ワインの裏にある表示を見ると、「酸化防止剤(亜硫酸塩)」と書かれていることに気づきます。
インターネットやSNSなどでは、この酸化防止剤という食品添加物が健康に悪影響を与えるのではないか、ワインを飲んだ後に頭痛を引き起こす原因なのではないかといった声が上がっており、それを見て不安に感じている方もいるでしょう。
たしかに食品添加物を過度に摂取すると体に悪影響を与えますが、適切な量であればワインの安全性・品質を守り、おいしいワインを造るのに役立ちます。
高級ワインの生産者を含めてほとんどのワイナリーは、ワインを安全においしく提供することを目的として酸化防止剤を入れています。
ただし、使う量は必要最低限。
厚生労働省は体への影響を考慮し、人の健康を損なうおそれのない場合に限って酸化防止剤の使用を認めることを食品衛生法に明記し、使用量についても決めています。
法整備も整っており、公的機関も適切な使用に向けて動いていますので過度に気にする必要はないのですが、酸化防止剤がどういったものなのか分からないと不安に感じてしまいますよね。
この記事を読んで酸化防止剤の役割を正しく理解してモヤモヤをなくし、楽しくワインを味わっていきましょう。
【目次】
では、上の目次に沿ってワインの酸化防止剤について説明します。
酸化防止剤とは
酸化防止剤は、食品が酸化によって劣化したり変質したりするのを防ぐ作用を持つもののことで、ワインの場合には亜硫酸塩という成分が酸化防止剤の役割を担います。
冒頭にもお伝えしましたが、過度な摂取は体に悪い一方で、適切な量の酸化防止剤を使うことは食品の安全性や品質を守ることにつながります。
そのため、厚生労働省は人の健康を損なうおそれのない場合に限って使用を認めることを食品衛生法に明記しており、使用量についても決めています。
「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事。食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合を除いては、添力日物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であつて添加物として使用されるものを除く。)並びにこれを含む製剤及び食品は、これを販売し、又は販売の用に供するために、製造し、輸入し、加工し、使用し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。」
出典:食品衛生法 第10条
日本のワインに使用できる亜硫酸塩の量は350ppm以下となっています(0.35g/kg以下や350mg/L以下とも表記されます)。
この基準を超えないレベルなら人体に影響はないため、使っても良いとしたということです。
使用できる亜硫酸塩を他の食品と比べると……
食品 | 使用できる酸化防止剤(亜硫酸塩)の量 |
かんぴょう | 5,000ppm |
ドライフルーツ(干しブドウを除く) | 2,000ppm |
干しブドウ | 1,500ppm |
こんにゃく粉 | 900ppm |
乾燥じゃがいも ゼラチン |
500ppm |
ワイン | 350ppm |
糖化用タピオカでんぷん | 250ppm |
甘納豆 えび |
100ppm |
参考:公益財団法人 日本食品化学研究振興財団「各添加物の使用基準及び保存基準(令和元年6月6日改正まで記載)」
ワインに添加できる亜硫酸塩の量は、タピオカでんぷんと大きくは変わらず、かつ、かんぴょうやドライフルーツはワインよりもはるかに多いことが分かります。
だからと言って、ドライフルーツやタピオカを食べないようにした方が良い、あるいは酸化防止剤を使わずにワインを造る方が良いというわけではありません。
食品の安全性を高めて、おいしく食べられるようにするために亜硫酸塩が使われているのですし、日本で売られている食品は人体に影響を与えない量に収められていますので過度に気にしなくても良いでしょう。
ただし、重度のぜんそくを患っていたり、強いアレルギーを持っていたりする方は十分に注意を払い、医師の指示を仰いでください。
酸化防止剤の具体的な役割とは
酸化防止剤には、具体的に4つの役割があります。
<酸化防止剤(亜硫酸塩)の役割>
❶雑菌の増殖を防ぐ
収穫したばかりのブドウの皮には雑菌がついているため、殺菌が必要となります。酸化防止剤には抗菌作用があり、雑菌を死滅させることができます。
❷ワインの劣化を防ぐ
亜硫酸塩は、酸化しやすい性質を持ち、いち早く酸素と結合します。そのため、ワインが酸化して劣化するのを防ぐことができます。
❸刺激臭を抑える
酸化防止剤には結合作用があり、アセトアルデヒドと結合します。アセトアルデヒドは発酵中や貯蔵中に発生し、刺激臭を発しますが、酸化防止剤と結合することによって臭いを抑えることができます。
❹ポリフェノールの抽出を促進する
酸化防止剤は、ブドウの果皮からのポリフェノールといった成分の抽出を促進します。
酸化防止剤を添加することによってワインの品質を守り、おいしいワイン造りができるようになります。
亜硫酸塩の添加のタイミングとは
白ワインの場合
白ワインに亜硫酸塩を添加するタイミングは、基本的には圧搾後です。
白ブドウを収穫した後、枝と皮を取り除いた後に、果汁を絞り出す「圧搾」となります。
本来であれば、白ブドウが酸化して変色しないようにするために、なるべく早いタイミングで酸化防止剤を入れるほうが良いのですが、酸化防止剤に含まれるポリフェノールなどの抽出促進作用がネックとなります。
白ワインは皮や種に含まれる渋味成分などが入らないように造りますので、酸化防止剤を入れるタイミングが圧搾後となります。
赤ワインの場合
赤ワインで酸化防止剤を入れるタイミングは、黒ブドウの枝を取り除いた後です。
酸化防止剤の役割の1つ、果皮に含まれる渋味成分などの抽出促進効果が、おいしいワイン造りにとってプラスに働きます。
なお、ボージョレ・ヌーヴォーなどフレッシュなワインとして仕上げないほとんどのワインはマロラクティック発酵を行いますが、マロラクティック発酵の場合には、発酵直後に入れます。
貯蔵中には酸化防止剤の量を分析し、揮発したり結合したりして足りない場合には追加していきます。
頭痛がする原因は亜硫酸塩ではない?
