集わずして飲む「リモートワイン会」のススメ?【前編】

集えない日々が続く。1都3県の緊急事態宣言は解除されたものの、依然として飲食を伴う集まりや会合は推奨されておらず、春が来たというのにまったくウキウキしない。何か理由をつけて飲むのが性(さが)のワイン愛好家なら、なおさらだろう。しかしそれが叶わない今、どうしたらよいか。「集わずして飲む」ための手段として、リモートでのワイン会について、あらためて考察する。

文/谷 宏美


【目次】

1. 集うことができない今、どうするか
2. リモートワイン会が下火になった理由
3. clubhouseは新たな岐路となり得るか?
4. リモートワイン会のスタイル


1. 集うことができない今、どうするか

例年ならば、花見ワイン会と称して桜の樹の下や桜の見える店に集まり、”花を見ながら飲みたいワイン”というお題のもとに持ち寄ったボトルの無理やりな理由を論じながら、浮かれ気分で頬を赤くしている時分。けれど飲食店に行くことすらままならない今、ワインを飲みながらエンドレスに語らうワイン会が推奨されるはずもなく、読者の多くが大なり小なり、予定していたイベントの無期延期を余儀なくされている状況だろう。

それでもワインは飲みたいし、飲んだら誰かと語りたい。ワインに罪はないのだから。そこで考えられるのが、メッセージ用アプリのビデオ通話機能やビデオ会議用ソフトなどを利用したオンラインでの飲み会だ。昨年の第一次緊急事態宣言時に盛んに行われたこのリモートでのワイン会は、リアルワイン会が依然として開催しづらいにも関わらず、かつてのように頻繁には実施されていないように思われる。オンラインでのミーティングなんて実はあまりないのだけれど、飲み会のために女優ライトを買ったという女子もいたのだが……。そこで、このリモートでのワイン会について一考を投じてみたい(本記事では単にオンラインでつながって好きなものを飲みながらチャットするだけの飲み会は対象から除外する)。

2. リモートワイン会が下火になった理由

では、なぜ今、リモートワイン会が実施されないのか。飲み手としてかなりのワインを消費する筆者も、取材以外でのリモートワイン会に参加した経験は僅少。友達が少ないのではというツッコミはさておき、画面を通してのワイン会に今ひとつ気が乗らないというのが正直なところ。自ら敬遠してきた理由も含めて、下火になったわけを探る。

ワイン関係者を対象に、産地や品種、造り手など多岐にわたるテーマでワインを持ち寄り、ブランドワイン会を開催してきた某インポーター勤務の中塚龍雄氏に、リモートでこれを続けているのかどうか聞いたところ「一度はオンラインでやってみたんですが、いろいろと問題があって今は実施していないんですよね……(ため息)」という答え。開催120回を超える人気の会として知られていたのだがこの状況下ではやむなし、残念である。

感想として「発言がしづらい(画面に向かって言葉を発するタイミングや間合いを図るのが難しい)」とか、「せっかくワインを飲んでいるのに、PCやタブレットなど端末を置いているためにきちんと食事をとるのが難しい」、またタイムテーブルが厳密でないため飲みすぎる、という声が多かったようだ。実際にリモート飲み会に参加してみて、同様に感じた人も多いだろう。

 

3. clubhouseは新たな岐路となり得るか?

新たなコミュニケーションツールとして注目される音声SNSアプリ「clubhouse」上でも、ワインをテーマにしたclubがあったり、ワイン関係者のroomが作られていて、ワインを飲みながらのトークを楽しむことができる。声のみで気軽に参加できることから、間口は広いように思われる。これらは、リモート飲みの新しい手段として定着するのだろうか。

ソムリエやシェフとともに「ワインと料理のマリアージュ」というroomを定期開催するワイン文化講師の蜂須賀紀子さんに、ワイン会的な要素はあるかどうか尋ねてみた。「内容としておつまみとワイン片手に参加してもらうのはよいと思うのですが、私のroomはワイン会というよりは、意見交換のための部屋。オープンにオーディエンスが集まるのでワインを飲んでいる前提でのトークにはしていません。仲間内でのクローズドの部屋にすればそうしたことも可能でしょうね」(蜂須賀さん)。

さまざまなワイン関連のroomにモデレーターやスピーカーとして招かれるソムリエの藤巻 暁氏も「オープンで開催されるroomは出入りも自由だし、声のみですがトークショーに近い感覚。しゃべっている内容こそワインや生産者、料理に関してではありますが、仕切り役の主宰者のもとにコメンテーターが自分の意見を述べ、それをリスナーが聴きに来るので、展開がきちんとオーガナイズされることが求められます。ワイン会の雰囲気とは異なるものですね」と語る。

ふたりがいうように、オープンで開催されている限りは、clubhouseはリモートワイン会を主導するには程遠いようである。クローズドのプライベートroomが増えてくる可能性はあるが、それであれば顔とボトルが見えるほうがいいのかもしれない。

 

4. リモートワイン会のスタイル

リモートワイン会もいろんな趣向や種類があるが、大きく2つに分けてみる。


A. 時間を決めて有志が集合し、それぞれが自分の用意したワインや料理を楽しみながらリモートでのチャットを楽しむ。
→いわゆるプライベートな飲み会。

B. 主催者が設定したテーマによってワインを用意し、生産者や関係者とのチャットを楽しむ。セミナー形式のものも多く実施されている。
→輸入元や飲食店、生産者、プロデュース会社などが主催。


B. は要素として企画ワイン会やメーカーズディナーに近く、ワインを楽しむ趣向としてイベント性もあり、満足度は高い。生産者の話が直接聴ける、産地の様子を見ることができるこの種のイベントが激増し、愛好家にとってよりワインへの理解を深めるチャンスが増えたことは喜ぶべきだろう。しかし、不特定多数の参加者との呉越同舟となるので、リラックスしたプライベートの会とは異なるものだ。

A. の最大の問題点は、一緒にワインを飲んでいるという感覚が希薄だということに尽きる。時間を決めてモニターの前に集まり、各自好きなものを飲むわけだが、要はただ集まって飲んでいるだけ。それぞれ飲んでいるものや食べているものがバラバラなため、1本のボトルをその場にいる人で分かち合い、感想を述べ合ったり、料理とワインのマリアージュを楽しむという、ワイン会本来の楽しさが決定的に欠けているのである。

A. をB. のスタイルに近づけることができれば、単なる飲み会がランクアップし、充実度は高くなるかもしれない。

後編では、果たしてそんな方法があるのかどうかについて考えてみる。

谷 宏美/Hiromi Tani 

ワインライター/エディター。ファッション誌のビューティエディターを経てフリーランスに。ワイン・フード・ビューティのジャンルでコンテンツ制作・執筆を手がけつつ、夜は渋谷のワインバーでサービスを行う二足ワラジワーカー。パートナーは人間ひとりと猫4匹。主食は肉、好物はバタークリームとあんこ。J.S.A.認定ワインエキスパート。

 

豊かな人生を、ワインとともに

(ワインスクール無料体験のご案内)

世界的に高名なワイン評論家スティーヴン・スパリュアはパリで1972年にワインスクールを立ち上げました。そのスタイルを受け継ぎ、1987年、日本初のワインスクールとしてアカデミー・デュ・ヴァンが開校しました。

シーズンごとに開講されるワインの講座数は150以上。初心者からプロフェッショナルまで、ワインや酒、食文化の好奇心を満たす多彩な講座をご用意しています。

ワインスクール
アカデミー・デュ・ヴァン