昭和のテーブルグレープとしておなじみのデラウェア。夏休みの懐かしい思い出とともにあの甘酸っぱい味わいを思い出される方も多いのではないでしょうか。食べてもおいしいブドウですが、最近はワイン用品種としても可能性が見いだされ、日本全国で実にさまざまなワインが造られています。あのたこ焼きに合わせるスパークリングでお馴染み、大阪カタシモワイナリーの「たこシャン」も、実はデラウェアのワインなんですよ。今回は、デラウェアから造られるワインの特徴や、日本における生産地、ユニークなワインの数々についてたっぷりの生産者情報とともにお伝えします。
【目次】
1. アメリカから来たブドウ ~デラウェアの由来
2. スパークリングやオレンジワインまで! ~デラウェアのワインの香りや味わい
3. 種ありか種なしか ~デラウェアの栽培
4. 日本におけるデラウェアと主な生産地
5. デラウェアのまとめ
1. アメリカから来たブドウ ~デラウェアの由来
デラウェアはアメリカ原産の自然交雑種で、名前はアメリカのオハイオ州デラウェア郡に由来しています。日本には明治初期の1872年にアメリカから伝来し、初めて山梨県で栽培が始まりました。その後の殖産興業政策の一環でブドウ栽培が奨励され、デラウェアの栽培も全国に広がります。食べてもおいしい生食兼用の品種でもあり、栽培の項でも詳しく説明するように、種無しデラウェアの開発によりテーブルグレープとしての地位を確固たるものにしました。1970年代~80年代には最盛期を迎えましたが、現在はシャインマスカットなど大粒の高級ブドウに押され、生産量は減少傾向にあります。一方で、注目が高まっているのがワイン用原料としての使い道。実は日本でのワイン用原料ブドウとしては白ワインで3位。甲州、ナイアガラ、デラウェアと続き、白黒合わせても全体の約6%を占めています。
2. スパークリングやオレンジワインまで! ~デラウェアのワインの香りや味わい
灰色がかった赤紫色の果皮が特徴のデラウェア。1房100~150gと片手に収まるサイズで、小さな粒が行儀よくぎっしり詰まった様子を見ると、微笑ましくなりますよね。ヨーロッパ系品種(ヴィ二フェラ種)ではなくアメリカを原産とするアメリカ系品種(ラブルスカ種)に属しており、ワインにすると、ブドウジュースのようなあまーい独特の風味があります。この香りはラブルスカ臭あるいはフォクシー・フレーバーと呼ばれ、欧米人のなかにはあまり好まない方もいるようです。他のラブルスカ種として有名なものには、ナイアガラやコンコードがあり、甘口ワインの原料として日本のワイン黎明期を支えてきた大事な品種です。
ジューシーでみずみずしいデラウェアは、ワインにするとさっぱり軽やかな白ワインになることが多く、新酒にもよく使われる品種です。ただし最近は実に様々なスタイルが出てきており、スパークリングワインからオレンジワイン、辛口から甘口ワインまで造られています。その背景には、日本ではフォクシー・フレーバーに対する偏見が少ないこと、また日本で人気のナチュラルワインを好む飲み手は品種よりも味わいを重視する傾向にあるため、デラウェアの個性を活かしたワインが思う存分造れるマーケットであることも大きいでしょう。
特にスパークリングワインの生産は急増中で、瓶内二次発酵タイプや田舎方式から造られるユニークなワインが増えています。味わいは極辛口のものがトレンドで、華やかな甘い香りと辛口のギャップのツンデレな味わいに、心を掴まれる方も多いに違いありません。
デラウェアは単体でワインにされることが多いですが、例えばデラウェアと甲州をブレンドしたり、シャルドネとブレンドしたり、他のラブルスカ品種(ナイアガラなど)とブレンドしたりなど、様々なユニークなワインが生まれています。選択肢が多く、価格手も比較的リーズナブルなので気軽に楽しめる点も、デラウェアのワインの魅力といえます。
3. 種ありか種なしか ~デラウェアの栽培
デラウェアはもともとヨーロッパ系品種の栽培が難しかったアメリカ東部原産のブドウだけあり、耐寒性や耐病性のある品種です。高温多湿の日本でも比較的栽培しやすかったことも、デラウェアが日本に普及した大きな理由の一つです。そしてデラウェア人気に貢献したのが種無しブドウ栽培の技術―いわゆるジベレリン処理です。今では当たり前に行われているこの画期的な技術は、実は偶然による発見。昭和30年頃、山梨の果樹試験場でデラウェアの果粒を大きくするために成長促進作用のあるジベレリンを施したところ、偶然「種無し」の実がなったそう。以後実用化されると、種無しブドウへの切替が急速に進み、デラウェア全盛期が訪れるのです。