頭痛の原因が、酸化防止剤(亜硫酸塩)にあるのではないかと考える方がいますが、これには賛否両論あります。
その他の原因としてはアミンに含まれるヒスタミンやチラミン、タンニン(渋味成分)が考えられます。
酸化防止剤を含め、ワインに含まれるこうした成分にアレルギー反応を起こし、それが頭痛につながっている可能性があります。
酸化防止剤(亜硫酸塩)
亜硫酸塩がアレルギーとなって、頭痛が起こっている場合があります。
亜硫酸塩に原因があるかどうかを自分で判断するには、亜硫酸塩が含まれる他のものを食べる、もしくは亜硫酸塩があまり含まれないワインを飲むという方法があります。
かんぴょうやドライフルーツ、甘納豆、エビ、あるいは酸化防止剤の少ないオーガニックワインなどで頭が痛くならない場合には、酸化防止剤が原因となっている可能性があります。
アミンに含まれるヒスタミンやチラミン
赤ワインの製造工程にマロラクティック発酵というものがありますが、その途中でヒスタミンやチラミンが発生します。
ヒスタミンには血管を拡張させる作用、チラミンは収縮させる作用があり、この2つの成分が片頭痛の原因となることがあります。
ヒスタミンやチラミンは、チーズやたらこ、魚醤油、スモークソーセージなどに含まれていますので、これらを食べて頭が痛くなったことがある方はヒスタミン・チラミンが原因かもしれません。
タンニン(渋味成分)
タンニンは鉄分を吸収する作用があるため、ワインを飲むことによって貧血になってしまう可能性もあります。
タンニンは、チョコレートやヘーゼルナッツ、ブルーベリー、くるみ、シナモン、蜂蜜などに含まれています。
頭痛の経験がないか振り返ってみてください。
原因を推測しやすくするために、3つの成分を挙げてご紹介しましたが、ワインを大量に飲んで頭が痛くなる場合には、二日酔いも疑ってみてくださいね。
酸化防止剤無添加ワインとは
酸化防止剤を添加せず、ワイン自体に含まれる亜硫酸の量を極端に減らして造った酸化防止剤無添加ワインもあります。
どうしても酸化防止剤(亜硫酸塩)が気になる場合には、こちらをお買い求めください。
ただ、酸化防止剤無添加ワインは通常の製造法とは少し異なった方法で造られていることに注意が必要です。
ブドウについた雑菌の醸造前の増殖や、ワインの製造中に発生するアセトアルデヒドからは異臭・刺激臭が生じます。
酸化防止剤はその異臭・刺激臭を抑える役割がありますが、無添加のワインの場合にはそれを防ぐ術がありません。
そこで、そもそも発酵開始の早い酵母やアセトアルデヒドが発生しにくい酵母を使うなど、各社様々な方法を使って酸化防止剤無添加ワインを造っています。
そのため、通常のワインと比べると、酸味や渋味など味わいのバランスが悪いと感じられることもあり、舌に合わない方もいます。
ただ、その味わいや香りにハマる方もいますし、価格も安いので一度試してみてはいかがでしょうか。
酸化防止剤無添加ワインとオーガニックワインは異なる
酸化防止剤無添加ワインとオーガニックワインを同じものと考えている方もいるかもしれませんが、大きく異なります。
オーガニックワインは、酸化防止剤の亜硫酸塩を入れる量に制限はありますが、無添加というわけではありません。
添加する量は通常のワインよりも少ないため、オーガニックワインを試してみるのも良いですが、酸化防止剤無添加ワインとは異なることは念頭に置いておきましょう。
オーガニックワインについて詳しくは「オーガニックワインとは?ビオワインとの違いは?」をご覧ください。
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まとめ
重度のぜんそく患者などを除き、ワインに含まれている程度の量の酸化防止剤では健康には影響しません。
むしろ、ワインを安全においしく飲むために必要なものです。
酸化防止剤の役割や影響を知ることができ、少しは安心できたのではないでしょうか?
正しく理解して安心したら、いつものワインも普段よりおいしく飲めますね。