鮮烈な香りと生き生きとした味わいが人気のニュージーランドワイン。ソーヴィニヨン・ブランがあまりに有名ですが、実はさまざまなワインが造られている奥深い産地です。最近では日本人生産者の活躍も目覚ましく、身近に感じることも多いのではないでしょうか?今回はそんな美味しいワインの宝庫、ニュージーランドに焦点を当てて解説していきます。
【目次】
1. ニュージーランドワインの特徴
2. 半世紀で世界的なワイン産地へ、ニュージーランドワインの歩み
3. ニュージーランドの気候
4. 主要ブドウ品種
5. 主要産地
6. ニュージーランドワインのおすすめペアリング
7. ニュージーランドワインのまとめ
1. ニュージーランドワインの特徴
南太平洋に浮かぶ国ニュージーランド。ワイン造りの歴史は比較的浅い国ではありますが、この50年ほどで目覚ましい発展を遂げ、現在は広い地域でワインが造られています。白ワインはソーヴィニヨン・ブラン、赤ワインはピノ・ノワールが二大品種で、中でもソーヴィニヨン・ブランは全生産量の約7割を占めるニュージーランドの代表選手。トロピカルフルーツやハーブの香る爽快なスタイルが、世界中から高い評価を受けています。白ワインの生産が8割を占めますが、日照量も多いため、軽やかなピノ・ノワールからフルボディのボルドーブレンドまで造ることができます。
ニュージーランドワインの特徴といえば、鮮やかな果実香とシャープな酸。高い日照量と昼夜の寒暖差が産む、輪郭のはっきりとしたが味わいが魅力です。ニューワールドのワインとしては涼しげでエレガントなため、旧世界のワインがお好きな方にもグー。また品種の特徴がわかりやすいため、ワイン初心者にもおすすめです。
2. 半世紀で世界的なワイン産地へ ~ニュージーランドワインの歩み
ニュージーランドは自国でのワイン消費が少なく、なんとワイン生産量の8割が輸出される輸出大国です。現地ではワインよりもビール党が多く、ワイン文化が根付いているというわけではないようです。それもそのはず、実はその歴史は浅く200年ほど。19世紀の初めに英国人の宣教師サミュエル・マーズデンによってオーストラリアからブドウの苗木が持ち込まれ、その後、1836年に「オーストラリアのブドウ栽培の父」ジェームズ・バズビーによって初めてワイン造りがスタートしました。ただし20世紀に入っても酒精強化ワインの生産が主で、ようやく世界に知られるようになったのは、1980年代になってから。1985年にマールボロ―地区の生産者クラウディ・ベイが発売したソーヴィニヨン・ブランはイギリス市場で高い評価を受け、「世界が白に目覚めた一本」と称されました。熟したトロピカルフルーツと青草の鮮烈なアロマ、酸のしっかりとした生き生きとした味わい。これまでにない独自スタイルが、ソーヴィニヨン・ブランの認識を変え、以後、マールボロ―・スタイルのソーヴィニヨン・ブランが世界中で造られるようになったのです。
その後マールボロ―のソーヴィニヨン・ブランの成功により、1981年には5000haだったブドウ栽培面積も、2019年までの約40年間で38000haへと約4倍に拡大。もともと乳業がさかんだったニュージーランドでは、衛生管理や温度コントロールなどの醸造技術の基準が高く、雑味のないクリーンな味わいを造るのはお手のもの。歴史が浅い分、最新の技術や設備を導入できたことも、品質向上への近道となりました。
また特筆すべき点としては、ニュージーランドではコルク汚染を防止する効果のあるスクリューキャップが99%を占める点。日本だとスクリューキャップはリーズナブルなワインに使用されるイメージがあるかもしれませんが、ニュージーランドでは高級ワインにもスクリューキャップが使用されています。
3. ニュージーランドの気候
南緯36~46度、北島と南島に分かれた細長い島国ニュージーランド。四方を海に囲まれているため、基本的には温暖な海洋性気候ですが、内陸にあるセントラルオタゴは海の影響が弱い半大陸性気候。南半球に位置するため、北のほうが温暖で南が冷涼になります。
ニュージーランドの地図を見ると気付くのが、産地が国の東側に集中していること。これは、南島を縦に走る山脈が、雨をもたらす西からの雨風を防いでくれるためです。
栽培面としては、基本的に降水量が多く土壌が肥沃なため、ブドウの葉の管理(キャノピー・マネジメント)が重要です。葉が茂りすぎると湿気がたまり、カビ病の原因になってしまいます。キャノピー・マネジメントは長らく生産者の悩みの種でしたが、1980年代にリチャード・スマート博士が技術を広めたことで栽培環境が劇的に向上したことも、ニュージーランドワイン躍進の背景にあるでしょう。
そのほか興味深い点としては紫外線の影響があります。オゾンホールの破壊に加え、紫外線を遮る空気汚染が少ないことにより、ニュージーランドの地上の紫外線レベルは北半球の同緯度の場所と比べてなんと40%も高いそう。この紫外線は人間には毒ですが、ブドウの色素やタンニンの発達を促すため、黒ブドウにとっては好影響。セントラルオタゴのピノ・ノワールなどは、しっかりと色づいたものが多いですよね!
