20州から個性あふれるワインを産むイタリア。ピエモンテやトスカーナといった花形の州が目立つ一方、いまいちイメージがわきにくい産地がカラブリア州ではないでしょうか。とはいえワイン造りの歴史は古く、イタリアがギリシャ人にエノトリア(ワインの地)と呼ばれるようになったのも、カラブリア州の銘醸地を讃えてのことだそう。最近は醸造技術の発展や新世代の造り手の台頭により、少しずつ注目も高まりつつあります。今後の発展に期待がかかるカラブリアワインについて、学んでいきましょう。
【目次】
1. 古代ギリシャ人からチロ・ボーイズまで カラブリアワインの変遷
2. 山も海もある カラブリアのワイン産地と気候
3. 土着品種の宝庫、押さえるべきは3品種
4. カラブリアのおすすめ有名ワイン
5. 『神の雫』で見いだされた、伝説のマリアージュ
6. カラブリアワインのまとめ
1. 古代ギリシャ人からチロ・ボーイズまで カラブリアワインの変遷
自然が豊かで美しく、まだ手付かずの土地が残るカラブリア。イタリアの中では知名度が低い州ですが、実は歴史が古く、古代ギリシャ人により栽培が始まりました。紀元前6世紀以前には、イオニア海岸沿いのワインはすでに評判を呼び、イタリアが「エノトリア(ワインの地)」と呼ばれる所以となりました。古代オリンピックの勝者にはカラブリアワインが贈られたことからも、その名声が伺えます。この褒賞であったクリミサワインが、現在カラブリアで最も有名な赤ワイン「チロ」の祖先だそうです。チロはガリオッポ種主体のしっかりとした赤ワインで、この地でよく食べられる唐辛子を使った料理とともに地元の人にも愛飲されています。
古代に名声を築いたカラブリアですが、その後のワイン産業は衰退の一途をたどっていきます。近代になると主要マーケットに近いボルドー等のワイン産地が主流になり、さらにフィロキセラ禍による被害、国際品種の流行、新世界ワインの台頭などさまざまな要因により、カラブリアは世界のワイン市場から取り残されてしまいます。また山岳地帯や丘陵地が多いカラブリアでは労働力の減少も深刻で、多くの樹が引き抜かれました。2022年のブドウ栽培面積は約9000haで、今世紀に入って30%以上が減少しています。
一方、十着品種を廃れさせまい!と立ち上がったチロ最大の生産者リブランディ社は、ガリオッポと国際品種をブレンドした“スーパー・カラブリア”ワイン「グラヴェッロ」をリリース。翌年1989年ヴィンテージがカラブリア州で初めて『ガンベロロッソ』最高賞トレビッキエリを受賞、著名なワイン雑誌でも高い評価を獲得し、国際市場の注目を惹きつけました。無名だったカラブリアワインが、世に知られることとなったのです。
最近では、十着品種にこだわりテロワールを表現しようとする新世代のナチュラルワインの造り手も注目され始めています。特に伝統産地チロでは、ア・ヴィータのフランチェスコ・デ・フランコ、カタルド・カラブレッタらが「チロ・ボーイズ(ナチュラルおよびオーガニック生産者の非公式の集団)」を結成し、新しいワイン造りの波「チロ革命」を起こしています。
2. 山も海もある カラブリアのワイン産地と気候
カラブリアが位置するのはイタリア最南端、ブーツに例えるとつま先部分に当たります。北はバジリカータ州に接し南北に長く、カラブリア最大の都市レッジョ・カラブリアから南西のメッシーナ海峡を渡るともうそこはシチリアです。イタリアの背骨アペニン山脈の南端を形成する山塊が鎮座し、その土地の9割が山岳・丘陵地帯です。同じ南イタリアでもプーリア州は開けた平地が多いのに比べると、ずいぶんと異なりますね。
ブドウの産地は大きく分けて内陸部と沿岸部に分かれます。内陸部にはポッリーノ山塊、シーラ高地、アスプロモンテ山塊があり、起伏に富んだ産地です。昼夜の温暖さが激しい大陸性気候で、イタリア南部とは思えぬ冷涼な気候といえます。
一方、沿岸部の畑は海の影響をもろにうける地中海性気候。東のイオニア海側は乾燥し、西のティレニア海側の方が温暖な気候です。また、海岸沿いでは柑橘類やオリーブなどの栽培が盛ん。オリーブオイルの生産は、プーリアに続きイタリア第二位を誇っています。
3. 土着品種の宝庫、押さえるべきは3品種
他のイタリアの州同様、多様な品種が育つカラブリア。白ブドウのグレコ・ビアンコ、モントニコ、黒ブドウのガリオッポ、マリオッコ、グレコ・ネロなど、その数はカラブリアだけで200種類!また、シチリア・エトナで有名なネレッロ・マスカレーゼも栽培されています。覚えておきたい品種は3種類。特にカラブリアを代表するガリオッポやマリオッコは語呂も良く覚えやすいですね!
