【永久保存版】カベルネ・ソーヴィニョンとは? 世界最強のブドウ品種の特徴からおすすめワイン産地まで徹底解説

カベルネ・ソーヴィニョンは、ワイン用のぶどう品種として栽培面積世界最大*。高貴品種として、素晴らしいワインが造られているのも事実で、ワイン評論家の評価でも高順位の常連です*。一般の消費者にとっても、香りや味わいはわかりやすいですし、何度か味わうとまた飲みたくなる常習性があります。

デビューはさほど早くもないのに瞬く間に世界を席巻。栽培する生産者達を有名人に押し上げます。各地の土着のブドウも懐柔してブレンド・パートナーにもちゃっかりなって気が付くと目立っています。そしていつの間にか勢力を更に拡大していきます。

カベルネ・ソーヴィニョンは世界最強です。

本記事では、この品種の特徴や代表的な産地を深堀してしっかり学でいきます。本記事の内容を頭に入れておけば、レストランでもソムリエとの会話も楽しみながらじっくりワイン選びができることはもちろん、カベルネ・ソーヴィニョンの知識に関して言えば、通と言われるレベルになれるはずです。

*1:世界トータルの栽培面積は 1998 年時点の 14.6 万ヘクタールから2017年の統計では、34万ヘクタール。この20年で2倍です。

*2:オークションでもカベルネを使ったカリフォルニアのカルト・ワイン、スクリーミング・イーグル1992年は、あのロマネコンティ1945年と1,2位を争う5千万円ほどの驚くべき高値を付けています。

やはりカベルネというブドウは生産者を高みに押し上げる魔法をもっているとしか思えません。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】

  1. 歴史はボルドーから始まる
  2. 貴族達の飲んだボルドー・ワインはマルベック!?
  3. 好き嫌いを言わない健康優良児~温度帯と土壌の特徴
  4. 友達作りの達人~産地に溶け込むブレンド戦略
  5. ピーマン香は敵か味方か~メトキシピラジン
  6. カベルネのワインを造ろう~栽培と醸造
  7. 熟成させたカベルネを飲もう~香りと味わい
  8. カベルネの足跡~主要産地
  9. あとがき

1. 歴史はボルドーから始まる

カベルネ・ソーヴィニョンはボルドーから世界に広がって行きました。カベルネ・フランとソーヴィニョン・ブランの自然交配によって生まれた品種です。解明したのは、カリフォルニア大学デイヴィス校のキャロル・メレディス教授ですが、彼女自身はほとんど思いがけない偶然で見つけたと謙虚で、おそらくは1700年代からひどい霜害の中をボルドーで生き抜いてきたのだろうと語っています。

書き物で確認できるのは、プチ・カベルネの名前で会計帳簿に登場した18世紀後半。カベルネ・ソーヴィニョンという今日の呼び名は19世紀半ばまで見られません。親のソーヴィニョン・ブランは16世紀には歴史には登場していますから、遅めの子供だったのか、暫くは目立たなかったということでしょう。

メドックは水はけが悪い沼地で、重要な産地となるのは、16世紀末から17世紀に入ってオランダ人エンジニア達が沼地の干拓を始めてからです。この頃になると、色も濃くて高品質なワインがグラーヴやメドックで徐々に造られる様になって、18世紀初頭にはニューフレンチ・クラレットとして知られる様になります。

今のメドックのムートンを除く格付け1級のワインは高級ワインとして取り扱われ、時のイギリス首相のウォルポールはそのうちのひとつ、ラフィットを3か月に1度樽で買っていたと言います。でも、まだフランスの宮廷ではボルドーはさほど人気では無くて、ブルゴーニュが好まれていました。

そうした時代に、ルイ15世より1755年にギュイエンヌ総督に任命されたマレシャル・ド・リシュリューがラフィットを紹介。高い評価を受けて、宮殿で評判が広がり、かのポンパドール夫人も愛したと言われています。

当時の駐仏大使を務めたトマス・ジェファーソン(のちの第三代アメリカ大統 領)も、18世紀末にボルドーを訪れ、マルゴー、ラトゥール、オー・ブリオン、ラフィットの四シャトーを高く評価します。1814年のナポレオン戦争に敗れたフランスが戦後処理のウィーン会議で、オー・ブリオンを振舞って交渉を有利に進めたというのも有名な逸話です。

とはいえ、ボルドーの知名度を決定的にしたのは、今日も残る格付け制度です。これは、1855 年開催のパリ万博に出展するため、ナポレオン三世の命を受けたボルドー商工会議所が、クルティエ(仲買人)の組合に依頼して作成させたもの。取引価格によって、5 つの階級にシャトーが分類されました。

カベルネ・ソーヴィニョンが黒ブドウの王になれたのは、このように脈々と続くボルドーの威光があったからです。

2. 貴族達の飲んだボルドー・ワインはマルベック!?