それではワインにする場合は種ありと種無し、どちらが多いのでしょうか。山形県の置賜地方は日本一のデラウェアの産地ですが、高畠町はワイン用を想定し、ジベレリン処理をせずに種ありで栽培するケースが増加しています。種無しデラウェアを造るには、一房ごとに適切な時期で2回のジベレリン処理が必要になり、特にデラウェアは1枝に2房以上ならせることが多いため高齢化の進む農家には負担となるのですが、種ありであれば、労力を圧倒的に減らすことができます。また種あり種無しではブドウのフレーバーにも違いが出てきます。種ありデラウェアの場合、種が残っている=ブドウが子孫を残すための生殖モードとなり、果実にフレーバーが凝縮されるといいます。
難点は、種がある分、プレス果汁の量は少なくなること。また原料も生食用の格落ち種無しデラウェアと比べると高いため、結果原料コストは高くなり、その分生産者はデラウェアの高付加価値化を求められることになります。
また、通称「青デラ」というのですが、デラウェアを早期に栽培してワインにするケースも。青デラは、高い酸を活かしたすっきりとした白ワインやスパークリングワインの醸造にも向きます。
4. 日本におけるデラウェアと主な生産地
日本で生産量が多い県としては、トップが山形県。そして山梨、大阪、北海道、香川県と続きます。
山形
山形県では明治中期よりワイン造りが始まり、欧州系品種やアメリカ系品種、甲州などさまざまな品種が栽培されてきました。デラウェアも山梨から伝わり栽培が始まりましたが、1920年前後のフィロキセラにより他のブドウ畑が壊滅的な打撃を受け、その際にデラウェアに切り替わっていった経緯があるようです。現在も山形県でのデラウェア生産量は白黒合わせても最多で、23.4%の割合を誇ります。特に高畠町や南陽市など置賜地方が名産地として知られています。
おすすめのワインもたくさんあります。まずはタケダワイナリーの定番商品、亜硫酸無添加の「サン・スフル白」はデラウェアから造られた微発泡ワイン。濾過をしていないため、にごりがありますが、澱の旨味を感じられるワインで、ビールのようにごくごく飲める味わいが大人気です。高畠町にある高畠ワインでもデラウェアを活用して、スパークリングから白ワイン、氷結絞りの甘口ワインも造っています。
また高畠町の隣の南陽市もデラウェアの栽培がさかんなエリア。東北地方で最も古い歴史を持つ赤湯の酒井ワイナリーでは、田舎方式で造ったスパークリング「小姫」や、オレンジワインなどナチュラル感あるワインをリリースし、デラウェアの新たな可能性を追求しています。最後に外せないのが、イエローマジック・ワイナリー。デラウェアの自然派ワインのパイオニアである元ヒトミワイナリーの岩谷澄人さんが興したワイナリーで、さすがにデラウェアの使い方がユニーク。果皮の厚いデラウェアを足踏みし40~50日程度のセミ・マセラシオン・カルボニックで造る「アシッド・デラ」は、オレンジというよりもはやプラム色!デラウェア愛が高じて山形に移住した岩谷さんならではの、非常にユニークなワインです。
山梨
白ブドウでは甲州に続き2位、白黒合わせても3位(甲州、マスカット・ベーリーA、デラウェアの順)の生産量を誇る山梨。ワイナリー軒数トップの日本が誇るワイン産地だけあり、その卓越した技術でさまざまなデラウェアのワインを生産しています。他の品種とブレンドしたワインにも注目で、おすすめはフジッコ・ワイナリーの元醸造責任者の鷹野ひろ子さんが河口湖近辺にオープンしたセブン・シダーズ・ワイナリー。デラウェアとジーガレーベをブレンドした瓶内二次スパークリング「デラウェア & ジーガレーベ スパークリングワイン」は、華やかな香りときめ細かい上質な泡が特徴で、飲み心地の良い1本です。デラウェアと甲州を醸し発酵しブレンドした「モーヴ デラウェア&甲州」も、果皮の味わいを活かしたオレンジワイン。果皮をモーヴ色と表現するセンスが素敵です。甘口に癒されたいときは、奥野田ワイナリーの「奥野田ドルチェ」がおすすめ。マダムデザインの蝶々のラベルも可愛く、女子会にも活躍しそうです。
大阪
