ワイン・エキスパートの試験に出ない面白クイズvol.1〜歴史上の人物編

ワイン・エキスパート、WSET、MWみたいなワイン系の難関資格試験に合格するには、いろんなことを覚えなきゃならない。このシリーズでは、受験勉強には何の役にも立たないし、知らなくてもなにも困らないけれど、誰かに話したくなる面白雑学系の知識をクイズ形式で紹介する。第1回目は「歴史上の人物が関係したワイン」について。

文/葉山 考太郎


【目次】

1.問題1:大統領が命名したシャンパーニュは?
2.問題2:「最初にイケムを飲んだ日本人」はだれ?
3.問題3:独立宣言の乾杯のお酒は?
4.問題4:トーマス・ジェファーソン大統領所有の「ジェファーソン・ボトル」とは?


問題1:以下の超有名なプレスティージュ・シャンパーニュの中で、大統領が命名したのはどれ?

(1)セレブリス(ゴッセ)
(2)グラン・シエクル(ローラン・ペリエ)
(3)ベル・エポック(ペリエ・ジュエ)
(4)グランダネ(ボランジェ)

 

答え1:(2) グラン・シエクル(ローラン・ペリエ)

1940年、ローラン・ペリエの前当主、ベルナール・ド・ノナンクールが17歳の時、ドイツ軍のトラックが15台、サロンの前に止まり、サロン1928年などケースで大量強奪。それを見たベルナールは小さいころから憧れのサロンが奪われたと大きなショックを受ける。

怒りに燃えたベルナールは直ちにフランス軍に入隊し、レジスタンスとしてドイツ軍と戦った。アルプスにあるヒトラーの山荘「ケールシュタインハウス」、通称、「鷲の巣」で、ベルナール軍曹は、強奪されたサロン1928年を奪い返す大戦果をあげる。

終戦後の1950年代、大手生産者はメゾンの頂点として、ドン・ペリニヨン、クリスタルなど、高価なプレスティージュ物を出していた。ローラン・ペリエの当主となったベルナールも、プレスティージュ物を作ろうと考える。ベルナールが最初にこだわったのが名前。第二次世界大戦を勝利に導いた将軍にして大統領のシャルル・ド・ゴールに手紙を書いた。

「いくつか、名前の候補があるのですが、どれがいいでしょうか?」。大統領は、すぐに返信。「もちろん、『グラン・シエクル』だよ、ベルナール君」。かくして、「仏語で偉大な世紀を意味する名品」が誕生することに。大統領が命名したシャンパーニュは今のところ、これだけ。

問題2:デザート・ワインの圧倒的最高峰が、泣く子も笑うシャトー・ディケム。同シャトーのウェブ・サイトにも載っている「最初にイケムを飲んだ日本人」はだれ?

(1)福沢諭吉
(2)大隈重信
(3)東郷平八郎
(4)明治天皇

 

答え2:(4) 明治天皇

急激に文明開化を進めた明治時代、海外から国賓を招く宮中晩餐会でどんな食事、食器、グラス、カトラリー、ワインを出せばいいかを暗中模索した。

明治21年~39年の宮内庁大膳課『予備品録』に、宮中晩餐会用にどんなワインを何本、いくらで購入したかを明記してあり、以下のワインが載っている。

●明治二六年度
「仏国製赤葡萄酒シャトーラローズ百箱」一七五〇円
●明治二七年度
「シャトイケン一五箱」四九五円
「シャトイケン二三瓶」五七円五二銭
「三鞭酒モヱーシャンドン五箱」一七六円

上記で、「シャトイケン」は、シャトー・ディケム、「三鞭酒」はシャンパーニュ、「モヱーシャンドン」はモエ・エ・シャンドンのこと。明治30年頃、小学校教諭や警察官の初任給が月に8~9円、熟練の大工で月20円だったことから、当時の1円は今の2万円とすると、1本の価格は以下の通り。

「シャトーラローズ百箱」一七五〇円 ⇒1本29,600円(当時1.48円)
「シャトイケン一五箱」四九五円 ⇒1本55,000円(当時2.75円)
「シャトイケン二三瓶」五七円五二銭 ⇒1本50,000円(当時2.50円)
「モヱーシャンドン五箱」一七六円 ⇒1本58,600円(当時2.93円)

イケムは今より少し安めで、モエは今の8倍ぐらい?
なぞは、「シャトーラローズ」が現在の何か不明であること。第1候補はサンテミリオンのグランクリュ・クラッセのラローズ。

創立が1840年(天保11年)なので、時代的に矛盾しないけれど、当時、サンテミリオンは地元限定の超ローカルなワインで、1980年代にロバート・パーカーが「発見」するまで、国際マーケットに登場しなかったことや、ラローズの現在の流通価格が3,000円~4,000円で、宮中晩餐会用には安すぎることを考えると、これじゃないかも。

第2候補はサン・ジュリアン村の2級、名門のグリュオー・ラローズ、第3候補は、ブルジョワ級のラローズ・トラントドン。どれもそれらしいし、どれも違うような……。ご存じの方、ご一報ください。

 

問題3:アメリカが独立を宣言したのが1776年7月4日。独立宣言の席で、ジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソン、ベンジャミン・フランクリンらが乾杯したお酒はなに?