ところが、メドックでカベルネ・ソーヴィニョンが主要品種の地位についたのは、フィロキセラ禍のあと、つまりは 19 世紀後半以降のことです。

過去に遡るとボルドーでは、カベルネやメルロが常に大半を占めていたわけではないのです。19世紀初頭のフィロキセラ以前には、マルベックがボルドーでは黒ブドウの栽培面積の5~6割と最大栽培面積を占めていて、オー・メドックでは半分から三分の一程度がカベルネ、残りがマルベックとメルロ等だった様です。

その後、19世紀のフィロキセラやうどん粉病などで大打撃を受けたボルドーは、大規模な改植を余儀なくされたのです。

マルベックは18世紀末にはラフィットの主要品種で、その後はシラーまで栽培していたとか、ラトゥールでは、マルベックとカベルネが主要品種として扱われていたと言う話もあります。一方で、カベルネ・ソーヴィニョンの普及に功績があった、ヘクトール・ド・ブラーヌ男爵所有のムートン・ロートシルトは、カベルネ・ソーヴィニョンしか使わずにワインを造っていたこともあると言います。

勢力があったマルベックですが、フィロキセラ後は改植の対象になります。そして更に1956年の霜害が致命傷となって、カベルネやメルロなどへの移行が加速することになります。今はチリで有名なカルメネールも同様な末路をたどりました。

この様に見ていくと、今日のボルドー左岸のワインとはだいぶ味わいが異なるものが、当時の貴族達には飲まれていたのだろうと想像できます。

現在、ボルドーでは黒ブドウではポルトガルのトゥーリガナショナル等の新しい品種を栽培する事が許された所です。もしかしたら今から100年も経てばボルドーのワインは、今とはだいぶ違ったブドウ品種で造られる、味わいも異なったワインが主流になっているかも知れません。

3. 好き嫌いを言わない健康優良児~温度帯と土壌の特徴

カベルネは、カリフォルニア大学デイヴィス校による積算温度による区分で、リージョンⅡからリージョンⅣにかけての幅広い産地で栽培が可能です。

グレゴリー・ジョーンズ博士による生育期間の平均気温による分類では、16℃から20℃とかなり広い範囲で栽培が可能とされています。14℃から16℃というピノ・ノワールと比べると遥かに対応範囲が広いと言えます。

幅広いタイプの土壌に適合し、他の品種ほど、土壌との関係性が話題になりません。ボルドー左岸地区 に見られる砂利質土壌は最適のもののひとつですが、合理的な理由があります。砂利質の土壌は水はけが良いだけでなく、有機物も少ない痩せた土壌です。太陽光の熱も蓄えてくれるので、春先に温まるのも早いのです。収穫期にも保熱されていて、収穫も早くできます。

しかし、ブドウの生育期間中に雨が降らない新世界の産地では、水はけの良さはさほど気にしません。ただし、土壌が肥沃すぎると樹勢が強くなりすぎ、結実や成熟にムラが生じます。

新世界では珍しく注目を浴びる土壌としては、オーストラリアのクナワラ地区に見られるテラ・ロッサという土壌があります。石灰質の下層土の上に載った、赤いローム層から成るもので、鉄分が高く赤茶けた色をした表土です。この地の石灰質は水はけが良い上に、必要な水分は蓄えられて乾燥した時期にも水分供給ができるのです。

4. 友達作りの達人~産地に溶け込むブレンド戦略

ボルドー左岸では、カベルネ・ソーヴィニョンにメルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドといった補助品種をブレンドします。生育サイクルの違いを利用してヴィンテージによる天候の変動リスクを分散させているのです。晩熟で、完熟するためにはかなりの気温・日照を必要とするブドウなので、早熟のメルロやカベルネ・フランも栽培することがリスク低減になります。

ブレンドによる風味の複雑化もメリットです。メルロは果実味とアルコールを、カベルネ・フランは香りの華やかさを、プティ・ヴェルドはスパイシーさをもたらします。

ボルドー品種のブレンドワインは、新世界ではメリタージュと呼ばれる事があります。1980年代にアメリカ生産者が名付けて、その後、メリタージュ協会を立ち上げました。近年、新世界各地でその土地の固有種とのブレンドが増えてきたので、この単語の使用頻度は減ってきました。

