華やかな果実味と芳醇な味わいで万人の心を掴むメルロ。ぶどうの品種個性が強くない分、「特徴がいまいち掴めない…」とぼやきたくなる方も多いのではないでしょうか。実際、メルロはブラインドテイスティングでも当てにくい品種です。
でも大丈夫。本記事を読めば、メルロの特徴からおすすめ産地など基本がばっちり押さえられます。なにかと飲む機会の多いメルロ、これを機にしっかり勉強しておきましょう。
【目次】
1. 万人に愛されるメルロ
1.1 短所を長所に人気獲得!香りと味わいの特徴
1.2 ボルドー右岸になぜ多い?ブドウの生育特性
1.3 フルボディ?エレガント?ワインにトレンドが現れる
2. メルロの主な産地
2.1 フランス
2.2 アメリカ
2.3 イタリア
2.4 チリ
2.5 ニュージーランド
2.6 日本
3. 楽しみ方のポイント
4. おすすめマリアージュ
5. まとめ
1. 万人に愛されるメルロ
1.1 短所を長所に人気獲得!香りと味わいの特徴
プラムやカシス、ブルーベリーなどの豊かな果実味、柔らかくまろやかな味わい。メルロはその親しみやすさから世界中で愛されています。極上のものだと「ビロードのような」とも称されるなめらかなタンニン、熟成により加わる複雑なブーケは、飲み手をうっとりと官能の世界へといざないます。渋みが少なく比較的早くから飲んでも楽しめ、極上のものは長熟にも耐えうるポテンシャルがある点もメルロの大きな魅力です。
メルロほどその名が体を表すブドウはないように思います。万人が覚えやすくコロコロと舌が転がるフレンチシックな名前。実際、その親しみやすい名と味わいは、猫も杓子も赤ワインを欲した1990年代の赤ワインブームにみごとにはまりました。赤ワインブームに火をつけたのは、1991年、「脂っこいものを食べるフランス人が心臓病での死亡率が少ないのは、赤ワインを飲むから」というフレンチパラドックス説がアメリカのTV番組で放映されたことでした。赤ワインに含まれるポリフェノールが健康に良いという情報は瞬く間に世界に広がり、赤ワイン需要を引き起こしました。
単に健康目的で飲むなら、赤ワインの渋みやきつい酸といったヘビーな要素はいりません。赤ワインが苦手な人の舌にもOKだったのが、メルロの芳醇な果実味とまろやかな味わいだったのです。実は、この飲みやすさ=タンニンと酸味が少ない(つまり熟成能力が劣る)ことが、カベルネ >メルロとされるゆえんでもあったのですが、この短所をみごとに長所に変えて、メルロは時代の寵児となることができたのです。
1.2 ボルドー右岸になぜ多い?ブドウの生育特性
ぎゅっと小粒でバラ房気味のカベルネ・ソーヴィニヨンと比べると、メルロのブドウは房も粒も大きく、ジューシーです。収量制限をしないと驚くほど実をつけます。果皮はやや薄いためアントシアニンとタンニンの量も少なめ。酸味も控えめなので、単体だとワインの色味もやや薄いまろやかなワインになります。
芽吹きは早く比較的早熟なブドウであるメルロは、収穫期に雨が降りやすい産地でも重宝されます。ボルドーではよくカベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドされますが、その一つの理由は、メルロは熟期が遅いカベルネより早く収穫できるため、天候不良によるリスクを分散できるから。収穫期の雨でカベルネが不出来な年は、ブレンドにおけるメルロの比率を増やすなど調整がきくのです。砂利質が多いボルドー左岸のメドックではカベルネが多く、粘土質の広がる右岸でメルロの栽培が多いのも、土が温まりやすくブドウの成熟を促す砂利質がカベルネに向き、水分が多く冷たい粘土質土壌がメルロに適しているからです。
収量は多くなりがちなものの適応力が高く比較的育てやすいメルロ。世界の栽培面積はカベルネに次ぎ世界二位です。冷涼な場所だとピラジンという、ピーマンのような青くさい香り成分が出やすくなります。一方、糖度が上がりやすいため、暑すぎる場所だと逆に過熟になり、ジャミーな味わいになることも。フレッシュな味わいを保つためには、ブドウの熟度と酸度のバランスの良い、適した時期に収穫することが大切になります。
1.3 フルボディ?エレガント?ワインにトレンドが現れる
万能なメルロは、原料に合わせた醸造方法によって1000円以下のお手軽ワインから超高級ワインまで、幅広い価格とスタイルのワインを造れるブドウ品種です。品種個性が強くないため、シャルドネ同様、造り手の哲学やトレンドがワインに反映されやすいブドウと言えます。
