葉山考太郎の新痛快ワイン辞典 Vol.28

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葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特 有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「め」で始まる語をお届けします。

見出し語について

(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー

(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー

(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート


■め■

めいしゅはめいすいから(名酒は名水から)

ワインには当てはまらない酒作りの基本法則。山梨の白州蒸溜所には尾白川、灘の清酒は宮水など、良い酒は良い水からできる。でも、ワインはブドウだけで作り、水は使わないので、ワイン作りには無関係の法則。逆に、水質が悪い地域の水分補給用にワインを飲む。

めいよソムリエ(名誉ソムリエ)

ソムリエの経験や技術はないが、広報活動で貢献した(してくれそうな)著名人に日本ソムリエ協会が授与する称号。首相、厚生労働大臣を初めとする政治家、ワインの出版関係者、ワイン関係企業のエラい人、ワイン好きの文化人、芸能人が対象。普通のソムリエより格上と錯覚しそうだが、その逆であることは、「フグ調理師」と「名誉フグ調理師(もしあれば)」を比べれば分る。だから、名刺に大イバリで書けるものじゃないと思う。(関連項目:江川卓)

めずらしいワイン(珍しいワイン)

ワイン愛好家が飛びつくもの。ただし、次の話のような「珍しいワイン」には十分な注意が必要。愛好家A「とっても珍しいワインを手に入れたぞ。ほら、ロマネ・コンティの1947年だ」愛好家B「えー? ロマネ・コンティは1946年から1951年まで、ブドウ樹の植え替えで1本も作っていないはずだよ」愛好家A「だから、珍しいんじゃないか」(関連項目:稀少ワイン)

メタイヤージュ (me/tayage)

超プロ用語。知っているだけで尊敬される。物納小作の意味で、借りたブドウ畑の借地代をブドウやワインで納めることで、「アタシの身体で払うワ、ウフフ」と同じ。この形態はブルゴーニュでよく見かける。

めべり(目減り)

理想的な条件でワインを保存しても、少しずつワインが減ること。米国マサチューセッツ州の愛好家の実験では、1年に1cc、ボルドー型のボトルの首の部分だと1mmずつ減るらしい。英語で「アレジ(ullege)」と言うが、アメリカでこんなレアな言葉が通じるのはワイン通だけ。普通のアメリカ人は 「good fill (一杯詰まっている)」 とか 「bad fill (盛りが悪い)」 を使う。(関連項目:トップ・ショルダー)

メモワール・デュ・ヴァン (Memoire du Vin)

化学ノリでガチガチに接着したラベルでも簡単に剥がして保存するためのアイデア商品。幅の広い透明ガムテープをラベルに貼り付けてベリッと剥がし、ラベルの表面をガムテープにくっつける大胆な方法(この発想は私にはなかった……)。あとに残る白ラベルのボトルは、ノッペラボウみたいでちょっと不気味。アイデア商品とは言え、1枚100円はちょっとツラい。金物屋さんで10cm幅のテープを買ってくれば、無骨ながら1/10の値段で同じことができる。ちなみに、書画骨董界の「究極の贋作造り」のテクニックが「相剥(あいはぎ)」で、本物の書を上下2層に薄く剥がすこと。本物が2枚できるが、失敗すれば本物もおしゃかになる。緊張感は物凄く、血管の中をドライアイスが秒速20mで流れるような感じだろう。(関連項目:ヒコーキ)

メランジュほうしき(メランジュ方式)

リーデルみたいな高級グラスの足をねじ切った場合の修復方法。足が細いのでアロン・アルファで接着できないし、ガムテープで巻いてもワインの重さに耐えられない。こんなときは長いコルクにドリルで穴を明け、そこに折れた両端を差し込んで固定すればよい。一見、膝が膨れたフラミンゴみたいでデザイン的に面白いし、コルクのおかげで持ちやすいし、安定感が抜群でグラグラしない。この方法を教えてくれた東京、虎ノ門のワイン・バーの名前を取って、私はこの修理法を「メランジュ方式」と呼んでいる。私は、「電動工具界のロマネ・コンティ」と言われるマキタの打撃ドリル(別名、キツツキドリルで、コンクリートにも穴を明けられる)を使ってコルクに穴を明け、アカデミー・デュ・ヴァンからタダでもらってきた破損グラスを組み合わせ(いわゆる「フルーツポンチ」とか「ニコイチ」)、原価ゼロ円でメランジュ型グラスを生産している。(関連項目:リーデル)

メルロー (Merlot)

赤ワイン用の代表的なブドウの品種。ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨンに次いで有名。ル・パンやペトリュスという世界で二番目に高価なワインの原料だけれど、マズいメルローはマズいボージョレみたいに、ショート・ケーキの上のサクランボのような風味がある。とにかく、貧富の差が激しいブドウだと思う。最高峰が、ル・パン、ダックホーンのスリーパーム・ビンヤード、プロビダンスで、「メルローの正三角形」、ここに南アのシャノン・ヴィンヤーズのマウント・バレットを加えて、「メルローの平行四辺形」、桔梗ヶ原メルローを入れて、「メルローのペンタゴン」と呼ぶ(私だけ?)。

2020.05.29


葉山考太郎 Kotaro Hayama

シャンパーニュとブルゴーニュとタダ酒を愛するワイン・ライター。ワイン専門誌『ヴィノテーク』等に軽薄短小なコラムを連載。ワインの年間純飲酒量は 400リットルを超える。これにより、2005年、シャンパーニュ騎士団のシュヴァリエを授章。主な著書は、『ワイン道』『シャンパンの教え』『辛口/軽口ワイン辞典(いずれも、日経BP社)』『偏愛ワイン録(講談社)』、訳書は、『ラルース ワイン通のABC』『パリスの審判(いずれも、日経BP社)』。

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