新旧世界を問わず、ボルドーのように霜害や秋雨の心配がない産地では、天候リスクを避けるための補助品種ブレンドというのは必要がなくなります。ただ、そうした産地でも、風味の複雑性を目的に、あるいは歴史的背景からメリタージュを造ることや、土着の品種と上手く長所を引き出し合いながらブレンドすることは少なくありません。

オーストラリアではシラーズとのブレンドが有名です。このブレンドは、古くは1865年にプロヴァンスで、長梢剪定のギュイヨを紹介したドクター・ギュイヨが推奨しましたが、オーストラリアで広がるのは1960年代と最近です。世界的に有名になるのも、ペンフォールズのマックス・シューバートがボルドーへの訪問で着想を得て、1951年にグランジを世に出し、1960年代から大いに注目を集める様になってからでした。

もちろん、単一品種のワインに重きを置く生産者もいますが、骨格のしっかりしたカベルネとスパイシーで果実味が豊富なシラーズのブレンドこそが、オーストラリアのワインだと胸を張る生産者もいます。

他にも、トスカーナではサンジョヴェーゼとブレンドすることで、スーパー・タスカンを生み出すことが有名です。スペインでは、テンプラニーリョとのブレンドが見られます。

5. ピーマン香は敵か味方か~メトキシピラジン

温暖な気候でないと、青っぽさが出てしまうのは親譲りです。カベルネ・ソーヴィニョンとその両親のカベルネ・フラン、ソーヴィニョン・ブラン等に現れるこの青っぽさは、メトキシピラジンという化合物が原因。ソーヴィニョン・ブランなどの白ワインなら1 ~ 2 ng/L、赤ワイ ンだと 15ng/L程度が閾値です。この物質は、日光によって分解されて量が減っていくので、果実の成熟度合いのバロメーターと考えられています。特に重要なのは、メトキシピラジンの大半を占めるイソブチルメトキシピラジン(IBMP)というピーマン香を出す化合物です。

もっともボルドーでは青っぽさは必ずしも悪いという認識ではありません。フレッシュさと味わいや香りの強さとのバランスで、上手く収穫を行えば良いという生産者もいます。適量のメトキシピラジンは、ワインに複雑性を与える要素としてプラスという考え方です。

温暖と思いがちなカリフォルニアでも一昔前まで、冷涼で風も強いモンテレー地区では、モンテレー・ベギー(Monterey veggies/モンテレーの野菜)とあだ名を付けられていました。当時、この産地で育ったカベルネ・ソーヴィニョンから青っぽさを取り去るのは難しかったからです。カリフォルニアでは、メトキシピラジンの香りは嫌われていました。

発酵用の培養酵母の中には、カベルネ・ソーヴィニョンなどの青臭さを減らして果実味を高めると訴求するものも販売されています。

新世界では嫌われがちなメトキシピラジンですが、オーストラリアのマーガレット・リヴァー地区やクナワラ地区では涼し気なミントの味わいとして受け入れられるようになってきていますし、逆に、あまり暖かい環境で長期間に渡ってメトキシピラジンの減少を待っていると、ブドウが過熟してジャムっぽくなってしまいます。

6. カベルネのワインを造ろう~栽培と醸造

栽培

カベルネは芽吹きも収穫も遅い品種です。ですから遅霜にはある程度は耐性が有ると言えます。一方で秋雨には被害を受ける事があります。ウドンコ病にはかかりやすいですが、全体的に病気にかかりにくく、栽培しやすい品種です。

ただし、ユータイパやエスカにはかかりやすいところがあります。これらはブドウの幹の病気で、欧州では深刻な問題になっています。剪定などの傷跡から菌類が感染して、数年から10年程度で収量が低下した後にブドウ樹が死んでしまうものです。

樹勢が強く、台木は樹勢を抑えられるようなものにするのが理想的です。植樹密度は、ボルドーではヘクタールあたり 8,000 から1万本にも及ぶ高密植の畑が見られますが、新世界ではもっとまばらです。

過去20年は悪天候への懸念から収穫は短い期間で行なわなければならなかったので、2週間程度がいわゆる収穫の窓でしたが、今では1ヶ月半くらいの期間から造り手が自分の望むスタイルを念頭に収穫時期を選択できるになりました。早飲みをする傾向が消費者にあるので、タンニンもこなれている必要が出てきました。

