新規のワイナリー設立が相次ぎ、勢いの止まらない北海道ワイン。実は生産量は全国第三位と多く、ワインも多彩です。最近では産地が北へ東へと広がり、ブルゴーニュの老舗ワイナリーも進出するなど、そのポテンシャルにますます注目が集まっています。今回はそんな話題の尽きない北海道のワインについて、最近のホット・トピックも含めて詳しくお伝えしていきます。
【目次】
1. 人気の北海道ワイン、その特徴は?
2. 北海道ワインの歴史といま
3. 北海道の気候とワイン造り
4. 北海道ワインの主な栽培品種
5. 北海道ワインの主な産地
6. 北海道ワインの産地を巡る最近の動き
● GI北海道
● 北海道ワインバレー構想
● ワインツーリズム
7. 北海道ワインのまとめ
1. 人気の北海道ワイン、その特徴は?
日本ワインの生産量は全体の18.5%と、山梨・長野に続き第三位を誇る北海道。冷涼な気候のため、白ワインが多く造られていますが、最近は温暖化の影響もあり、ピノ・ノワールなどの赤ワインも増えています。品種もスタイルもさまざまですが、北の大地を反映したしっかりとした酸味と豊かなアロマ、凛とした透明感が、多くのワインに共通している特徴といえるでしょう。
とくに大きな動きが、2000年以降に急激にワイナリー設立が増えたこと。現在53軒(※2022年1月)と、ここ10年で3倍以上に急増しています。造り手の生産規模も様々で、年間100万本以上の生産規模を誇る大手ワイナリーから、数千本の小規模ワイナリーまで個性豊か。さらに最近の動きとしては、空知の10Rワイナリーに代表されるように、ワイナリーで研修や委託醸造をしながら、ブドウ栽培やワイン造りを目指す後進が増えていること。ワイン特区制度や自治体からのサポート、何よりまとまった土地が手に入りやすい北海道は新規参入がしやすいことが大きな理由といえるでしょう。
また、自社畑のブドウのみからワインを造るドメーヌも本州に比べると多く、よりブドウ栽培にねざしたワイン造りが行われているといえます。
2. 北海道ワインの歴史といま
今世紀に入って特に注目されるようになった北海道ワインですが、そのワイン造りの歴史は日本のなかでは長く、山梨とほぼ変わりません。ワイン造りは殖産興業の一環として開拓史によって奨励され、1876年に初めて山ブドウからワインが造られました。
その後しばらく中断されていたワイン造りが復活するのが1963年。十勝地方にある池田町長が、町おこしとして十勝ワイン(池田町ブドウ・ブドウ酒研究所)を設立し、地域に自生している山ブドウでワイン造りを開始します。この日本で最初の自治体直営ワイナリーの誕生は、全国の「一村一品運動」の先駆けとなりました。その流れを受け70年代にはさまざまなヨーロッパ系品種が輸入され、各所でワイン造りが再開されます。もともと果樹栽培がさかんだった余市町でも、80年代にはワイン用ブドウ栽培が本格的にスタートしました。
2010年以降は、とくに余市や空知を中心にワイナリーが急増。ドメーヌ・タカヒコや10Rワイナリー設立を機に、新規就農の動きが広がっていきます。さらに、2018年にはブルゴーニュで300年続く老舗ドメーヌ・ド・モンティーユが函館に進出。北海道のポテンシャルは世界のワイナリーにも注目されているのです。
最近の動きとしては、これまで空知や後志地方に集中していたワイン産地がどんどん広がっていること。現在日本最北のワイナリーは、旭川の北・名寄にある森臥。オホーツク側の北見にも2か所のワイナリーができています。2021年には最東端の根室でワイン用ブドウ栽培がスタート、2024年秋収穫予定とのこと。来年5月には摩周湖近く弟子屈町にワイナリーが着工予定と、北海道のワインシーンがますます盛り上がりそうです。
3. 北海道の気候とワイン造り
梅雨がなく湿度の低い北海道では、ブドウの病気も比較的少なく、ワイン用ブドウ栽培に向いた産地といえます。4~10月の月平均気温が15度以下(ドイツのラインガウと同程度)と冷涼ですが、先人たちは寒冷な気候に合わせて品種や仕立てを試行錯誤し、道を切り開いてきました。
ブドウの栽培方法で面白いのが、多くのワイナリーで、冬の間はブドウの樹をすっぽり雪の下に埋めてしまうこと。マイナスをはるかに下回る外気温では凍害や枯死のリスクが高まりますが、雪のなかは外気温よりも温かいため、ブドウを守ることができるのです。これは世界でも珍しく、外国人のワイン専門家がくると一様に驚くそう。さらに雪の重みによる樹への負担を軽減するため、垣根の主幹を地面に添わせるように斜めにするなど、独自の仕立てが開発されてきました。
