ピエモンテは高品質ワインの象徴のDOC、DOCGの数がイタリア最大の産地。生産量では、五指にも入りませんから、如何にこの産地が高級ワインに特化しているのかがわかります。グルメのみなさんは、白トリュフの産地としてもご存知なのではないでしょうか?州都はトリノ。2006年の冬季オリンピックで荒川静香さんが、華麗な演技で金メダルを獲得。また、イタリア統一の原動力にもなった、サヴォイア公国の首都であったことでも知られています。
でも、なによりも有名なのは、ワインの王様バローロの産地であること。今回は、このイタリア北部に佇む華麗な産地を深堀。ピエモンテには、バローロだけで無く、ユネスコの世界遺産にも登録されているブドウ畑の景観が、広がっています。バローロの選び方や、日本でも注目されている白ワインも紹介していきます。
【目次】
1. ワインの王様バローロ
1.1 ネッビオーロとピエモンテの蜜月
1.2 マークすべきバローロの産地
1.3 バローロのワイン造りとスタイルをめぐる戦いのゆくえ
1.4 バローロの有名生産者
1.5 王様バローロの家族と重臣たち
2. ピエモンテを俯瞰してみる
2.1 王様の側近が輝ける産地、ピエモンテ
2.2 ピエモンテで脚光を浴びる白ワイン
2.3 多様なピエモンテの泡
3. バローロとピエモンテのまとめ
1. ワインの王様バローロ
イタリア北部に立地するピエモンテは、北はスイス、西はフランスに接しています。北部のアルプス周辺の歴史ある産地も知られていますが、中央部から南部に広がる地域がバローロを始めとした高級ワイン産地として有名です。
1.1 ネッビオーロとピエモンテの蜜月
バローロの主要品種、ネッビオーロは、芽吹きが早くて収穫はとても遅い黒ブドウ品種。とても気難しく栽培が難しいブドウとして知られています。土壌のえり好みもあるとされていて、石灰質泥灰土を好むと言われます。
世界で見ても、驚くなかれ8千ヘクタールほどしか栽培面積がありません。そして、この栽培面積の7割方はピエモンテに集中しています。因みに、ワイン用ブドウ品種トップの、カベルネ・ソーヴィニョンは30万ヘクタールを優に超えます。比べてみると、ネッビオーロは、限られた生産量なのに、知名度がとっても高い!これだけ、有名なのですから、もっと栽培面積が増えてもおかしくないと思いませんか?
このブドウをピエモンテ以外で栽培しようとする生産者たちは、もちろん、世界各地にいます。ですが、気むずかしいピノ・ノワール栽培でなんとか成功を収めている生産者でさえ、音を上げるほどと言われます。王様には王様がいるべき場所があるということでしょうか?
このブドウの芽吹きは、白ブドウのシャルドネと変わらない早さ。そして、収穫がとても遅い、晩熟型。この生育期間の長さのお蔭で、春の遅霜と、秋雨の両方の被害を受けてしまいます。また、晩熟なので、暖かさや日差しは必要なのですが、過剰になると問題です。暑さに強いというわけでは無いのです。他の晩熟品種と違って、繊細。
10月も半ばに入ってから収穫を始めるのも普通。方や、晩熟で知られているカベルネ・ソーヴィニョンでさえ、ボルドーでは、9月下旬から10月初旬に掛けて収穫が終わります。オーストラリアのヤラ・ヴァレーで頑張っている生産者は、ネッビオーロについてはカベルネの収穫後1か月待たなければならないと言います。
ピエモンテは、バローロ産地のアルバ地方で北緯44度。温和な大陸性気候です。日照時間は、年間2千時間を切りあまり多い方ではありませんが、夏場は260時間と恵まれています。それでも早熟品種が栽培されているブルゴーニュと同等レベル。ですから、長い生育期間は必要です。
夏場は、30℃近くまで気温は上がるものの、夜間は20℃を割ります。そして、秋口に向けて、気温がぐんと下がっていきます。ネッビオーロが過熟にならず、ゆっくりと成熟が進むのです。そして、このブドウの名前の由来になっている、霧(ネッビア)も、この長い成熟期間に力を貸していると言われています。
植栽密度は、バローロでヘクタール当たり3,500本以上。垣根仕立てで、ギュイヨで栽培します。
樹勢は強くて、雑草のように成長すると言うカリフォルニアの生産者も。とは、言うものの、晩熟なブドウを良く熟させるためには多くの子葉が必要。樹冠管理をしっかりしなければなりません。うどん粉病には弱いので風通しにも配慮が必要です。こうして、折角、熟れてきた果実も熟度を上げるために、摘房で収量を落とします。