カリフォルニアでも、あっという間に最適な成熟タイミングが来てしまうピノ・ノワールに比べると、カベルネ・ソーヴィニョンはリラックして収穫時期を待てると言います。

収量は中程度で、ピノ・ノワールでは品質を保つことが厳しくなるような高い収量でも優れたワインを生むことが可能です。メドック地区の格付けシャトーでも、50 ~ 60hl/ha程度は確保しています。ボルドー全般では収穫は9月から10月で、未だ機械収穫の方が割合は多いようです。

ボルドーでは豊作が予想される年を含めて、摘房は幅広く行われます。凝縮度が高く、カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニョンと見まがうばかりのスタイルのワインもあります。

カリフォルニアのように温暖な産地では、さらに収量が高くなります。灌漑によって収量を上げてもカベルネ・ソーヴィニヨンの特徴を維持できるというのは、強みと言えるでしょう。

カリフォルニアでは、収穫を遅らせてブドウが過熟するのを待つという「ロング・ハンギング」という手法がありました。アルコール度数も高いので水で希釈する必要もでてきます。この手法を取る生産者は、減って来ていますが、香りや味わいも素晴らしく、タンニンも柔らかくなると主張する生産者がいます。

他方、遅く収穫するというのは、ワインが生まれてくるテロワール、土地の個性を失わせるという声もあります。本来収穫すべき時期を超えて早摘み或いは遅摘みをすることは、たとえ美味しくとも、どの産地のワインなのか判らなくなる危険性をはらむという事です。

長梢剪定に向くブドウで、ボルドー地方ではギュイヨという仕立て方が伝統的に用いられています。カリフォルニアでは短梢剪定が一般的で、シングル・コルドンやダブル・コルドンが広く用いられています。樹勢が強い場合には、通常の垣根仕立てとは逆に下向きに枝葉を垂れ下げた形の、カリフォルニア・スプロールで仕立てる事もあります。コストは掛かりますが、大型でU字型のリラ(竪琴)仕立てで強めの樹勢を抑える生産者もいます。また、幹の病気の被害に遭いやすので、剪定で大きな傷をつけないように注意が必要です。

気候変動

ボルドーでは気候変動の影響が続いています。温暖化と一言では片づけられず、乾燥、熱波、雹や霜と言った様々な被害がエスカレートして発生しています。根を地中深くに張り巡らせているブドウ樹はともかく、若木への影響は深刻です。そこで、環境の変化に適応した栽培が考えられています。剪定の時期を変えたり、除葉を減らして太陽光を遮るようにしたり、植栽密度を落としたりという工夫です。土壌改良や農薬の低減、ブドウ樹以外の植物の植栽など、環境再生型農業も注目されています。

1970年代半ばや80年代後半のヴィンテージの様に、ワインが開くまで四半世紀待たなければならないものに比べて最近は、気候変動のせいでブドウの熟度は上がるし、フェノール類も上手く成熟します。早くから楽しめるワインが造れると言って、ボルドーでは気候変動は極めてポジティブだと話す特級シャトー当主もいますが、そうは言っても、やはり大変なのです。

醸造

カベルネ・ソーヴィニョンは小粒で種に対して果肉の比率が少なく、また果皮も厚いブドウです。だから、タンニンのレベルも高くてワインの色合いも濃いものになります。

この豊富なフェノール成分を抽出するため、醸造温度は高めで30℃程度になることも稀ではありません。醸しも長く伝統的に3週間程度を行われ、場合によっては3か月に渡って行う生産者もいますが、逆に早飲みのワインを造る場合には数日間で醸しを終える場合もあります。

また、新樽との相性の良さは圧倒的です。果実のカシスの香りがヴァニラや焦がしたスパイスの様な香りにとても良く合うのです。

一方で、オーストラリアやカリフォルニアでは更に香りが立つアメリカン・オークが使われる事もあります。しかし、近年の新樽の使い過ぎへの反動で、フレンチ・オークを加えてバランスを取ることや、そもそも新樽自体の使用比率を落とすという傾向があります。

収穫をやや遅めにする「ロング・ハンギング」への反動で収穫時期も早まって来ています。抽出も控えめにして、ルモンタージュもこれまでより回数を増やす一方で優しく行う事により、一回当たりのブドウへの負荷を減らす生産者もいます。これは、溌剌としたワインスタイルが好まれる様になってきた時代の流れが背景です。熟成容器についても、新樽主体から古樽や大樽、或いはアンフォラやコンクリート・エッグを使用するという取り組みもされています。

カリフォルニアには、発酵前の低温漬浸は果皮が厚いカベルネではあまり抽出が期待できず、効果が無いという生産者もいます。一方で、オーストラリアの生産者の中には、色合いも深みを増して、香りや味わいにも良い影響があり、触感も増すとの評価をする生産者もいます。