4. 主要ブドウ品種
ソーヴィニヨン・ブランの大流行により世界のワイン地図にのったニュージーランド。いまでも生産量の約7割をソーヴィニヨン・ブランが占めています。黒ブドウで栽培面積が大きいのはピノ・ノワール(全体の15%)。栽培面積は1999年から2008年の10年間で5倍以上に増えていることからも、その人気の高さが窺えます。どちらも冷涼な気候を好む品種のため、ニュージーランドの冷涼な気候には適しているのですね。世界中で栽培されている花形品種ですが、念のため特徴をおさらいしておきましょう。
ソーヴィニヨン・ブラン
ハーブや柑橘の爽やかなアロマにクリスピーな酸、フレッシュな味わいが特徴の白ブドウ品種。もとはボルドーを含む南西フランスとロワール原産ですが、世界中で栽培されています。特にニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランは、わかりやすいトロピカルフルーツの香りが特徴。樽熟成しないすっきり辛口の白ワインがほとんどですが、最近は新たなスタイルを模索するため、野生酵母を使用したもの、樽発酵・樽熟成したもの、スパークリングワインなど、さまざまなバリエーションも造られています。
ピノ・ノワール
バラやスミレなど華やかな花のアロマ、苺やチェリーなど赤い果実やスパイス…妖艶な香りで人々を魅了してやまないブルゴーニュ原産の品種。ニュージーランドでは日射量の高さからブドウがよく熟すため、旧世界のピノ・ノワールよりも果実味が豊かで快活な印象になります。産地としては、マーティンボロー(北島)やマールボロー、(南島)、セントラルオタゴ(南島)が有名です。
その他
二大品種のほかにも、シャルドネやメルロ、シラーなども重要な品種。ボルドーブレンドのワインも北島では造られていますが、カベルネ・ソーヴィ二ヨンがしっかり熟すにはニュージーランドはやや冷涼なため、メルロの方が多く栽培されています。
そのほかリースリングやピノグリ、ゲヴュルツトラミネールといったアルザス系品種も、ニュージーランドでの栽培に適した重要な品種です。
5. 主要産地
オークランドやギズボーン、ホークスベイなどが位置する北島、マールボローやセントラルオタゴのある南島に、合わせて10のワイン産地があります。主要な産地をさくっとみていきましょう。
オークランド
かつてのニュージーランドのワイン生産の中心地で、今も多くの大手企業の本社があるオークランド。西オークランド、マタカナ、ワイへケ・アイランドと大きく3つのエリアに分かれています。
西オークランドで覚えておきたいのがクメウ・リヴァー。ニュージーランド初のマスター・オブ・ワインであるマイケル・ヴラコヴィッチMWが秀逸なシャルドネを造っています。オークランドからも近いマタカナはワインツーリズムもさかんな場所。生産者としては、亜硫酸無添加の自然派ワイン「プロヴィダンス」が有名。元メルシャン工場長の浅井昭吾氏に与えた影響は、その著作『ワインづくりの思想』で仔細に描かれています。より温暖なワイへケ島はカベルネやシラー主体の赤ワインがメイン。熟すのに時間がかかる黒ブドウ品種も栽培可能です。
ギズボーン
ニュージーランドの最東端にあるギズボーン。以前はニュージーランドの主力産地でしたが、現在はマールボロ―をはじめとする他の産地に座を譲り、現在は5番目の生産地です。生産量の半分以上をシャルドネが占めるシャルドネの聖地で、トロピカルフルーツの香りがするたっぷりとした味わいが特徴。生産者としては、ニュージーランドで初めてオーガニック&ビオディナミ認証を取得したミルトン・ヴィンヤーズ&ワイナリーが有名です。
ホークスベイ
マールボロ―に次いで二番目の栽培面積を誇る産地。特にボルドー系赤品種とシラーの産地として知られ、メルロ、シラー、カベルネの割合が8割以上を占めています。メルロ主体のボルドーブレンドが有名ですが、最近はシラーへの期待も高まっており、ニュージーランドのシラーの3/4がホークスベイで生産されています。