メルロを語るうえで外せないのが、アメリカ人のワイン評論家、ロバート・パーカーとワイン醸造家兼コンサルタントのミシェル・ロラン。それまでボルドー右岸のワインは左岸に劣るとされていましたが、パーカーが右岸の高級メルロを評価したことで1980年代に人気が跳ね上がりました。中でもル・パンやヴァランドローのように生産量がひときわ少なく、ガレージのように小さな仕込み場で大事に醸造される「ガレージワイン」は、1990年代にブームを巻き起こしました。
追い打ちをかけたのがミシェル・ロラン。ボルドー右岸で自身のワイナリーやラボを経営するのみならず、世界中の著名ワイナリーのコンサルタントを務めた、いわばメルロの魔術師です。ミシェル・ロランお得意のスタイルが、収穫期を遅らせ完熟させたブドウを、高い新樽比率で熟成した超フルボディなワイン。ブドウは厳しく収量制限し、さらに凝縮度を高めました。
また、発酵中や熟成中のワインに微量の酸素を送り込み、タンニンを和らげるマイクロ・オキシジェネーションという技術を推奨したのもミッシェル・ロランです。このフルボディかつなめらかな「果実味爆弾」とも称されるワインはパーカーの評価が高かったため、パーカーの評価点数を稼ぎたい生産者の間に瞬く間に広がりました。パーカースタイルの流行は、「ワインをどこで造っても画一的な味わいになる」「ワイン造りを左右するのはコンサルタントや批評家なのか?」という論議を巻き起こし、2004年には仏映画「モンドヴィーノ」の主題にもなっています。パーカー引退後は揺り戻しがきて、収穫時期を早めたり新樽の使用を控えたりしたクラシックでエレガントなスタイルへの回帰が見られます。
2. メルロの主な産地
2.1 フランス
ボルドーでもフランス全土を見ても、一番多く栽培されている品種がメルロ。ボルドーのお隣の南西地方やラングドック地方などでも栽培がさかんです。
メルロの故郷ボルドーではカベルネ・ソーヴィニヨンが王様、メルロは女王様。力強くがっしりとした骨格と渋みを持つカベルネにメルロが柔らかな果実味とボディをプラスし、お互いの足りない部分を補完し合う最強のパートナーです。また、メルロの栽培比率が高い右岸のポムロールやサンテミリオンは、世界最高峰のメルロの産地。メルロを主体にカベルネ・フランやカベルネ・ソーヴィニヨンがブレンドされるほか、ペトリュスのようにメルロ100%の超高級ワインも造られています(注:ヴィンテージによっては少量のカベルネ・フランがブレンドされることもあります)。
心にとめておきたいのが、高級格付けワインの生産者は、5千を超えるボルドー地方の生産者の内のたったの5%程度に過ぎないこと。その他は、ボルドーAOCやボルドー・シューペリオールなど広域ワインに代表されるカジュアルなワインを造っています。そういったカジュアル・ボルドーの基軸品種がまさにメルロ。親しみやすく早飲みにも向き、必ずしも樽で長い間熟成する必要がないためコストも抑えられるからです。ニューワールドをはじめ競争にさらされた生産者の努力により品質向上はめざましく、ボルドーワイン委員会はこのカジュアルなボルドーワインのプロモーションに力を入れています。
2.2 アメリカ
フレンチパラドックスによる赤ワインブームの影響で1990年代~2000年初頭にカリフォルニアでも栽培面積が一気に増えたメルロ。特に温暖なカリフォルニアのメルロは極めて飲みやすく消費者の人気を集めました。その流行が一気に下火になったのが2004年にリリースされた映画「SIDEWAYS」。この映画のなかでは主人公がメルロをこき下ろし、ピノノワールを持ち上げました。トレンドに敏感で流行に左右されやすいアメリカのワイン市場。かわいそうなメルロは影響を受け、栽培面積も2004年に53,535エーカーあった畑が2020年で35,962エーカーにまで減少しています。メディアの力とは恐ろしいですよね…。
ですが最近では、それまで出回っていた粗悪なメルロが一掃され、全体的に質が上がったという意見も。「流行は繰り返す」ではないですが、再びメルロの時代が来るかもしれません。
うまいなぁと思うのが、マリリン・モンローとメルロをかけた「マリリン・メルロ」。今の時代ワインを男性/女性らしいと表現するのはナンセンスですが、それでも女性らしさの象徴であるマリリン・モンローがカリフォルニアのメルロの柔らかいイメージにぴったり重なるこのワインのネーミングセンスに感嘆せずにはいられません。
2.3 イタリア
地品種の宝庫でありながら、意外にもメルロの栽培面積が大きいのがイタリア。黒ブドウだとサンジョベーゼ、モンテプルチアーノに次ぎ3番目に多く栽培されています。ブレンドに加えると酸を和らげ丸みを与えるメルロは、イタリアが誇る地品種サンジョベーゼの良いブレンドパートナーになるので、ブレンド用品種としても重宝されるのです。比較的冷涼な場所で育つため、イタリア北東部(フリウリ、トレンティーノ、ヴェネト)でも栽培がさかんなほか、中部のトスカーナ州や南部のウンブリア州でも逸品が造られています。