おもしろいのは、オーストラリアでは一部の生産者が、マセラシオンカルボニックを取り入れ、ソフトで明るい色、タンニンも控えめで明るい果実のエステル香の豊かなワインを造っていることです。

発酵後の醸しは、収斂性や苦みを増して長期熟成にも耐えうる様なワインになるという考え方で、高品質ワインを狙う生産者中心に行なわれます。

また、ボルドーではコンサルタントの存在が大きく、収穫や醸しの期間などに違いが出ます。遅摘みで完熟ブドウに拘ったミシェル・ローランや、穏やかな抽出とプレスワインの活用やアルコール発酵とマロラクティック発酵を同時に行う事を支持したエリック・ボワスノは有名です。

クローン

クローンとは、ひとつの品種の中のサブタイプのようなもので、同一の遺伝子をもつ苗木群を指します。現在フランスでは、約 20 種類のクローンが公式に登録されています。1970 年代に開発されたクローンは収量が品質よりも優先されたものでしたが、徐々に品質重視の新しいクローンに取って代わられています。

ボルドーで多く使われているクローンでは、169は収量が低めで熟成に向くワイン用です。ボルドーに加えて、南西地方他で栽培されています。337からも豊かで骨格がある熟成に向くワインが造られます。一方、15は収量が高く、生産量と品質とのバランスを取った栽培がされています。

カリフォルニアで最も広く植わっているのは FPS07 と収量の高いFPS08 のクローンです。FPS06 は品質面が高く評価されているクローンですが、FPS08と比べると収量が6 割程度しかありません。アルゼンチンのメンドーサから来た FPS04 も人気の高いクローンです。このほか、糖度が上がり早摘みに適応性があるFPS22やFPS24などが有ります。

オーストラリアでは70年代から90年代は収量の多いクローンが使われてきましたが、今ではマーガレット・リヴァー地区のホートン・クローンが有名です。最近のマサル・セレクションで選択されたもので、タンニンが成熟して糖度も上がり過ぎず、タンニンと糖度の上昇を上手く同期できて品質が良いと評価されています。南アフリカから19世紀半ばに渡ってきたクローンと考えられており、暫くは顧みられることがありませんでしたが、1990年代に入ってから見直されました。

南アフリカでは、CS46が最も一般的です。他にも336や337、338などが使われます。

台木

カベルネ・ソーヴィニョンは非常に樹勢の強い品種で、樹勢の弱い台木を用いる必要があります。

ボルドーでは、リパリア・グロワール ・ド・モンペリエ(RGM)と3309Cが主流です。

1970年代にパリ対決で世界にその名を知らしめたカリフォルニアでは、収量を確保する為にAXR1という台木が使用されていましたが、80年代にフィロキセラがカリフォルニアに入ってくると耐性が無いことがわかり、90年代には他の台木に変える事になりました。SO4は肥沃で水の供給の心配がない土地で上手く適応し、一方、1103P は水をそこまで必要とせずに荒れた土地でも育ちます。

7. 熟成させたカベルネを飲もう~香りと味わい

カベルネの魅力は、果実味と樽風味、そして発酵・熟成によって生じた様々な風味が複雑に反応しあって形作られているもので、シンプルな果実味中心の赤ワインにはない深みがあります。カベルネの香味を表す代表的な表現としては、カシス、ブラックベリーといった黒系の果実香、フレンチ・オークもトーストの程度に依って香りが異なってきます。

そして熟成すると第3アロマ、つまり熟成香のブーケであるタバコ、皮革の香りなどが現れます。

こうした長期熟成に依る複雑な香りや味わいが、カベルネ・ソーヴィニョンの持ち味と言えます。メルロ、テンプラニーリョ、ネッビオーロ、クシノマヴロ等と並んでとても含有量の多いフェノールが、天然保存料としてワインの劣化や酸化を抑えます。

酸も高くてpHが低いことも、劣化や酸化を抑え、微生物的にも安定します。また、フルーツの凝縮度が高いと熟成可能性も高くなります。

ワインは熟成するに伴って、様々な種類の酸や糖分、アルコール、フェノール類が反応を繰り返してブーケを生み出しますが、まだまだそのメカニズムは十分に解明されていません。

バナナの香りを生む酢酸イソアミルやヘキサン酸エチルを含め、ワイン中にあることが現在確認されている300程のエステル香は、主として若い白ワインで新鮮な果実味として感じられます。しかしながらエステルは、ワインの熟成期間中に時間と共に反応を繰り返す中で、新しい香りを生むという研究もあります。

