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「オレンジワイン 復活の軌跡を追え!」を読む。
これはかなりのオススメ。
オレンジワインをとても真面目に
そして詳細に解説した本。
オレンジワインを語る人の中には、
自然派ファンが往々に見受けられ
その熱烈な語りに辟易することがある。
一方、否定派の誤解や偏見もこれまた相当なものだ。
どちらもオレンジワインの知識が
まだまだ十分に普及していないからに他ならない。
この本の前書きで、著者はオレンジワインには
「おびただしい数の迷信、神話、無知、認識不足が渦巻いている」と嘆き、
「オレンジワインの素晴らしさに関する知識を簡潔にまとめた」と述べる。
内容はオレンジワイン発祥の地である
フリウリ、スロヴェニア、そしてジョージアの
戦争や体制に翻弄された歴史をたどり、
オレンジワインの系譜と
背後にある豊かな文化を読み解くところから始まる。
(ワイナリーの画像が多いのも嬉しい。)
全体を通して哲学や思想に振り回されることなく、
事実を積み上げていく著者の冷静な姿勢が心地よい。
自然派であろうと不自然派であろうと
ワインを扱うプロならぜひとも読むべき一冊だ。
そして読書の傍らに楽しむのはもちろんオレンジワイン。
ジョージアも良いのだが、日本にも素晴らしいオレンジワインがいくつかある。
中でも勝沼のルバイヤート甲州醸し2019はイチオシ。
甲州種ブドウから造られたオレンジワインで
甲州の未知の顔を垣間見ることができる、骨太のオレンジだ。
題名:オレンジワイン 復活の軌跡を追え!
著者:サイモン・J・ウルフ(監修:葉山考太郎)
出版社:美術出版社
「カルヴァドスブック」を読む。
日本でカルヴァドスだけの本というのは
初めてではないだろうか。
大好きな酒だけに嬉しい。
さて、カルヴァドス地方には
Trou Normand (トゥルー・ノルマン、ノルマンの穴)という
伝統的な飲み方がある。
北国ノルマンディーではバターやクリームを使った重たい料理が多い。
その料理の合間にショットグラスでカルヴァドスを一気飲みすると、
いっぱいになった胃袋に穴が空いたように
また料理を食べ続けることができるのだ。
なんとも豪快な飲み方ではないか。
カルヴァドス騎士団の例会では
必ずトゥルー・ノルマンの儀式が行われる。
メインの肉料理が出る前に
会席者全員でグラスを持って立ち上がり、
トゥルー・ノルマンの歌を高らかに合唱し、
グラスを一気にあおり、
そしてぴょんぴょんと跳ねる。
(跳ねることにより胃の中の食べたものが早く落ちるのだ。)
着飾った紳士淑女が大真面目にぴょんぴょん跳ねる様は
なかなかの見ものだ。
この本はその騎士団の会長でもあり
最高のカルヴァドスを造り続けるクリスチャン・ドルーアン氏の著。
歴史、製造方法、法律、楽しみ方など
カルヴァドスの全てを網羅。
ああ、読んでいると彼の造ったカルヴァドスが飲みたくなってくる。
レゼルヴあたりでも良い酒だが、少し奢るならXOがオススメ。
カルヴァドスのXOは通常6年熟成だが
クリスチャンのは贅沢にも8年〜15年熟成の原酒をブレンド。
リンゴのほのかに甘い香りが漂い、コクと複雑さのハーモニーは絶品だ。
それともう一つオススメがある。
瓶の中にリンゴが一個丸ごと瓶の中に入っている
ポム・プリゾニエールは見ても楽しいぞ。
「このリンゴ、瓶の中にどうやって入れたと思う?」
と身近な人を捕まえてからかうのに最適だぞ。
題名:カルヴァドスブック
著者:クリスチャン・ドルーアン(翻訳:白須知子)
出版社:たる出版
2020.08.07
遠藤利三郎 Risaburo Endo
本名遠藤誠。三代目遠藤利三郎を襲名する。
ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュの3大ワイン騎士団を始め多くのワイン騎士団から騎士の称号を受ける。世界の歴史や文化の視点からワインをわかりやすく語り、ワイン以外の酒類やシガーにも幅広い知識と愛情を持つ。著書に「ワイン事典(学研)」、監修に「シャンパーニュ・データブック(ワイン王国)」、「新版ワイン基礎用語集(柴田書店)」、共訳に「地図で見る世界のワイン(産調出版、ヒュー・ジョンソン)」など著作多数。ワインバー遠藤利三郎商店オーナー。