(1)シャンパーニュ
(2)バーボン
(3)スコッチ
(4)マデラ

 


答え3:(4)マデラ

米独立宣言文の起草者の1人であり、後にアメリカの第3代目の大統領となるトーマス・ジェファーソンは、ワインとマデラが大好きで熱狂的な収集家。で、アメリカの独立を盛大に祝うため、秘蔵のマデラを出したそう。この話は、ポルトガルからマデラの生産者が来日するセミナーでは必ず披露する。
シェリー、ポートとともに、マデラは世界三大酒精強化ワイン。ワイン・エキスパートの頻出問題なので、覚えている人は多い。シェリーやポートと決定的に違うのは、マデラは加熱熟成させること。いわゆる「マデラ香」の素になる。

ワインは熱に弱いのに、あえて、熱を加えることで酸化させ、マデラのあの風味を出している。また、アルコール度数と酸が非常に強いため、コルクが縮まないように、寝かせず立てて保管するのも大きな特徴。

ワイン・エキスパートの受験勉強では、マデラの名前や場所は覚えるけれど、実際に飲んだ人は沖永良部島の人口の半分以下? ヴァン・ジョーヌとともに、「知っているけれど飲んだことがない2大ワイン」がこれだろう。

少し暑くなる初夏の7月4日、アメリカ人の友人がいたら、3代目大統領のトーマス・ジェファーソンの気分になり、マデラを飲んで独立記念日をお祝いしてみては?

 

問題4:アメリカのワイン大好きの大統領、トーマス・ジェファーソンに関連してもう1問。ワインのオークションでこれまでの最高の落札価格は、10万5000ポンド(現在の3,000万円)。

これは、1985年、ロンドンのクリスティーズが主催した競売で出たトーマス・ジェファーソン所有の1787年物のワインについた価格。この通称、「ジェファーソン・ボトル」は今の5大シャトーの1つだけれど、どれだろう?

(1)ラフィット
(2)ラトゥール
(3)シャトー・マルゴー
(4)オー・ブリオン
(5)ムートン

 

答え4:(1)ラフィット

トーマス・ジャファーソンは、アメリカの5セント硬貨と2ドル紙幣に肖像を残すアメリカ大統領。フランス革命の頃、駐仏大使となり、ワインにハマる。

特に、シャンパーニュとシャンベルタンを好んだらしい(ワインにハマっている日本の愛好家から見ると、「当たり前だろ」「私もそうです」の気分?)。

収入の1/3もワインに注ぎこんだりと、日本の熱狂的なワイン愛好家と変わらない。ホワイトハウスでの大統領主催晩餐会は自分で仕切り、シャンパーニュ1本で3.14人分取れると計算するなど、今なら、世界ソムリエ選手権のアメリカ代表になったはず。

ソムリエの才能だけでなく、いろいろな分野で物凄く多才な人で、発明家や建築家としても超一流の才能を発揮。大統領も「才能」の1つかも。

日本では、中学生でも「ロマネ・コンティ」を知っているけれど、アメリカでは、女子高生でも知っている超人気ワインが「ラフィット」。

ちなみに、世界最高価格で落札された「ジェファーソン・ボトル」には、Thomas Jeffersonのイニシャル、「Th.J」が彫ってあるけれど、当時の技術ではガラスの表面にこんな加工はできなかったらしい。かくして、「偽物ワイン」として大騒動に。

葉山考太郎/Kotaro Hayama

シャンパーニュとブルゴーニュとタダ酒を愛するワイン・ライター、翻訳者。ワインの年間純飲量は 400リットル超。これにより2005年、シャンパーニュ騎士団のシュヴァリエ、2010年に同オフィシエを授章。
主な著書は『クイズでワイン通』『クイズワイン王』『今夜使えるワインの小ネタ(以上講談社)』『30分で一生使えるワイン術(ポプラ社)』、主な訳書は、『ブルゴーニュ大全(白水社)』『オレンジワイン 復活の軌跡を追え!(美術出版社)』。

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