リンゴのコンポートの様な香りを生むβ-ダマセノンは短い熟成の後にピークに達して少しずつ減少し、モノテルペン系のリナロールや薔薇の香りを生むゲラニオールは急速に減少していきます。他方、フェノール系のグアイアコールや丁子の香りを感じるオイゲノールは時間と共に増加していきます。リースリングのペトロール(石油)香で有名なTDNも時間と共に増加していきます。ジメチルスルフィドルは例えば磯の香りとして熟成したワインで見つかり、品種香の減少と熟成香のブーケの増加との強い相関性が認められています。他にも肉やキノコのうまみを感じさせる化学物質についても研究されています。

熟成によって、香りや味わいに加えて色合いも安定し、タンニンの収斂性を和らげます。

こうした好ましい熟成は、時間を掛けてゆっくり進むと香りや味わいに深みを増すと言われます。メドックの格付けワインは、ピークを迎える迄の年月もナパなどの新世界のワインと比べると長くて、長熟だと言われます。果たしてそうでしょうか?

パリ対決

1976 年にスティーヴン・スパリュアが主催した伝説的な「パリ対決」。ムートン、オー・ブリオンなどボルドーでトップのカベルネを、当時はまだ無名のカリフォルニアワインのスタッグス・リープ・ワイン・セラーズが打ち破ったという出来事です。ボルドーの赤は生産されてから3~6 年しか経っていない若いワインであり、熟成させればカリフォルニアワインなど敵では無いとの負け惜しみも聞こえました。

10 年後の1986年に再戦が行われますが、結果は、またしてもカリフォルニアワインの勝利 です。1 位になったのは、クロ・デュ・ヴァル、2位もカリフォルニアのリッジでした。

さらに 20 年後、2006 年 にジャンシス・ロビンソン、ヒュー・ジョンソン、マイケル・ブロードベント他の錚々たるメンバーが審査員を務めた3度目の対決が行われます。ボルドーの格付けワインは30年の熟成期間を経て、まさに熟成のピーク。しかし、結局はカリフォルニアワインが 1 位~ 5 位を占めて圧勝する結果となりました。1 位リッジ、2位がスタッグス・リープ、5位がクロ・デュ・ヴァルという顔ぶれです。世界のどこで造られていようと、偉大なカベルネならば見事な熟成をするということが世界に示されたわけです。

 

8. カベルネの足跡~主要産地

フランス

カベルネ・ソーヴィニョン全体の半分ほどがボルドー地方に植わっていますが、南西地方やラングドック、プロヴァンスでも栽培されています。

同じメドックでも、サンテステフはオー・メドックのコミューン(村)の中では粘土質の土壌が有名で、最もメルロの比率が高い産地です。ポイヤックは左岸でも最も砂利質に恵まれた骨格のしっかりしたカベルネ・ソーヴィニョンを生む産地で、メドックの格付け1級の5大シャトーのうち3つまでもがこの産地で造られています。

その中でも筆頭格にあるのがシャトー・ラフィット・ロートシルト。1868 年以来、ロスチャイルド家が所有しています。イギリス系のムートンに対して、こちらはフランス系ロスチャイルド家により獲得されたシャトーです。

南西地方のベルジュラックでも、カベルネがブレンドされ、タンニンが強い事で知られるマディランでは主要品種のタナにブレンドされます。

ボルドーではスティル・ワイン以外にもロゼやクレレ(ロゼと赤ワインの中間的な色のワイン)でも、カベルネ・ソーヴィニョンが使われます。ロワールのロゼでも、カベルネはブレンドされます。中でも中甘口のカベルネ・ダンジュは良く知られています。同じロワールの赤ワイン、ブルグイユやシノンと言ったカベルネ・フランで有名なAOCでも、ブレンドが許されていますが、冷涼な気候の為にカベルネ・ソーヴィニョンが完熟するのは難しいと言えます。

アメリカ

カリフォルニア州

中心産地はカリフォルニアで、全ブドウ品種の中で栽培面積は第 1 位です。栽培面積にしても、品質においても、カリフォルニアはボルドーと並ぶカベルネ・ソーヴィニョンの第二の故郷と言っても良いでしょう。今や、カベルネ・ソーヴィニョンはカリフォルニアの中心産地ナパでの取引価格が他の品種を抑えて、圧倒的に高価格なブドウにまでなっています。