そして、ネッビオーロと言えば、高い酸と共に力強い骨格を作り出す、荒削りで力強いタンニン。しかし、その割には薄い色調。ピエモンテ最大の黒ブドウ品種、バルベーラと比べると、アントシアニンの量は少なくて、含まれる色素も、バルベーラの紫系とは異なり、オレンジや赤系中心です。
時間を掛けてタンニンを和らげようと大樽で長期熟成するのは、酸化と揮発酸発生との闘いになります。タンニンも簡単に重合して柔らかくなってくれるわけでもありません。
揮発酸は、程度次第では、きびきびとした活発なニュアンスを感じることで、プラスに働く場合もあります。でも、酢や除光液の様な不快な臭いにまで発展すると問題です。衛生状態に問題がある樽を使った場合や、酸化的な環境に置かれると揮発酸が発生しやすくなります。
醸造や熟成にも、様々な努力が必要になるのです。
こうして、苦労して造ったワインは決してお安くはなりません。ですから、ピエモンテ以外の産地で造っても、高い値段を払ってまで買おうという気には中々ならないのが消費者の心情かも知れません。
1.2 バローロのマークすべき産地
バローロと言っても、ピンからキリまで。どれが良いのかを見分けるのは、ブルゴーニュ並みに、難しいかも知れません。でも、いくつかポイントを押さえておけば大丈夫。
バローロは、11の村で造られています。その内、押さえておくべき最も知名度が高い村は5つ。石灰質泥灰土の土壌の西部のラ・モッラと中心部のバローロ。そして、東部のセッラルンガ・ダルバと南部のモンフォルテ・ダルバは砂岩の比率が高くて痩せた土壌です。カスティリオーネ・ファッレットはこれらの中間的な位置で、いずれの土壌も含みます。
そして、これらの中でも、ラ・モッラとセッラルンガ・ダルバは著名。一般的には、ラ・モッラは柔らかくて豊かな味わい。一方で、セッラルンガ・ダルバは、骨格がしっかりした長熟のワインになると言われます。
こうした村では、MGA(付加的地理呼称定義)がつけられています。でも、181あるMGAに階級は定められていないのです。フランスのブルゴーニュ地方でしたら、村名の上に、1級、特級と分かりやすい区分けがありますよね。
自らのワイナリー経営を超えてランゲ地方の畑のクリュの概念に貢献したレナート・ラッティ。そして、90年代からバルバレスコ、そしてバローロの畑の格付けをしてきたアレッサンドロ・マスナゲッティ。そして、『ワイン・アドヴォケイト』誌から独立して、ワイン評価の有料サイト、ヴィノスを立ち上げたアントニオ・ガッローニ。こうした私的ではあるものの定評ある識者の評価を見ると、概ね、高品質なワインを生む畑の評価は一致してきます。
ラ・モッラの、ロッケ・デッラヌンツィアータ。ラ・モッラとバローロに跨るブルナーテとチェレクイオ。そして、セラルンガ・ダルバでは、ヴィーニャ・リオンダが最高峰と言われています。他にも、カンヌビなど有名なMGAに絞って憶えておけば、ワイン選びが楽になります。
難しいのは、一つのMGAが広い範囲にわたる場合です。MGAの一つ、ブッシアはバローロからモンフォルテ・ダルバに渡る300ヘクタールを超える広大な面積を占めます。この内の、ほんの一握りの単一畑ヴィーニャ・コロネッロ。アンティノリ傘下の老舗ワイナリーのプルノットは、歴史的な初の単一畑のワインを1961年に発表しました。また、アルド・コンテルノのワインも、近年、ワイン専門誌で高評価を受けています。こうした、MGAの中でも、際立った単一畑を探していくと、さらに素晴らしいワインに巡り合えるというわけです。
1.3 バローロのワイン造りとスタイルをめぐる戦いのゆくえ
19世紀には甘口ワインが造られていたバローロ。イタリア統一に貢献した政治家カミッロ・カヴールが醸造手法を検討させて、辛口へとスタイルが変わっていきます。一方、女性侯爵のジュリア・ファッレッティは、サヴォイア王家の注目を集めます。こうして、バローロは、ワインの王への階段を上っていきました。
1960年代までは、ネゴシアンに生産は委ねられていました。農家は醸造に必要な機材も持たず、収穫したブドウをネゴシアンに納入していたのです。異なる畑のブドウをブレンドしてワインにすることが一般的。それが60年代以降、単一畑から収穫したブドウを使ったワイン造りをする生産者が現れます。
そして、伝統的なバローロのワイン造りの象徴は、ボッティと言われる大樽での長期熟成。