日本有数のワイン造りの長い歴史を持つ大阪でも、デラウェアは実は古くから根付いている品種です。本格的なワイン造りが始まった大正時代、1913年にデラウェアが導入され、栽培面積が増加。現在もワイン用ブドウ栽培ではデラウェアが最多で、大阪産の日本ワインの半分弱を占めるというから、大阪=デラウェア大国といっても過言ではないでしょう。
筆頭が大阪のワイナリーを率いるカタシモワイナリーが売り出している「たこシャン」。G20大阪サミットで採用されたり、LCC機内にも採用されたりと、最も知名度の高いデラウェアのワインの一つといえるかもしれません。カタシモワイナリーと関係の深い大阪のアーバンワイナリー・島之内フジマル醸造所では、「大阪の気候に最も合うのはデラウェア」と考え、なんと自社畑の7割がデラウェア。ジョージアの甕で仕込んだオレンジワインなどユニークなワインを多数リリースしています。
大阪近辺でもデラウェアのワインは多く造られています。奈良初のワイナリーを興した木谷ワインもデラウェアに力を入れる一人。無農薬栽培のデラウェアから自然派のアプローチで造る「デラウェア プライベート・リザーブ」は、小売価格6000円前後とデラウェアにしては高価ですが、デラウェアの概念を変えてくれること間違いなしです。
自然派のにごりワインで有名な滋賀のヒトミワイナリーは、山形の箇所でもご紹介した通り、デラウェアから本格的にワインを造り始めた岩谷さんの古巣。デラウェアがワイン用品種として見られていなかった当時、デラウェアだけで10種類以上のワインを造るなど、真剣にブドウと向き合ってきました。ヒトミワイナリーでは、今でもその意志を接ぎ、山形産のデラウェアからオレンジワインなど様々なスタイルのワインを造っています。動物の帯ラベルがかわいい「カリブー」、野生酵母による瓶内二次発酵の発泡性にごりワインはヒトミワイナリーの定番ロングセラーです。
京都の丹波ワインの「てぐみ白」もデラウェアのスパークリングとして安定した品質かつリーズナブルで、おすすめできる1本。和紙のラベルも日本らしくお土産にもおすすめです。
また、近畿地方では三次ワイナリーも忘れてはいけません。「TOMOE デラウェア」の2022年は、日本ワインコンクールの「北米系等品種・白」部門で、デラウェアが初めて金賞に輝いた金字塔的なワインです。
北海道
そして近年メキメキと頭角を現している北海道でも、優れたデラウェアのワインを見つけることができます。空知の雄、タキザワワイナリーでは野生酵母による発酵&亜硫酸無添加のオレンジワイン「オレンジサンスフル」をリリース。果皮からくるほどよいボリュームとスパイシー感は、食事との相性もばっちりです。小樽にあるOSA Wineryの、デラウェアに旅路やピノグリをブレンドした白「O」やスパークリング「Ocean」も、ワイン会などにもっていくと大好評な1本。ほどよく華やかな香りと余韻に塩気を感じる辛口の味わいは、キンと冷やしてパーティーやバーベキューなどで大活躍します。
余市にあるドメーヌ・ユイも、デラウェアやナイアガラなどラブルスカ品種を驚くほど上品に造り上げる銘手。古木のデラウェアを用いて「シャンパーニュをイメージして造る」というスパークリングは、甘い香りも控えめで、ラブルスカ種が苦手な方でも大丈夫。なかなか入手困難ですが、札幌のワインショップに行かれた際は探してみて下さい。
香川
意外なことに生産量が5位に食い込んでくるのが香川県。とくに多度津町白方では100年ほど前から栽培されています。四国初のワイナリーであるさぬきワイナリーでは、デラウェアからスパークリングや白ワインなどをリリース。小豆島にある「224ワイナリー」も、デラウェアとシャルドネのブレンドで造る瓶内二次発酵のスパークリング「島シャン」をフラッグシップに据えています。
また、島根県でも特産品として古くから栽培され、さいきん注目の集まる島根ワイナリーでもデラウェアは主力商品です。島根ワイナリーは甲州が日本ワインコンクールでも2度の金賞を受賞していますが、瓶内二次発酵のスパークリング「縁結びデラウェア泡」はひそかな人気商品です。
5. デラウェアのまとめ
日本全国でこれだけのデラウェアのワインが造られていることに驚いたのはないでしょうか。昔はワイン用としてみなされていなかった品種も、生産者の努力により今や見事に花開いていると思うと、感慨深いですよね。昔から日本人に愛されてきたなじみ深いデラウェア。大人になった今は、ワインという形で食卓を彩ってみてはいかがでしょうか。