最近では、温暖化を含む気候変動の影響も議論されています。2000年以降にワイナリーが急増した理由の一つは、ブドウが熟すようになったため。これまでは白ワインの生産が多かった北海道ですが、次項で詳しく説明するように、ピノ・ノワール等赤ワインの評価も高まっています。
4. 北海道ワインの主な栽培品種
その冷涼な気候に合わせて、昔から寒さに強い交配品種やドイツ品種が多く栽培されてきた北海道。生産量が多いのは生食用のナイアガラ、キャンベルアーリー、白用品種のケルナー、ポートランド、バッカス。赤用品種はツヴァイゲルト、ロンド、山幸、ピノ・ノワール。ブドウの生産数量は、圧倒的に白用品種が多いのが特徴です。
比較的降水量が少なくブドウ栽培に適しているため、ヨーロッパ系品種も多く栽培されています。ドイツやオーストリア品種のほか、近年は温暖化の影響もあり、シャルドネ、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブランも増加中。特にピノ・ノワールは急速に拡大しており、北の大地ならではの凛とした冷涼感のあるスタイルが人気です。
十勝のように寒冷地にも耐えうる品種を求めて、北海道独自の品種も開発されてきました。前述の十勝ワイン(池田町のブドウ研究所)が開発したのが、山ブドウと清見(セイベル13053のクローン選抜)を掛け合わせた赤ワイン用品種「山幸」「清舞」といった品種。「山幸」は甲州とマスカット・ベーリーAに続いて2020年OIVに認定され、ブドウの栽培面積が拡大しています。
加えて、押さえておきたいのがPIWI品種です。PIWI品種とは、ドイツ語で「耐性ブドウ」を意味し、ベト病やうどん粉病、灰色カビ病などブドウの病害に対して耐性がある交配品種のこと。農薬を減らすことにもつながり、日本全国でも注目され始めています。北海道ワインが力を入れており、PIWI品種による赤ワイン「PIWI’s Blend」というワインは値段もお手頃(税込1760円)なので、見かけたら手に取ってみてください。
5. 北海道ワインの主な産地
後志地方(余市・仁木など)
余市や仁木を含む後志地方は、道内でも比較的温暖なため、昔から果樹栽培がさかんな「北のフルーツ王国」。生食ブドウだけでなくワイン用ブドウの供給地として全国的に有名です。特に余市といえば、名が上がるのがピノ・ノワール。1980年代前半にピノ・ノワールの苗木が配られ、樹齢の古い畑も育ってきました。
道内初のワイン特区に認定された余市ではワイナリーの新規参入が著しく、2000年にはたった1軒しかなかったワイナリーが、現在は余市だけで15軒に増えています。そのパイオニア、ドメーヌ・タカヒコ(2010年設立)は、いまや世界が注目するカリスマ的生産者。オーナーの曽我貴彦氏に憧れ、独立を目指す若手ヴィニュロンも多く、日本人初&世界最年少のマスター・ソムリエ高松亨MSも余市でのワイン造りを目指し、曽我氏のもとで学んでいます。ほかにも海外での醸造経験も長い実力派の平川ワイナリーなど、実に個性豊か。新潟カーブドッチを興した落夫妻が2012年に設立したOcchi Gabiワイナリーでは、併設のレストランで雄大なワイン畑を眺めながらワインと食事を楽しめます。最近ではカルディを展開するキャメル珈琲の関連会社「キャメルファーム」がワイン醸造を開始、アロマティックで清涼感あふれるケルナー等が評判です。最近では隣接する仁木町にもその波が広がり、ワインツーリズムを推進するNiki Hillsなど5軒のワイナリーが設立されています。
空知地方
余市とならぶワイン用ブドウの栽培の中心地が空知地方。浦臼町には北海道ワインの自社農場、鶴沼ワイナリーがあり、日本でもっとも大きな447haの垣根式の葡萄畑が広がっています。一方、小規模個性派ワイナリーが多いのも、空知の特徴。映画「ブドウのなみだ」の舞台になった三笠市の山崎ワイナリーや、岩三沢市の近藤ヴィンヤードやナカザワヴィンヤードなどカリスマ栽培農家が造るワインがきらめきを放っています。ナカザワヴィンヤードの混植の畑から生まれる「クリサワブラン」は、国内最高峰の白ワインの一つ。北海道の空気感が伝わるような透明感が美しく、一度は飲みたいワインです。