2000リットルから5000リットルを超える大きな樽のボッティでは、スラヴォニアン・オークが使われます。小樽とは違って酸化熟成がゆっくり進みます。そして、クロアチア原産のこのオークは、コニャック向けのリムーザンでも知られているヨーロッパナラ。フレンチ・オークは、トロンセやアリエから産出される高級なものはフユナラ。フレンチ・オークよりも、木目が粗い、スラヴォニアン・オークは、樽香が少なく、タンニンの抽出が少なく、果実味を損なわないとされています。
こうして長い時間を掛けて熟成されるワインは、ブーケとも呼ばれる第3アロマの熟成香中心の香りを放ちます。長期熟成は、粗いタンニンを和らげるのには良いのですが、繊細な果実味を失うことにもなり得る問題を抱えていました。
もちろん、この手のワインは他の産地でも見られる通好みのワインではあります。しかし、酸化しすぎてしまったものは程度次第では欠陥ワインです。そして、1980年代後半には、従来から伝わるワイン造りに異を唱える生産者たちが表舞台に登場します。バローロ・ボーイズ時代の幕開けです。
80年代の半ばには、バルベーラの生産者がメタノール混入事件を起こし、産地の信頼が失墜したところに、歴史的な雹がバローロの産地を襲います。こうした苦境も背景に、トスカーナ出身のアメリカ市場を意識した輸出商マルク・デ・グラツィアの働きかけが引き金になりました。ネゴシアンからの独立とワイン造りの改革の機運が高まります。そして、エリオ・アルターレを中心的な存在としたグループがバローロ・ボーイズと名づけられました。この新しいバローロが、アメリカ市場を中心に大人気になります。
畑では、摘房で収量を落として果実の熟度を上げて、1~2週間ほどで発酵を終えてしまいます。そして、フレンチ・オークの小樽を採用。最初は、他の生産者に見られないように、隠して使っていたとも。こうして、いわゆるモダン派への系譜が生まれます。
それに比べて、従来のワイン造りを重んじる伝統派は、1か月以上も掛けて醸しを続けます。醸しには、カッペッロ・ソメルソと呼ばれる伝統的な手法を使う生産者もまだ存在します。果帽を発酵中の果汁やワインに沈みこませる工夫をした発酵槽です。発酵終了後も醸しを続けて、豊かで丸味のある重合したタンニンを得ようとするのです。
一方で、一部のモダン派の生産者たちは、タンニンを和らげるためにロータリーファーメンターを導入します。水平式のこの発酵槽は、果帽と果汁やワインとの接触面が大きく取れます。また、回転することで、通常は、ピジャージュやル・モンタージュで行う抽出が効率的に行えます。
そして、モダン派の生産者は大樽を不衛生で欠陥臭の温床だとして、小樽の新樽を惜しみなく使用。伝統派は、モダン派の手法はネッビオーロの繊細さやテロワールの機微を覆い隠してしまうと反対の弁をふるいます。
今では、この両陣営も融合が進んでいます。モダン派の生産者でも新樽の小樽と大樽の両方を使用して、伝統のボッティを復活させています。他方、伝統派の中には、抽出を控えめにし、同じ大樽を使うにしてもフレンチ・オークを取り入れる生産者もいます。最近では木製の大樽でも温度コントロール装置が装備された現代的なものも使われています。
いずれにしても、アペラシオンの規定上は、最低38か月の熟成が必要で、内18か月は樽の使用が義務付けられています。イタリアでも、ブルネッロ・モンタルチーノに次いで、長期熟成が必須とされているワイン。モダン派、伝統派のいずれの思想が根底にあろうと、バローロを名乗るにはこの規定は守らなければなりません。
1.4 バローロの有名生産者
こうして、伝統派とモダン派という二分法的思考は時代遅れになりつつあり、夫々の生産者の個性を見ていく時代。でも、本章では、分かりやすさ優先で、敢えてこの区分けで有名生産者を挙げてみます。
伝統派の、筆頭はジャコモ・コンテルノ。バローロは、最低でも4万円程度の覚悟が必要です。トップキュヴェのモンフォルティーノになれば、樽熟成に最低7年を掛けますから、10万円超えは当たり前。バルトロ・マスカレッロは、90年代末に登場した、’No Barriques, No Berlusconi’のラベルが貼られたキュヴェで、カルト的な話題になりました。フレンチ・オークの小樽使用と時の政治家ベルルスコーニへの嫌悪をアートラベルに表現したのです。筋金入りの伝統派の気持ちが表れている1本でした。
