ガメイとは?ボージョレ・ヌーヴォーにとどまらない魅力を徹底解説!

ボージョレ・ヌーヴォーの原料ブドウのイメージが強く、実は熟成向きのシリアスなワインも造れることがあまり知られていないガメイ。ときにピノ・ノワールのような妖艶さや旨味を呈するガメイは、「リーズナブルにエレガントなワインを楽しみたい」という方にも人気です。本記事では、過小評価されがちなガメイの魅力とその楽しみ方をたっぷりお伝えします。

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【目次】

1. 本当はすごいガメイ
 1.1 生まれはブルゴーニュ
 1.2 ピノ・ノワールに似ている?香りや味わいの特徴
 1.3 ボージョレで栄えた理由~栽培特性や適した土壌
 1.4 チャーミングな香りを産むカーボニック・マセレーション
2. ガメイの主な産地
 2.1 フランス
 2.2 スイス
 2.3 カリフォルニア~ナパ・ガメイは偽ガメイ
 2.4 その他
3. タイプ別楽しみ方のポイント
4. おすすめペアリング~和食にも合うガメイ
5. まとめ


1. 本当はすごいガメイ

1.1 生まれはブルゴーニュ

ガメイはあの高貴なブルゴーニュ生まれ。ピノ・ノワールとグーエ・ブランの自然交配で生まれた品種です。今ではブルゴーニュ北部での栽培面積は少ないですが、昔はブルゴーニュ全土に植わっていました。コート・ドールの粘土石灰質土壌には合わず凡庸なワインになるものの、ピノ・ノワールよりも早熟で病気に強く収量が取れたためです。

ですが、ガメイはこれまで受難の道を歩んできました。「どんな人でも飲めば健康を害するようなワインを造る、悪質で不誠実なガメイ」と忌み嫌ったフィリップ豪胆公が、1395年にはガメイ禁止令を出します(ひどい言われようですよね……)。実際は禁止令にあまり効果はなかったようでガメイはその後も力強く生き延び、1855年の時点でもコート・ドールのブドウ畑の87%だったというから、この150年でのブルゴーニュの変わりようには驚かされます。

命運のツキは19世紀後半にヨーロッパに蔓延したフィロキセラ。コストをかけてアメリカ台木に植え替えするには付加価値が高い品種の方が良いため、続々とピノ・ノワールに置き換わっていきました。コート・ドールから追いやられたガメイが、本領を発揮した地がブルゴーニュ南部のボージョレ。1970~80年代には世界的なボージョレ・ヌーヴォーブームが巻き起こり、特に日本は輸出量の半分を消費するNo.1大国として社会現象となりました。ヌーヴォーブームが落ち着いた現在では、熟成向きのシリアスなガメイが新たな注目を浴びています。

1.2 ピノ・ノワールに似ている?香りや味わいの特徴

スタンダードなガメイは、軽やかで飲みやすい素直な味わい。ブドウの果皮が薄いため、果皮から抽出される色素やタンニンが少なく、色は淡く渋みも控えめのワインとなります。苺やさくらんぼなどベリー系のチャーミングな香り&穏やかな渋みは、ワイン初心者にも愛される味わいですよね。その分ワインを飲みなれた方は「物足りない」と思われるかもしれませんが、実は、ピノ・ノワールを彷彿とさせるような、深遠な赤ワインもあるんです。ガメイはピノ・ノワールと同じようにテロワールを反映しやすいともいわれ、収量や醸造方法によってもスタイルが大きく変わります。熟成向きのガメイは、安価版ピノ・ノワールとして、ソムリエや通の愛好家からも人気を集めているのです。

1.3 ボージョレで栄えた理由~栽培特性や適した土壌

ブルゴーニュで古くから栽培されてきたガメイ。変異種も30種類ほどあり、中には果肉まで赤い「タンチュリエ」もあります。混同を避けるため、果肉の透明なガメイを「ガメイ・ノワール ア・ジュ・ブラン(果汁が白いガメイ)」、略して「ガメイ・ノワール」と区別することも。このガメイ・タンチュリエは、ブレンドに混ぜて赤ワインの色を濃くするためにも使われていました。今でも珍しいタンチュリエのガメイがマコネ地区やロワール地方に残っています。

