まあみんなわかっていたことではあるけれど、過去30年でワインのアルコール度数が確実に上昇していることが、高級ワイン投機市場Liv-exのデータで示された。今回は、その上昇するアルコール度数と、昨月この世を去ってしまった偉大なカリフォルニアの醸造家、ジム・クレンデネンの関係について考えたい。
文/立花 峰夫
【目次】
1. 上昇するアルコール度数
2. ジム・クレンデネン逝去
3. 居酒屋解説:ジムの思い出
1. 上昇するアルコール度数
ロンドンにある高級ワイン専門の取引市場Liv-exは、自社倉庫にある多様な年代の膨大な高級ワイン在庫のアルコール度数(ラベル記載値)をチェックし、そのデータをこのたび発表した。
http://www.liv-ex.com/2021/06/alcohol-levels-wine-rising-proof/
対象になったのは、ボルドー、ブルゴーニュ、カリフォルニア、ピエモンテ、トスカーナの5地域で、確認されたボトルは合計で1.3万本ほど。
ラベルに記載されるアルコールの数値は、EU諸国では0.5%、アメリカ合衆国では1または1.5%(アルコール14%を超えるものは1%、14%以下は1.5%)の「誤差」が認められているから、上記グラフのデータは実測分析値とは若干のずれがある可能性はある。とはいえ、傾向を大づかみにするうえでは問題ないはずだ。
総じて過去30年間でアルコール度数が上昇していることが、上記グラフからはわかる。ただし、1990年代と2000年代を比べたときには、すべての産地でアルコール度数が上昇しているものの、2000年代と2010年代を比べたときには、カリフォルニア、ピエモンテ、ブルゴーニュのように減っている産地もある。
アルコール度数上昇の背景にあることが、地球規模での気候変動と温暖化であることは間違いない。気温が高くなれば、原料ブドウの糖度上昇速度が早まり、高い糖度のブドウからは、(アルコールを減じるための人工的処置を取らなければ)高いアルコール度数のワインができる。
ただし、ブドウを早く摘む、ワインの枝葉の展開の仕方を変えることで果実の糖度上昇を抑えるといった「対策」はいろいろあるから、温暖化=高い果汁糖度=高いアルコール度数になるわけではない。
ブルゴーニュのように冷涼な産地では、かつては補糖によるアルコール度数の嵩上げが常態であったが、温暖化によってその必要がなくなったことも考慮しなければならない。潜在アルコール度数12%のブドウに1%分の補糖をしていたところでは、潜在アルコール度数13%のブドウが取れるようになれば補糖の必要がなくなる。最終的なアルコール度数は変わらずだ。ブルゴーニュのアルコール度数上昇が控えめなのは、このあたりに原因がある。
また、アルコール度数の上昇には、温暖化だけでなく生産者のスタイル選択という要素もある。2000年代に、アルコール度数が激増したカリフォルニアがまさにその例だ。この時期、とにかく濃いワインがもてはやされたこの産地では、過熟気味のブドウから高いアルコール度数を造ることが流行ったのだ。しかし、2010年代に入り、その振り子が揺り戻しを始めた。その結果、地球温暖化は加速し続けているにもかかわらず、カリフォルニアのアルコール度数は若干下がっている。