ロマネ・コンティを筆頭に、世界一高価なワインの原料にもなるピノ・ノワール。にっこりと微笑む妖艶な美女のようにワインラバーを魅了し、底なしワイン沼へと引きずりこむ悪魔的な魅力を持つ黒ブドウ品種です。いかんせん高級なイメージがつきまとい、「ピノ・ノワール=高嶺の花」「安いピノは美味しくなさそう」などと思われる方も多いのではないでしょうか?
実は今、世界中でリーズナブルかつ美味しいピノ・ノワールが造られているんです。本記事では、そんなワイン愛好家を虜にするピノ・ノワールについて解説していきます。
【目次】
1. ピノ・ノワールが高貴な理由
1.1 ピノ・ノワールとは?香りや味わいの特徴
1.2 栽培家泣かせのブドウ、それでもチャレンジせずにはいられない
1.3 ピノ・ノワールの魅力を引き出すワイン造り
2. ピノ・ノワールの主な産地
2.1 フランス
2.2 ドイツ
2.3 アメリカ
2.4 ニュージーランド
2.5 チリ
2.6 日本
3. ピノ・ノワールに合う料理
4. ピノ・ノワールにおすすめシーン
5. ピノ・ノワールのまとめ
1. ピノ・ノワールが高貴な理由
1.1 ピノ・ノワールとは?香りや味わいの特徴
ブルゴーニュで生まれた高貴な黒ブドウ品種、ピノ・ノワール。赤ワインの原料になることが多いですが、スパークリングワインやロゼ、稀に白ワインも造られています。本記事では赤ワインについてご紹介します。
ピノ・ノワールの赤ワインの特徴はなんといっても、その芳しい香り。バラやスミレなど華やかな花のアロマ、苺やチェリーなど赤い果実やスパイス…熟成したものはトリュフの芳香を放つものも。「官能的」「妖艶」といったワードもよく使われますよね。しかし、「百聞は一見にしかず」ならぬ「百聞は一嗅にしかず」。100の言葉でピノ・ノワールを表現しようとも、グラスのひと嗅ぎには敵いません。上質なピノ・ノワールが放つ香りは、人一人の人生を変えかねない威力を持っているといえるでしょう。
赤ワインとしては淡い色調も、ピノ・ノワールの特徴です。上から覗くとグラスの脚を透かし見ることのできる淡いルビーやガーネットの液体がきらきらと輝く様子などは、見ていてとても芸術的です。ブラインドテイスティングでも、淡い色調は大きなヒントになります。
その外観のとおり、渋みはそこまで強くなく、ライトボディ〜ミディアムボディのワインがほとんど。軽やかで涼しげでエレガントなワインが好きな人におすすめです。
1.2 栽培家泣かせのブドウ、それでもチャレンジせずにはいられない
ピノ・ノワールが高貴と言われる大きな理由の一つは、その栽培の難しさにあります。果皮が非常に薄く基本的に房が密着しているため、かび病など様々な病気にかかりやすいのです。芽吹きが早く春の遅霜に当たりやすいため、霜で収穫量が激減することも。また、収量を上げてもそこそこのワインになるシャルドネと違い、ピノ・ノワールで収量を多くとりすぎると単なる薄くてマズいワインになってしまいます。
突然変異を起こしやすいのも特徴。ピノ・ブランやピノ・グリなど頭に「ピノ」がつく品種はピノ・ノワールの突然変異です。さらにピノ・ノワールの中でもさまざまなクローン(同一品種内のサブタイプのようなもの)があります。ブルゴーニュに由来するディジョン・クローンやニュージーランドのエイベル・クローンなど、その数は数百種類を超えると言われます。各気候や土壌に合ったクローンも異なってきますので、栽培者がどのクローンを選択するかというのも重要なポイントとなります。
このようにピノ・ノワールを栽培するには、ただ植えて育てればいいというわけにはいかず、様々な点を考慮し、目をかけねばならないのです。ひときわ手のかかるブドウですが、その抗いようのない魅力に引き込まれ、苦労を厭わず果敢にピノ・ノワールに挑戦する生産者が後を絶ちません。