産地全体を盛り上げようという動きがあるのも空知の特徴です。仕掛け人は、10Rワイナリーのブルース・ガットラブ氏。2012年に日本で初めて委託醸造を目的とした「カスタム・クラッシュ・ワイナリー」を設立し、現在20名以上もの意欲ある新規就農者が集っています。
道南
ほかにもおもしろい動きがあるのは、函館のある道南エリアです。先駆けは1973年創業の七飯町にあるはこだてワイン。余市などからブドウを調達していましたが、2018年には念願の自社畑を開園しました。
道南エリアのカリスマ的存在が、函館市元町の街なかに2011年に設立された農楽蔵ワイン。実力派の佐々木夫妻二人が造る野生酵母発酵、低~無亜硫酸添加のナチュラルワインは、リリースすれば即完売の人気ぶり。2023年から自社畑のある北斗市にワイナリーを移転し、更なるワインの品質向上と、地域のコミュニティづくりを目指します。ほかにも前述したド・モンティーユや、サッポロビールの自社畑開園など、新規参入が相次ぐ注目エリアです。
また、北海道南西部、日本海に浮かぶ奥尻島にもワイナリーがあり、ピノグリやピノ・ノワールなどのヨーロッパ系品種から、透明感のある海を感じるワインを造っています。
その他 札幌近郊、道東など
新千歳空港からも近い場所にあるのが、山梨中央葡萄酒の第二支店である千歳ワイナリー。1988年の創業以降、余市の木村農園と二人三脚で世界に通じるピノ・ノワール造りに取り組んできました。木村農園の樹齢の古いブドウを使った「北ワイン」は、知る人ぞ知る名品です。
道内で2番目に古い歴史を誇るのが、上川地方にあるふらのワイン。十勝ワインに続く行政が手掛けるワイナリーとして1972年に設立されました。また2019年には、山梨最古のワイナリーまるき葡萄酒を所有するレゾンディレクションが中富良野町にドメーヌ・レゾンを開設。名寄市には道内最北のワイナリー・森臥があり、寒さに強いバッカスや小公子からワインを造っています。
道東エリアの雄といえば、池田町にある十勝ワイン。ワインでの町おこしや独自品種の開発など、北海道のワイン産業を支えてきた老舗ワイナリーです。山幸、清見、清舞など独自品種を使ったワインや、瓶内二次発酵によるスパークリング「ブルーム」がおすすめです。
6. 北海道ワインの産地を巡る最近の動き
GI北海道
2018年には、産地を保護するためのGI(地理的表示)制度が、山梨に続き国内2番目に導入されました。GI制度は、その酒類が「正しい産地であること」と「一定の基準を満たした品質であること」を示すもの。つまり、北海道で収穫されたブドウを100%使用し、さまざまな基準をクリアしたワインにのみ「北海道」という産地名の表示できるしくみです。
北海道ワインバレー構想
また、北海道では、池田町のように自治体の長が町おこしの方策として、官主導でワイン造りを奨励してきました。そのため現在も、道によるワイン産業支援がさかんです。北海道庁は「北海道ワインプロジェクト」と称し、ワイン造りに携わる人を対象にしたセミナーや、北海道産ワインのプロモーションも行っています。
最近のホット・トピックとしては、2022年4月に発表された「北海道ワインバレー構想」。これは、道と北海道大学が連携して世界に通用するワイン産地形成を目指す取り組み。「北海道ワインプラットフォーム」を立ち上げ、販路拡大やブランド化を支援するほか、北海道大学に設立予定の「北海道ワイン教育センター」では栽培や醸造、販売などの研究や教育に力を入れていくとのことです。
ワインツーリズム
北海道観光の起爆剤としてワインツーリズムを推進している北海道では、秋の収穫期を中心にワイナリーツアーやイベントなども多数開催されています。
余市・仁木で2015年にスタートしたイベントが、「ラフェト・デ・ヴィニュロン・ア・ヨイチ」。余市のワイナリーとブドウ農家が協力して開催する「農園開放祭」で、参加者はブドウ畑やワイナリーを巡りながら貴重なワインを楽しむことができます。また、2022年には、旅行会社とホテル、ワイナリー協力による「ブドウ畑でレストラン in 池田町」というイベントが初開催、空知の人気イベント「そらちワインピクニック」が3年ぶりに開催されるなど、コロナ禍で縮小していたツーリズムも、再び息を吹き返しつつあります。
7. 北海道ワインのまとめ
土地に根付く開拓スピリットで、寒さにも負けずワイン造りの歴史を築いてきた先人たち。その志は脈々と受け継がれ、今ますます個性豊かで素晴らしい品質のワインが産まれています。広大な北海道の風景を思い浮かべながら、ぜひ今夜は北海道ワインを楽しんでみてください!