ガリオッポ
カラブリアを代表する黒ブドウ品種で、非常に強いタンニンが特徴です。赤果実や薔薇、スパイスの香りを持ち、優雅で長熟向きのワインも造れるポテンシャルを持つ品種です。DNA検査の結果、ネレッロ・マスカレーゼの兄弟であることが判明。比較的色が淡いのも納得です。晩熟品種のため収穫時期は10月中旬と遅く雨に降られるリスクも伴うため、早めに収穫してロゼワイン(チロ・ロザート)を造る場合も。また樹勢がとても強いため、しっかり熟させるには収量のコントロールが不可欠です。
マリオッコ
ガリオッポに次いで有名なマリオッコも、タンニンの強い黒ブドウ品種。果粒は大きめの密着粒で、ガリオッポと同じく晩熟品種のため収穫時期は10月中旬ごろ。収穫時期の雨に伴う病気のリスクがありますが、しっかり熟さないと青っぽいタンニンになるため、日照量の多い畑を選んで植えられます。ワインは濃い色合いを持ち、ブルーベリーやプラムなどの果実、骨格のしっかりしたフルボディに。ガリオッポやアリアニコ、カラブレーゼ(ネロ・ダ―ヴォラ)ともブレンドされます。
グレコ・ビアンコ
グレコ・ビアンコは、カラブリア州の古代土着品種の白ブドウ品種。甘口ワイン「グレコ・ディ・ビアンコ」を生み出す品種です。ギリシャからもたらされたため「グレコ」とついていますが、カンパーニア州のグレコ種とは無関係なので注意!代わりにDNA検査により、マルヴァ―ジア・ディ・リパーリと同一品種であることが判明しました。イタリアにはとかく「グレコ」が多く紛らわしいですが、それだけギリシャとの縁の深さを感じますね。
4. カラブリアのおすすめ有名ワイン
カラブリアにはDOCGは存在せず、9つのDOCと10のIGTがあります。生産量のうち約3/4が赤ワインを占めます。
チロ DOC(白・ロゼ・赤)
なかでも最も名高いのが、イオニア海沿いの丘陵地帯で造られるチロDOC。白・ロゼ・赤すべて生産可能で、白はグレコ・ビアンコ、赤・ロゼはガリオッポが主体です。なんといっても赤が有名で、最良のチロ・ロッソは、チェリーなど赤果実やビロードのようなタンニンを持つ長熟型のワインです。
有名生産者は、カラブリア最古の1845年創業イッポ―リトや、スーパー・カラブリア「グラヴェッロ」産みの親リブランディ社。日本でも、『神の雫』でキムチに合うワインとして「グラヴェッロ」が紹介され、一躍有名になりました。ちなみに、チロ・ロッソDOCには、もともと国際品種の使用は認められていませんでしたが、スーパー・カラブリアの出現により、2010年の法改正で10%まで国際品種(バルベーラ、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン・サンジョヴェーゼ、メルロ)をブレンドすることが可能に(ただグラヴェッロのカベルネ比率は通常40%のため、IGT表記ですが…)。カラブリア原産ではない国際品種をブレンドに加えるか、ガリオッポ100%(またはマリオッコなど十着品種のみブレンドするか)にするのかは議論の的になっています。このあたりも、キャンティなど他のイタリア産地の動きとも共通していますね。
グレコ・ディ・ビアンコDOC(甘口白)
グレコ・ビアンコを陰干しして造る、カラブリアを代表する甘口の白ワイン。以前は「グレーコ・ディ・ジェラーチェ」と呼ばれていた歴史あるワインで、シチリアに近いイオニア海側のビアンコ村が産地です。生産量が少ないため、日本ではあまり見かけることはないかもしれません。
テッレ・ディ・コセンツァDOC(白・ロゼ・赤)
DOCとしては上の2つが有名ですが、2011年に新しく認定されたのが、コセンツァ(テッレ・ディ・コセンツァ)DOC。サン・ヴィート、ドニーチ、ポリーノ、ヴェルビカーロといった7つのサブゾーンを含む広域DOCで、サブゾーンのブドウのみを使う場合は、そのDOC名を使用することもできます。白・ロゼ・赤とあり、赤ワインはマリオッコ主体、白はグレコ・ビアンコとマントニコ主体、ロゼは比較的自由なブレンド(グレコ・ネロ、ガリオッポ、アリアニコ、ネロ・ダヴォラなど)が認められています。
モスカート・ディ・サラチェーナIGT(甘口ワイン)
9世紀からアラブのサラセン人が支配した町サラチェーナで伝統的に造られる甘口ワインです。特筆すべきは、モスト・コット(煮詰めたワイン)を使うこと。ガルナッチャとマルヴァジアのブドウ果汁を弱火で煮詰めて濃縮し、乾燥させたモスカートと混ぜ合わせ発酵・熟成させるという、とてもユニークな製法です。
5. 『神の雫』で見いだされた、伝説のマリアージュ
カラブリアのワインと一緒に楽しむなら、ぜひ試してほしいのが、唐辛子を使った料理とのペアリング。カラブリアでは唐辛子の栽培がさかんで、唐辛子入りサラミ「ンドゥイヤ」をはじめ、郷土料理にも辛いものが多いんです。「カラブレーゼ風」とついていれば大抵辛い物をさすので、苦手な人にとってはいい目安になりますね。
当然辛い物に合わないはずがない…というアイディアから、あの人気漫画『神の雫』では、キムチに合うワインとしてガリオッポ主体の赤ワイン「グラヴェッロ」が取り上げられていました。キムチ以外にもチゲ鍋やインド料理など、スパイシーな料理に合うワインとして、チロは覚えておきたいワインです!
逆に爽やかな辛口白やロゼワインは、魚介料理にもぴったりですし、ペペロンチーノ(=唐辛子)パスタとも合わせたいですね!
6. カラブリアワインのまとめ
十着品種から個性あるワインを産みながらも、その知名度の低さゆえかお値段もお手頃なカラブリアワイン。しかしそのポテンシャルの高さから、今後ますます注目されるのは間違いないでしょう。ぜひ見かけたら試してみてくださいね!