気難しいブドウですから、適した栽培地も限られています。芽吹きが早く早熟、すなわち生育期は短いため、涼しい場所でないといいピノ・ノワールはいい感じに育ちません。暑すぎると熟しすぎてジャムっぽくなり、酸が落ち、上品で繊細な香りは失われてしまいます。つまりピノ・ノワールの美点が全く発揮できないのです。冷涼な気候条件を持つ場所というと、世界のワイン産地でも限られてきます。栽培面積世界12位(1)と、その人気に反して意外に少ないのも、ピノ・ノワールが育つ場所を選ぶからなのです。
1.3 ピノ・ノワールの魅力を引き出すワイン造り
ピノ・ノワールは、基本的に他のブドウ品種とブレンドされない孤高の品種です。他と交わらずに個性を発揮する点にも、いかにも高貴な風情が漂っていますよね。
果皮が薄いので、赤ワインの醸造にも注意が必要です。ピノ・ノワールによく使われる醸造テクニックを二つご紹介しましょう。
低温浸漬
赤ワインの色と風味、タンニンは果皮から抽出されます。ピノ・ノワールでは、その薄い果皮から色と風味を最大限抽出するために、発酵前に「低温浸漬」というテクニックがよく使われます。具体的には、除梗破砕したブドウを低温に保ち、ブドウを発酵させないまま2日〜1週間程度置いておきます。こうすることで、色が濃く果実の風味が強いワインになります。
全房発酵
除梗破砕をせずに果実を房のまま仕込む「全房発酵」もピノ・ノワールにおなじみの手法です。工程としては、発酵タンクにブドウを房ごと投入し、少しずつ潰しながら発酵させていきます。フレッシュな果実香、シルキーな舌触り、果梗によるスパイシーな風味と骨格をプラスする効果があります。
もともと除梗破砕機がなかったブルゴーニュでは全房発酵するのが伝統的なやり方でした。かのロマネ・コンティは今でも一貫して全房発酵を貫いています。一方、「ワインの神様」と名高い伝説の醸造家、故・アンリ・ジャイエが完全除梗を始めたことで、除梗するスタイルがブルゴーニュでも一般的になりました。今は全房発酵が再びトレンドになっており、ブルゴーニュのみならず世界中のピノ・ノワールの生産者がこの手法を使っています。
2. ピノ・ノワールの主な産地
2.1 フランス
ピノ・ノワールの故郷ブルゴーニュは、言わずと知れたピノ・ノワールの銘醸地。中心部のコート・ドール地方は綺羅星のごとく銘醸畑がひしめく、まさにバッカスに選ばれた土地といえるでしょう。特にコート・ドール地方北部のコート・ド・ニュイには、赤ワインのグランクリュが集中。ピノ・ノワール好きの「死ぬまでに飲みたいワインリスト」に名を連ねるであろう銘醸ワインを生み出しています。
南部のコート・ド・ボーヌはシャルドネが有名ですが、コルトンの丘やポマール、ヴォルネ村からうっとりするようなピノ・ノワールのワインが造られています。
土地の個性、テロワールをとりわけ重視するブルゴーニュ。ピノ・ノワールは特に土地の個性を反映しやすく、「道一本挟むと味わいが変わる」といわれるほど。なぜそうなのか一言では説明できない神秘性も、ワインラバーを引き付けてやまない理由の一つといえるかもしれません。
2.2 ドイツ
フランス以外のヨーロッパでもピノ・ノワールは栽培されていますが、特に近年品質向上がめざましいのがドイツです。以前はドイツでは白ブドウの生産がメインでしたが、温暖化の影響により黒ブドウも熟すようになってきたことが大きな理由として挙げられます。南のバーデン地方やファルツ地方がとくに有名ですが、ひそかな銘醸地として外せないのが、ドイツ西部のアール地方。北緯50度と最北にあるにも関わらず、アール渓谷の急斜面では黒ブドウがしっかりと熟し、非常に高品質なピノ・ノワールを生みます。ちなみにピノ・ノワールはドイツでは「シュペートブルグンダー」という舌を噛みそうな名前で呼ばれています。
2.3 アメリカ
まずはカリフォルニア。シャルドネ、カベルネソーヴィニヨンが二大巨頭のカリフォルニアですが、2000年以降爆発的人気を博したのがピノ・ノワールです。きっかけの一つは2004年に公開された映画「サイドウェイズ」。主人公がメルローをこき下ろしピノ・ノワールを「魂をとろかすブリリアントなフレーバー。スリリングで繊細、地球の太古の味だ」等々、褒め称えたため、ピノ・ノワールへの植え替えが急速に進みました(ちなみにこの映画はワイン好き必見です)。
