「ワインを学ぶことで、人生の選択肢が一気に広がった」と語るのは、かつて大手広告会社で活躍し、現在は電子部品メーカーに勤める後藤忠明さん。週末ごとに埼玉と長野を行き来しながら、「千曲川ワインアカデミー」※で学びを深めています。後藤さんが感じる長野での学びの醍醐味と、今後の展望について伺いました。
※千曲川ワインアカデミー(今年創設10年目)は、長野県の千曲川流域で、日本ワインについての知識や栽培・醸造技術を学べる教育機関です。将来ワイン作りに関わりたい人、さらにはワイン愛好家やプロを目指す人が集まり、現地での実習や専門的な講義を通して日本ワインの魅力と奥深さを学んでいます。
【目次】
1. 人生を変えたサントーバンとの出会い
2. 自分も挑戦できるかも!? 千曲川ワインアカデミーへの入学
3. 刺激と発見の連続
4. Mission Possible 2つの任務
5. ワインを学ぶよろこびと充実
1. 人生を変えたサントーバンとの出会い
昔から「ワインを飲むこと」がなんとなく好きだった私の人生に、転機が訪れたのは25年前。赴任先のブリュッセル、ムール貝が名物の店でのことです。ギャルソンが「サントーバンを合わせるといいよ」と薦めてくれたのですが、「サントーバンって…何?」と地図を広げたのが、私のワイン人生の“ギアチェンジ”でした。
その後は、ワインに地理、気候、宗教、そして政治までが絡み合っていることに気づき、世界史好きだった私はすっかり心酔していきました。こうなったら資格を取ろう、とアカデミー・デュ・ヴァンで本格的な勉強を始めることに。JSAワインエキスパート、そしてWSET® Level3で学んだ「冷涼地域をどう温めるか、温暖地域をどう冷やすか?」という、自然と人間のせめぎ合いとワインの奥深さにどんどん引き込まれていく私の姿がそこにありました。
2. 自分も挑戦できるかも!? 千曲川ワインアカデミーへの入学
試験勉強の中で「千曲川ワインアカデミー」の存在を知りました。創設者の玉村豊男さんのことも以前から気になっていましたが、正直「自分には少し距離があるのかな」と思っていたんです。ところが最近、ブドウ栽培/ワイン醸造を志す方々以外も次々とこのアカデミーに入学していることを知り、「迷わず自分も挑戦してみよう!」と思い始めたのです。
ただ、私の目的は志願者の大半が目指す「ワインの生産」とは異なり、「日本ワイン、特に長野ワインの魅力を広めること」でした。この気持ちを突き動かしたのは、おそらく広告会社で長く過ごした自分の本能…?(笑) 感動するものを多くの人に伝えたい。これこそ、自分の腕が一番発揮できる領域だ、と確信していたからです。まだ知られていない素晴らしい長野ワインを世界に広めたい、海外市場に売り込みたい―その情熱がメキメキと湧き上がってきたのです。
3. 刺激と発見の連続
アロマに関する授業で、私が「ゲヴェルツトラミネールにはライチの香りがありますね」と言った時、クラスメイトが授業後に「後藤さん、詳しいですねー」と真顔で感心してくれて…。「まっ、それなりにワイン知識はありましてね、エヘン」と言いたいところをぐっと我慢(笑)。ところが、畑仕事の経験者たちが喋り出すと、途端に異次元の会話が飛び交います。「9月末に収穫予定だけど、残留期間を考えると7月末がラストチャンス」といった散布のスケジュール管理について話しているのですから。机上の知識しかない私にとっては、もはや暗号レベル…。
でも、これこそが同アカデミーの魅力。お互いに刺激を受け、新鮮な発見がある時間は最高です。「そんなことも知らないの?」なんていう人は一人もいません。それぞれの夢を尊重し合い、アイデアを出し合い、絆を深めていく、素晴らしい場所です。
4. Mission Possible 2つの任務
日本のウイスキーやSAKEは今や世界的なネームバリューを誇るのに、ワインになると「え、日本にもワインなんてあるの?」という反応がまだまだ多いように思います。この、目に浮かびにくい日本ワインの風景を海外にもっと伝えたい―そんな思いで千曲川ワインアカデミーで学び、今、自分に課したミッションが2つあります。
1つめは、日本ワインとその作り手たちのクオリティを世界に発信することです。メルロ、シャルドネ、甲州、マスカット・ベーリーAといった日本の品種を「ミシュラン」などの目の肥えた審査員にブラインドテイスティングしてもらい、ぐうの音も出ないほど感動させたい。まさに「パリスの審判」日本版です。
そして2つめは、海外各国からシャルドネの生産者を千曲川に招き、「シャルドネ世界大会」を開催すること。目標は、アメリカ・オレゴンの「インターナショナル・ピノ・ノワール・セレブレーション」のような国際的イベントを日本で実現させることです。長野を「日本のワイン銘醸地」として世界に知らしめ、そのイメージを確立させてブランド化する―それが私の夢です。
5. ワインを学ぶよろこびと充実
日常の喧騒から解放され、土曜の早朝に新幹線に飛び乗り、窓越しに広がる北アルプスや浅間山をぼんやり眺める。その2時間こそが、今、何よりも幸せな時間です。千曲川ワインアカデミーは、今や私にとっての「サードプレイス」として定着しました。そして、そのきっかけとなった、アカデミー・デュ・ヴァンの門を叩いた6年前のあの日にさかのぼるのです。
プロフィール
後藤忠明(ごとうただあき)
- 星座:おとめ座
- 血液型:0型
- ワイン以外の趣味:スポーツ観戦(もっぱらラグビー)、土日にスタバで新聞一週間まとめ読み。
- 好きな食べ物:チョコレート (ブリュッセル勤務時代の住まいはピエールマルコリーニの工房そばでした)
- もし生まれ変わったら何になりたい?:今の自分に。それもスタート地点は高校受験の直前あたりに戻りたい。
- 酔っぱらったらどうなる?:ルー大柴並みの英語、フラ語が飛び交います。
- 人生を変えたワイン:台風と戦い奇跡のワインと言われる都農ワインさんの「キャンベルアーリー」 7~8年前にいただきました。ヴィンテージ、畑、醸造方法は残念ながら、失念しました。
- SNSアカウント:インスタは冬眠中(追って公開予定)、FBアカウントは Tad Goto です。