栽培の特性としては、ブルゴーニュ原産なだけあり、比較的冷涼な気候に適した品種です。芽吹きは早く霜害に合いやすいですが、熟すのも早いため秋雨が来る前に収穫できるのは嬉しいポイント。果皮が薄いためブドウの病気には比較的弱く、強風にも弱い品種です。

ボージョレ地方の伝統的な栽培方法がゴブレと呼ばれる1本1本が独立した株仕立て。この仕立て方をすると自然に収量が抑えることができるので、多収量のガメイに向いているのです。さらにボージョレ地方では、株仕立ての樹の新梢を上部で束ねることで、風通しと日当たりを良くしています。ただし、株仕立てだと手摘みでしか収穫できないため、最近は垣根仕立ても増えているようです。

ガメイがボージョレで栄えた理由は、ボージョレに広がる花崗岩質土壌と相性がよかったからでした。その証左が、ボージョレの中でも土壌の差が品質に違いをもたらすこと。ボージョレ・ヴィラージュやボージョレ・クリュといった上級ボージョレが造られるのは花崗岩の地盤が広がる北部の丘陵地帯。日当たりと水はけの良い斜面で収量を抑えて栽培すると、ブドウがしっかり熟し凝縮したブドウができます。一方、粘土石灰質メインの肥沃で平たんな南部の畑からは、ボージョレの大半を占める、軽やかなスタイルのボージョレが造られることが一般的です。

1.4 チャーミングな香りを産むカルボニック・マセレーション

早飲み用のボージョレ・ヌーヴォーは発酵終了後から3~5日後には瓶詰されるというスピード感。赤ワインがそんなにすぐできるの?という疑問に答えるのが、カーボニック・マセレーション(炭酸ガス浸漬法・MC法)という醸造方法です。この方法を行うと、タンニンはほとんど抽出せずに短期間で色調と果実味を引き出すことができ、MC法ならではの独特の風味を持った口当たりのよいワインになります。具体的には、密閉したタンクに炭酸ガスを充満させ、その中にブドウを房ごと放り込みます。破砕をせずに房のまま嫌気状態に置くことで、アルコール発酵とは別の細胞内発酵が果粒のなかで起こり、それがキルシュ、バナナ、シナモンといった通常のアルコール発酵では出ない風味を生成するのです。タンクに炭酸ガスを入れず自然酵母が生成した炭酸ガスを利用するセミ・カーボニック・マセレーションという方法もよく使われます。

ただしボージョレでもすべての生産者がこの手法を使うわけではありません。最近増えているのが、品質の良いブドウを低温浸漬や樽熟成(新樽を含む)するなど、ブルゴーニュのピノ・ノワールと同じような手法で造ること。そもそものブドウの質が良いのはもちろんですが、タンニンの抽出もMC法よりも強くなるため、よりフルボディで長期熟成型のワインになります。

2. ガメイの主な産地

2.1 フランス

ガメイの本場ボージョレ地方ではシンプルなヌーヴォーから複雑なワインまで、様々な品質・スタイルのガメイのワインがあります。軽やかにグビグビいきたいならボージョレ・ヌーヴォーやボージョレAOCのものを、真のガメイのポテンシャルを感じたいならボージョレ・ヴィラージュ以上のものがおすすめ。特に「クリュ・ボージョレ」を名乗れる特定の村は、村ごとに個性を持つ優れたワインを造っています。例えばムーラン・ナ・ヴァンとモルゴンは力強く熟成向き、ブルイィやフルーリーは軽めでアロマの良いワインを造る傾向があるなど、村ごとに特徴があって面白いですよ。

ボージョレ地区は、優れた自然派ワインが多いのも特徴。「自然派ワインの父」と呼ばれるジュール・ショーヴェは、セミ・カーボニック・マセレーションを用いつつ補糖も亜硫酸添加もしないという究極の非介入主義を提唱し、マルセル・ラピエールら後進に大きな影響を与えました。彼らの造る体にしみ込むような旨味のあるナチュール・ワインは、一度飲んだら忘れられません。

ボージョレ以外のブルゴーニュ地方だと、マコネ地区はピノ・ノワールよりガメイの栽培が多い地区です。ただし石灰岩が広がるマコネ地区のガメイはボージョレ地区とはまたスタイルが異なり、硬い味わいになるといわれます。また、ブルゴーニュ全体でピノ・ノワールとガメイをブレンドした「パストゥ・グラン」というワインの生産が認められています。