このカベルネも遡る事100年前になると、ブドウ品種の上位に影も形もありません。アリカンテ・ブーシェやプティ・シラー、ジンファンデルやカリニャンが主流でした。

大きく言うとナパのカベルネは、柔らかく果実味たっぷりの味わいとなる谷間の平地で栽培されたブドウから造られるワインと、引き締まった重厚なスタイルを生む山の斜面のブドウを用いたワインの二つのタイプに分けられますが、夫々のスタイルで高品質なワインが造られています。

この地を語る上で欠かせないのはカリフォルニアワインの父、故ロバート・モンダヴィと彼が 1966 年に設立したロバート・モンダヴィ・ワイナリーです。ナパが世界有数の銘醸地に成長していく過程で、モンダヴィがもたらした貢献は計りしれません。

ステンレスタンク、フレンチ・オークの小樽導入などに始まる栽培・醸造技術の革新そして、ワイン・ツーリズムの提唱。また、ムートンとの共同事業のオーパス・ワンなどの、海外ワイナリーとの提携も進めました。パリ対決1位のカベルネ・ソーヴィニョンを造ったスタッグス・リープは、モンダヴィの下でワイン造りをしていたウォレン・ウィニアルスキが独立して設立したワイナリーです。

父、チェーザレ・モンダヴィの時代のチャールズ・クリュッグ・ワイナリーでは第二次大戦後、畑の改植を進めて、カベルネ100%のワインを生産します。当時のナパ・ヴァレーではカベルネは殆ど栽培されていませんでした。カベルネ・ソーヴィニョンに魅了されたモンダヴィは、1962年にはボルドーを初めて訪れます。

そしてヴァラエタルワインというコンセプトを打ち出して、カリフォルニアの地に根付かせたのです。1970年代には赤ワインではカベルネ・ソーヴィニョンを核に据えたビジネスを展開します。

ワシントン州

ワシントンで栽培される黒ブドウ品種は、大半がボルドー品種です。その中でもカベルネ・ソーヴィニョンが最大面積を占めています。

カリフォルニアとはスタイルを異にしながらも、負けるとも劣らずというワインが見つかります。例えば、ヤキマ・ヴァレーのサブリージョンであるレッド・マウンテンは土壌が痩せていて、風も強く暑い気候ですが日較差が大きく、ブドウは酸を保持しながら豊満でタンニンも強いワインが造られます。小さいながらも、栽培が集中しているボルドー・ブレンド品種の有名産地です。

チリ

2017 年時点では4万3千ヘクター ルと、フランスに次ぐ栽培面積を有しています。1990 年代にチリのカベルネは存在感を高めました。低価格帯のヴァラエタル・ワインで世界に進出。高級ゾーンへの取り組みとしては海外との交流が盛んでした。ヴィーニャ・エラスリスはモンダヴィとセーニャを、コンチャ・イ・トロはムートンとアルマヴィーヴァを立ち上げます。

日本ではチリカベと言えば、いまだにスーパーやコンビニワインの安ワインの代表の様に思われますが、プレミアムワインにもかなり力を入れていて、欧米やアジアでも単価の高いワインが売れています。

カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培はアンデス山麓の痩せた土壌が有名です。山間に降りてくる冷涼な風による日較差から酸の高いエレガントなワインを造る為にも、また樹勢を抑える為にも都合が良いのです。マイポ・ヴァレーが最も重要な産地です。その中でも標高の高いアルタ・マイポ地区やサブリージョンのプエンテ・アルト地区が高品質カベルネの産地として有名です。

エラスリスはフラッグシップのヴィニエド・チャドウィックのカベルネをアルタ・マイポで栽培しています。一方、モンダヴィと造ったセーニャの畑は、太平洋から40キロ程の距離にあり、冷涼な影響を海から得ています。

セーニャの先進性は、当時のカベルネは100%の単一品種名ワインが中心だったところに、カベルネを半分程度に抑えて、チリを代表するブドウ品種の一つになったカルメネールをブレンドしているところです。暖かい年はカルメネールの比率を上げて、涼しい年には比率を落として良いバランスを求めるのです。

2004 年には、世界中の最高級カベルネをブラインドで戦わせた「ベルリン対決」において、ヴィニエド・チャドウィック1位、2 位がセーニャ、3 位がラフィッ トとなり、世界にチリのカベルネの名声が刻まれました。

チリはフィロキセラが入り込んでいない土地としても知られています。コンチャ・イ・トロはムートンとのプロジェクトであるアルマヴィーヴァと自社トップキュヴェのドン・メルチョー用のブドウをプエンテ・アルトで栽培していますが、この自社畑では大半が自根で栽培を行っています。