小地区として特に名高いのが「ギムレット・グラヴェルズ・ディストリクト」。Gravelという名の通り、ボルドーに似た石がちの沖積土壌で、ボルドー風の赤ワインが造られるのも納得ですね!その西側にある「ブリッジ・パ・トライアングル」も、柔らかなテクスチャーをもつ高品質な赤ワインで評価を得ています。
マーティンボロ―(ワイララパ)
北島の最南端にあるワイララパは、小規模のブティックワイナリーが多く存在する高級ワイン産地。首都ウェリントンから車で1時間ほどと近いため、ワインツーリズムもさかんです。特に名高いのがマーティンボロ―地区。鮮烈でエレガントなスタイルのピノ・ノワールで知られています。アタ・ランギやマーティンボロー・ヴィンヤードなどの他、日本人生産者のクスダ・ワインズが有名。こちらのオーナー楠田浩之氏を筆頭に、ニュージーランドでは日本人生産者が活躍しています。
マールボロー
同国のブドウ栽培面積の7割を占める、押すに押されぬNo.1生産地です。ニュージーランドワインを世界に広めた立役者クラウディ・ベイがソーヴィニヨン・ブランを植えたのは1973年。その後の躍進は、先に書いた通りです。ワイラウ・ヴァレー、サザン・ヴァレー、アワテレ・ヴァレーの3地区に分かれ、土壌や標高の違いなどのミクロクリマがワインのスタイルに影響を与えています。ソーヴィニヨン・ブランが生産の8割を占めますが、冷涼な気候から生み出されるピノ・ノワールやピノグリ、リースリング等も秀逸です。日本人生産者も多く、フォリウム・ヴィンヤードの岡田岳樹氏やキムラ・セラーズの木村滋久夫妻もマールボロ―でワインを造っています。
ネルソン
南島の最北にある西側の産地ネルソンは、年間1000㎜程度と比較的降水量が多く緑豊かな場所。大手企業があまり進出しておらず、小さなブティックワイナリーが多い穴場の産地です。ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワールのほか、シャルドネ、ピノグリ、リースリング、ゲヴュルツトラミネールなども造られています。
セントラルオタゴ
南島のピノ・ノワールの産地として知られるセントラルオタゴ。南緯45度に位置する世界最南端の産地です。強烈な日差し、昼夜の寒暖差、乾燥した気候で育つピノ・ノワールはしっかり熟しながらも酸が保たれ、比較的アルコール度数の高い凝縮感のあるピノ・ノワールになります。フェルトン・ロード、リッポンなど有名生産者が並み居るなかで、日本人生産者のサトウ・ワインズ(佐藤嘉晃夫妻)がきらりと存在感を放っています。
カンタベリー
南島の首都クライストチャーチのあるカンタベリー。風が強く非常に冷涼なため、もともとブドウ栽培は困難とされていましたが、最近は白ワインの評判が高い産地。特にソーヴィニヨン・ブランやリースリング、シャルドネ、ピノ・ノノワールなど冷涼な気候に向く品種で成功しています。
6. ニュージーランドワインのおすすめペアリング
ボルドーではソーヴィニヨン・ブランには牡蠣が鉄板なように、貝類や魚介にぴったりのソーヴィニヨン・ブラン。サーモンのマリネや魚介のカルパッチョなどにもばっちりです。ブリッジ食材としてハーブやピンクペッパーなどを添えると、ペアリングの完成度がさらに上がります!それから変化球で行くと、あえてのお肉に白ワインもおすすめ。ご存じ、ニュージーランドは「羊のほうが人口よりも多い」といわれるほど羊が有名。ラム肉にソーヴィニヨン・ブランも、意外なほどよく合いますよ。
7. ニュージーランドワインのまとめ
南北10の生産地からさまざまなワインを生産しているニュージーランド。ソーヴィニヨン・ブランの次は、ピノ・ノワールやボルドーブレンド、アルザス系品種…などテーマを決めて飲んでみるのも面白いですね。日本でも様々なニュージーランドワインが手に入るので、ぜひ色々と試してみてくださいね!