人。ワイン以外の酒類にも幅広い知識と愛情を持つ筆者が、ひもとくワインと書物の世界。お気に入りのワインと共に楽しみたい。
文/遠藤 利三郎
【目次】
1. 「古酒巡礼」を読む。
2.「もっとMBA」を読む。
1.「古酒巡礼」を読む。
著者はテレビ「主治医が見つかる診療所」などで、いつも「健康には赤ワイン!」と叫んでいるお馴染み秋津先生。
実は秋津先生は、ワイン業界では古酒ラヴァーの大長老としてその名を轟かしている。
この本は、秋津先生のワイン専門誌「ヴィノテーク」での連載をまとめたもの。
前著「古酒礼賛」に続き、古酒の楽しさを綴った2冊目だ。
それにしても古酒好きとはなんとも不思議な存在だ。
古酒なんて厄介なもの。開けるまで、いや、飲み出してからも、変化が激しくアタリかハズレかをドキドキしながら飲んでいる。
いやいや、それ以前にコルクの抜栓からして一筋縄ではいかず、大概ひと騒動あるものだ。
でもその大変さがとても愛おしいし、ボトルを前にしてワインの出自を辿るのも楽しい。
今は存在しないドメーヌやネゴシアンなどの情報をたどり、またエチケットのデザインやオーナーのサイン、記載された語句、キャップシールの様子などから、ワインの出自を推理していく。ドラマの探偵みたいだ。
この、本、古酒の世界に足を踏み入れようとするワイン好きの方々には、古酒を楽しむための格好のテキストとなるだろう。
もちろん、秋津先生の古酒を飲んだ時の表現がまた素晴らしい。洒脱でありながら、格調高い。
美味しそうな表現の中に、グラスの中身への愛情に満ちたコメントがならぶ。
そうそう、著書の中で以前私が主催した「ニセモノのロマネ・コンティ1929年を飲む会」も紹介されていた。
私は大手保険会社からワインの鑑定を引き受けているのだが、ある時ロマネ・コンティが持ち込まれた。だが、どう見てもニセモノ。真贋判定の根拠を説明し、これは値段がつけられないと言うと、処分したいのでいくらでも良いので引き取ってくれと言う話に。そのような経緯で私のセラーの珍客となったボトルだ。
通常、ニセモノのロマネ・コンティの中身は、すぐにはバレないようにそこそこ良いブルゴーニュを詰めていることが多い。DRCでなくとも1920年代のブルゴーニュだったら面白いではないか。もし万が一に本物だったら驚愕的な嬉しさだし、ニセモノならニセモノで、さて中身はなんだろうというお題を肴に飲もうではないか。ということで秋津先生をはじめ古酒好きをお誘いして開催したものだ。
で、その結末は?それはネタバレになるのでここではナイショ。続きはぜひ秋津先生の本で。笑
それにしても、この著書はなんともイケナイ本だ。
書中で秋津先生があまりにも美味しそうに楽しそうに古酒を飲んでいる。
こちらまで古いワインが飲みたくなってしまうではないか。
さて、セラーに行くとするか。今夜はどのボトルを開けようかな。
書名:古酒巡礼
著者:秋津壽翁(あきつ としお)
出版社:あさ出版