フランスのその他の産地だと、ロワール地方やサヴォワ地方、南西地方にもガメイが植わっています。ロワール地方ではカベルネ・フランに続き二番目に栽培面積が多いのがガメイ。主に早飲み用のフルーティーなワインを造るほか、ロゼ・ド・ロワールやロゼ・ド・アンジュ―といったロゼのブレンドにも使われます。

2.2 スイス

スイスの人はワインが大好き。99%が自国で消費され日本に入ってくる量も数少ないため、あまりなじみがないかもしれませんが、ワインの生産もさかんです。主要なブドウ品種は、ピノ・ノワール、シャスラ(スイス独自の白ブドウ品種)、ガメイ、メルロで、特にフランスとの国境近くのジュネーヴ州ではガメイが最も栽培されています。また、ブルゴーニュのパストゥ・グランと同じようにピノ・ノワールとガメイをブレンドした「ドール」というワインも造られています。

2.3 カリフォルニア~ナパ・ガメイは偽ガメイ

カリフォルニアでは、「ガメイ・ボージョレ」と「ナパ・ガメイ」というガメイの名がついた2つの品種が栽培されていました。しかしブドウ品種あるあるなのですが、どちらもガメイと思ったら違っていたことが判明。「ガメイ・ボージョレ」の方はピノ・ノワールの変異種であり、「ナパ・ガメイ」は実はヴァルディギエという、マルベックの仲間の全く異なる品種でした。今では「ガメイ・ボージョレ」「ナパ・ガメイ」をラベルに記載することは法律で禁じられています。

最近見直されているのがヴァルディギエ。希少な高級スパークリング「ウルトラマリン」で一世を風靡したマイケル・クルーズらニュー・カリフォルニアと呼ばれる新しい世代の生産者が、ヴァルディギエに再注目しワインをリリースしています。

2.4 その他

生産量は少ないですが、カナダやオーストラリアでも優れたガメイが造られています。カナダのオンタリオ州ではガメイの生産量が増加中。軽やかでフレッシュなスタイルのほか樽を使ったリッチなワインも少量造っています。

オーストラリアの特筆すべきガメイは、ヴィクトリア州北東部のビーチワースにあるソレンバーグのガメイ。ソレンバーグ世界的ワイン評論家ジャンシスロビンソンにも「世界最高のガメイの一つ」と評されたお墨付きワインです。

3. タイプ別楽しみ方のポイント

シンプルで軽やかさを楽しむタイプのガメイは、フレッシュさが命。ワインセラーに長期保管せず、できるだけ早く飲んでそのフレッシュ&フルーティーな味わいを楽しみましょう。暑い時期には少し冷やして頂くと、フレッシュさが際立ちます。何も考えずにリラックスして楽しめるので、大人数でのパーティーや外飲みシーンにもおすすめです。

熟成向きガメイは、ピノ・ノワールと同じように華やかな香りや繊細な味わいを楽しむことができます。数年熟成させたクリュ・ボージョレなどは、その香りの複雑さに驚くはず。1本をゆっくり飲みながら、時間とともに変わる香りや味わいの変化を感じるのもおすすめですよ。その際はぜひピノ・ノワールと同じように大きめのグラスで楽しんでみてくださいね。

4. おすすめペアリング~和食にも合うガメイ

フレッシュなガメイは、シンプルな料理と相性が良いです。チェリーのようなガメイの程よい酸味が、食欲を促進してくれます。ハムやチーズ(ぜひベリー系のジャムを添えて!)など前菜の盛り合わせはもちろん、夏のBBQにもおすすめ!グビグビ行っちゃいましょう。

家庭料理にも相性が良く、和食とも合いやすいのもポイント。焼き鳥や肉じゃがなど、あのお醤油を使った日本人好みの甘辛いたれと、ガメイの果実味が小憎いマリアージュを見せてくれるんです。すっとしみ込むようなナチュールのガメイは、根菜料理とも相性が良いですよ。

5. まとめ

シンプルなワインから複雑なワインまで幅広いスタイルを造れるガメイ。チャーミングな味わいを素直に楽しむも良し、熟成向きガメイとゆっくり向き合うも良し。ガメイのポテンシャルを理解し、気分に合わせて選べれば、かなりのワイン玄人といえます。ぜひ新たなガメイの一面を見つけてみて下さいね。

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