温暖なカリフォルニアでは栽培が難しかった品種ですが、最近では適した土地に適した品種を植えるといった考え方や栽培技術も進んだため、目を見張るようなピノ・ノワールが造れるようになりました。
カリフォルニア以外に抑えておきたいのが、オレゴンです。カリフォルニアの北に位置するオレゴンは比較的涼しく、昼夜の寒暖差も大きくピノ・ノワールの栽培に向いています。オレゴンに目をつけブルゴーニュのドルーアン一家がオレゴンに投資をしたというから、そのポテンシャルの高さは折り紙付きです。家族経営のドメーヌが多いところもブルゴーニュに似ていて、ブルゴーニュ好きにもオレゴンのピノ・ノワールを好む人は多いようです。
2.4 ニュージーランド
ニュージーランドといえば、ソーヴィニヨン・ブランが代名詞。次に多く栽培されているのが、実はピノ・ノワール(全体の、その人気の高さが窺えます。
というのも、冷涼で昼夜の寒暖差の大きいNZの気候は、涼しい場所を好むピノ・ノワールにぴったりなのです。日射量の高さからブドウがよく熟すため、旧世界のピノ・ノワールよりも果実味が豊かで快活な印象になります。産地としては、マーティンボロー(北島)やマールボロー、(南島)、セントラルオタゴ(南島)が有名です。
2.5 チリ
リーズナブルな品種名表示ワインで人気を博したチリ。日本で現在一番飲まれているのがチリワインです。南北に細長く気候も多様なチリではピノ・ノワールに適した場所もあります。寒流(フンボルト海流)と冷たい海風、霧の冷却効果を受ける沿岸部のカサブランカ・ヴァレーやサンアントニオ・ヴァレーが有名です。
栽培しやすいシャルドネやカベルネに比べるとやはり価格は上がってしまいますが、それでもピノ・ノワールとしては圧倒的に価格が抑えめなのが嬉しいところです。
2.6 日本
多雨多湿な日本でピノ?!と思いきや…果敢にチャレンジする生産者の努力により、近年進化が目覚ましいのが日本のピノ・ノワールです。雨対策に房ごとに傘かけをしたり、病気のついたブドウを粒単位で一つ一つ取り除く「適粒」を行ったりなど、日本人ならではの細かい職人仕事も品質アップに貢献しています。生産量一位は長野。昼夜の寒暖差が大きく日本国内では比較的雨の少ないため、欧州系品種に力を入れています。
新規生産者の動きが目覚ましい地域としては、北海道も外せません。余市の「ドメーヌ・タカヒコ」のピノ・ノワールがデンマークのレストラン「ノーマ」(2021年版「世界のベストレストラン50」1位の超有名レストラン)にオンリストされたことで、世界的な認知度が上がりました。三笠市空知地方も、酸がきれいな透明感のあるピノ・ノワールの産地として注目。ただし全国的に数は少なく、人気のワインは即完売の幻のアイテムとなってしまうことが多いようです。
3. ピノ・ノワールに合う料理
フレンチレストランではピノ・ノワールには鴨肉が定番。鉄分豊富なジビエなどにもよく合います。果実味が強くてジューシーなピノ・ノワールなら、牛肉などしっかりしたお肉にもグー。出汁感や旨味のある日本のピノ・ノワールなら、繊細な和食やお寿司(マグロがおすすめ)にいわずもがなの相性です。
4. ピノ・ノワールにおすすめシーン
エレガントで官能的なピノ・ノワールは、まさにデートシーンにぴったり。男女の仲を深めるのに、これ以上適したワインはこの世に存在しないでしょう。その際はぜひ、ボウルの大きいブルゴーニュグラスを使ってみて下さい。芳しいアロマがより強調されるだけでなく、美しいグラスがムードを引き立ててくれますよ!
また、探せば三千円以下で美味しいワインもたくさんありますので、その場合はデイリー使いもできますよね。ぜひコスパの良いお気に入りの銘柄を見つけてみて下さい。
5. ピノ・ノワールのまとめ
本記事では、ピノ・ノワールが高貴といわれる理由やその特徴、世界のピノ・ノワールや楽しみ方についてご紹介してきました。1本千円台のリーズナブルなものから百万円以上まで、千差万別のピノ・ノワール。ワインを開けるシーンにより、様々な楽しみ方ができるブドウ品種です。ぜひピノ・ノワールを生活の一部に取り込み、毎日を楽しく過ごしましょう!