オーストラリア

2017年時点での栽培面積は 2.5 万ヘクタールで、シラーズに続く第 2 位の品種です。オーストラリアでもカベルネ・ソーヴィニョンのブドウ価格は値上がり基調にあります。

オーストラリアのカベルネといえば、南オーストラリアのクナワラ地区。この地ではシラーズよりもカベルネの方が多く栽培されています。ボルドーに近い気候と、テラ・ロッサ土壌が、快活なスタイルの優れたカベルネ・ソーヴィニョンを生みだします。

そして、温和な海洋性気候のマーガレット・リヴァー地区。北部を中心にカベルネが栽培されています。ボルドー・ブレンドが有名です。

オーストラリア全体としてみれば、アメリカン・オークの樽で熟成したり、カベルネとシラーズをブレンドしたり、ペパーミントやユーカリの香りが出る場合があったりというのが特徴とも言われています。

南アフリカ

昨今では、スワートランドの若手生産者に牽引されたシラーを始めとしたローヌ品種や冷涼なケープ・サウス・コースト地域のピノ・ノワールが注目を集めていますが、カベルネ・ソーヴィニョンは2017 年時点で1 万2千ヘクタールの栽培面積があり、黒ブドウ中の第 1 位で、シュナンブランの次に位置しています。

一昔前には、ボルドー・ブレンドが至る所で主流でしたが、今や、ワイン造りの首都ともいえるステレンボッシュ地区が、単一品種名ワインにしてもボルドー・ブレンドにしても中心地です。

イタリア

高級銘柄が集中しているのはトスカーナ州です。スーパー・タスカンの元祖サッシカイアオルネッライアの強い影響で、ボルゲリ地区はカベルネを含めたボルドー品種で造るワインが有名です。ボルゲリは沼地を干拓した砂利質の土壌で、ボルドー左岸を思い起こさせます。

地中海性気候に恵まれ、丸みを帯びた柔らかなタンニンは一つの特徴です。かといってカリフォルニアの様な果実味を全面に押し出したようなものでは無く、独自のスタイルです。トスカーナにはボルドー・ブレンドのほか、サンジョヴェーゼとのブレンドによって成功している銘柄も多数あります。

中国

中国のワイン消費全体は2018年時点でアメリカ、フランス、イタリア等の主要消費国に次いで世界第5位。一方で一人当たり消費量は番付外の日本にすら未だ及ばないという現状ですから、今後、消費市場としてだけでなく、ワイン産地としても更に大きく拡大していく可能性があります。

カベルネ・ソーヴィニョンが消費の点でも生産の点でも圧倒的な人気品種で、ワイン用のブドウとしては最大栽培品種です。

ワインの輸入はボルドーからが多く、高級贈答品として使用されていたラフィットは中国では高級ブランドとして確立しています。また、中国投資家によるボルドーのシャトーの買収も近年は目立ちました。

ワイン造りの歴史も古く、山東省煙台にある張裕は1892年創立の中国最古のワインメーカーですが、その寧夏回族自治区賀蘭地区のカベルネやボルドー・ブレンドはイギリスの『ドリンクス・ビジネス』誌などから幾多の賞を受けるに至っています。

フランスからはLVMHグループが進出しました。雲南省北部シャングリ・ラの近くにあるヒマラヤ山麓の標高2,200から2,600メートル山岳地帯でカベルネ・ソーヴィニョン主体のボルドー・ブレンドの「アオ・ユン」を造っています。いっぽう、ラフィット・グループは、山東省の花崗岩土壌の段々畑でカベルネ・ソーヴィニョンを栽培して「ロンダイ」を立ち上げています。

スペイン

19世紀にリオハにはマルケス・デ・リスカルが、リベラ・デル・ドゥエロではベガ・シシリアがカベルネ・ソーヴィニョンを導入しています。

また、この時期フランスではスペインよりも一足先にフィロキセラやうどん粉病の被害を受けていたので、ナバラなどにも、ボルドーの生産者が移って来て、カベルネ・ソーヴィニョンも持ち込んだという歴史もあります。2017年時点では2万ヘクタールの栽培面積を有します。

9. まとめ

赤ワインの人気品種、カベルネ・ソーヴィニョンを歴史やワイン造り、そして世界の産地を通して見てきました。個性の強いブドウでありながら、様々なブレンド、栽培や醸造の手法で味わいには多彩な変化が生まれます。一方で、レストランやバー、或いは海外へ行っても安心してオーダーができる、期待を裏切らないワインを造れる安定感のあるブドウ品種であるとも言えます。学んだ知識を活用して、ぜひ実際に世界のカベルネを飲み比べて違いを体感してみましょう。

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