とくにメルロを含む国際品種の産地として脚光を浴びたのが、トスカーナ北マレンマのボルゲリ地区。粘土と砂利質の広がるボルゲリ地区はボルドーに気候が似ていることもあり、メルロもよく育ちます。DOC/Gの枠を超えた高品質な「スーパー・トスカーナ」は1970年代以降一世を風靡しました。カベルネ・ブレンドの「オルネライア」で有名なワイナリー、テヌータ・デル・オルネッライアがリリースするメルロ100%の逸品「マッセート」は、イタリア最高峰のメルロと称され高値で取引されています。
2.4 チリ
気候に恵まれ様々な品種が育つチリでもメルロは主要品種の一つ。ヨーロッパでフィロキセラが広がる前の19世紀半ばにボルドーから苗木が持ち込まれました。「チリアン・メルロ」と呼ばれチリに馴染んでいたメルロですが、なぜか現地には「早く熟すメルロ」と「遅く熟すメルロ」の二つがありました。同じ畑に混植された熟期の違う二種類の「メルロ」を同時に収穫することで、熟した果実味に青っぽさやスパイシーさが加わり、独特の風味を生み出していたともいわれます。
原因がわかったのは1994年。実は「遅く熟すメルロ」はボルドー品種のカルメネールであると判明。1990年代に国際品種の人気が高まると同時に畑の植え替えが進んだこともあり、メルロとカルメネールも植え分けされました。今ではそれぞれの品種に合った栽培方法や適地への理解が進んでいます。
2.5 ニュージーランド
冷涼なニュージーランドでは白はソーヴィニヨン・ブラン、赤はピノノワールが二大品種ですが、実は黒ブドウの栽培面積は2位がメルロ。南島よりも温暖な北島で上質なメルロのワインが造られています。
とくに有名なのがボルドーに似た温暖な海洋性気候である北島のホークス・ベイ。ギムレット・グラベルと呼ばれる水はけの良い砂利質のやせた土地はボルドー品種の栽培に向き、メルロやカベルネが多く植わります。また、ニュージーランド最高の赤ワインの一つに数えられるのが、「プロヴィダンス」。メルロ主体に亜硫酸無添加で造られていた1990年代、「NZのル・パン」と一躍話題になり、映画「ウスケ・ボーイズ」のモデルになった故・故浅井昭吾(麻井宇介)氏にも大きな影響を与えました。
2.6 日本
そして外せないのが日本のメルロ。やや水分が多い土壌でも完熟できるメルロは日本でも成功例が多く、欧州系品種ではなんと栽培面積ナンバーワン!降雨量の少なさと夜間の気温の低さが欧州系品種に向く長野県を筆頭に、山梨、山形、岩手県、大阪など日本各地で栽培されています。
日本のメルロを世界に知らしめたのが、塩尻市桔梗が原のメルロから造られたシャトー・メルシャンの「信州桔梗ヶ原メルロ1985」。1989年のリュブリアーナ国際ワインコンクールで大金賞を受賞し、「日本からもスゴいワインが造れる!」と驚きと希望を与えてくれた日本を代表する1本です。
3. 楽しみ方のポイント
リーズナブル~高級ワインまで価格もスタイルもさまざまなのがメルロの魅力。熟成する高級ワインでも比較的飲み頃が早いメルロは、ワインセラーに長期保管しておく場所も耐久力もない、という人にもおすすめの品種です。ソフトな味わいでとがった個性が少なく万人受けするメルロは、大勢でわいわい楽しむシーンにも最適。ワイン初心者へのプレゼントにも向きます。
上記の有名産地のほか、ルーマニアやブルガリア、モルドバといった東欧にも安くて美味しい狙い目ワインがたくさんあるので、探してみるのもおすすめです。
4. おすすめマリアージュ
丸みのあるふくよかな味わい&程よい渋みを持つメルロは基本的にお肉料理ならば全般的に相性が良いです。特に口の中でほろりと溶けるやわらかいお肉。ビーフシチューなど煮込み料理や、ジューシーなハンバーグとは抜群の相性です。
どこか土っぽさを感じることの多い日本のメルロは、和食の根菜の煮込みー例えば筑前煮とも合いますし、カベルネの香りも加わるボルドーブレンドであればジンギスカンやラムなど少し癖のあるお肉とも相性が良く、杯が進むことでしょう。
上級者におすすめなのがデザートとのマリアージュ。カリフォルニアなど温暖な地域のメルロのように、熟した果実の甘いニュアンスを持つメルロは、チョコレートやフルーツケーキなどスイーツにもぴったり。だまされたと思ってぜひ試してみて下さい!
5. まとめ
世界中で栽培されリーズナブル~高級ワインまで選択肢の多いメルロ。本記事をしっかり読み込んだあなたは、メルロがこれまで以上に身近な存在になっているはず。一緒に飲みたい人やシーンに合わせて、気分にぴったりのメルロを選んでみて下さいね。