他方、伝統派の中でもモダンな造りと言えるのは、ブルーノ・ジャコーザ。ステンレスタンクを使った、比較的短い発酵期間です。ボッティもスラヴォニアン・オークでは無くて、フレンチ・オークを使用。他にも、伝統派の流れを組む生産者は、ジュゼッペ・カッペッラーノ、ヴィエッティが挙げられます。
モダン派では、先進的なワイン造りを黎明期から取り入れてきたアンジェロ・ガヤ。最早、ガヤの場合は、こうした小さな括りで挙げるのも甚だ疑問ではありますが。
父親の大切にしていたボッティを破壊して、勘当された逸話があまりにも有名なエリオ・アルターレ。そしてパオロ・スカヴィーノは、カスティリオーネ・ファッレットの単一畑からフラッグシップとなるキュヴェを70年代にリリース。90年代前半にはスラヴォニアン・オークを一度、廃止しますが、90年代後半には復活させます。
1.5 王様バローロの家族と重臣たち
ピエモンテのワインの王様がバローロであることは異論が無いと思いますが、寄り添う女王、重臣たちがいることで、ネッビオーロから造るワインの層は厚くなっています。
バローロの家族
バローロが王様ならば、バルバレスコはワインの女王。バローロ西部の土壌に似た、石灰質泥灰土から、果実味が豊かな柔らかくエレガントなワインが造られます。
この産地もバローロと同じく、ユネスコの世界遺産に登録されています。バローロよりも栽培面積は控えめで、3つの村から大半のワインが産出されます。熟成期間はバローロよりも短くて、木樽熟成は9か月。最短熟成期間は、26か月。そして、このアペラシオンを世界的に有名にしたのが、アンジェロ・ガヤ。
進んだ技術を取り入れただけではなくて、マーケティングなセンスも抜群でした。海外を飛び回り産地の素晴らしさを説いて周ります。また、1970年代にボルドーやブルゴーニュと同格のラグジュアリーなワインの評価を得るために、敢えて高価格戦略を取りました。
古い伝統を重んじる当時の空気の中では、異端児。バルバレスコのアペラシオンにある畑で、シャルドネやカベルネ・ソーヴィニョンを栽培してしまいます。また、100%ネッビオーロを使用しないとバルバレスコとして販売できないことも意に介さずに、必要とあれば、バルベーラをブレンドして、広域ワインに格付けを落とすことも厭いません。
しかし、やはり実力は高く評価されます。2019年には、ワインメーカーズ・ワインメーカー・アワードを受賞します。これは、ワイン造りに携わるマスターオブワインが選ぶ、栄誉ある賞です。過去、受賞した生産者は、ピーター・シセック、ポール・ドレーパー、エゴン・ミュラー、イーベン・サディといずれ劣らぬ世界の一流の面々ばかりです。
兄弟分と言っても良いのは、北ピエモンテのガッティナーラDOCGでしょう。スイスとの国境にあるモンテ・ローザの麓。北のネッビオーロ産地です。
この地方は、ローマ時代に遡る、古いブドウ栽培の歴史があります。19世紀までの長い間、人気を博し、栽培面積もバローロのあるランゲ地方以上に広がり大いに栄えていました。しかし、20世紀には、残念ながら、フィロキセラ禍、自然災害、工業化の進展によって、この産地は次第に忘れさられていきました。土壌はネッビオーロの産地としては珍しい、火成岩が中心です。ネッビオーロはスパンナというシノニムで呼ばれ、北の産地ならではの、酸が高くエレガントなスタイルのワインが造られます。お値段的にも1万円も出すことなく気軽に買える、けれど氏素性のはっきりしたお値打ちワインです。
バローロの重臣たち
バローロの属する、アルバ地方では、ピエモンテ最大品種のバルベーラ。タナロ川の右岸と左岸のいずれでも栽培されています。当然、バローロとバルバレスコの産地も含みます。そして、通常は、バローロの成熟が厳しいところで栽培されます。少し前の気軽に飲む、酸が高いだけのバルベーラから、果実味やタンニンも備わったバランスが良いワインが増えてきました。
同じく黒ブドウ品種のドルチェット。成熟が早いので市場にも早く出荷でき、生産者には重宝されます。アルバの冷涼で標高が高い、ネッビオーロやバルベーラがうまく成熟することが難しい畑ではドルチェットの出番になります。でも可哀想に、標高が高い畑や、北向きの斜面までも、ネッビオーロの栽培にいつの間にか奪われてしまって、近年、栽培面積が減っています。ドルチェットはイタリア語では、「小さな甘いもの」という意味。でも、実際は、甘いワインにお目に掛かることはありません。逆にタンニン強めの収斂性の高いワインになります。一方で、酸はネッビオーロやバルベーラよりも控えめです。
2. ピエモンテを俯瞰してみる
ここまで、バローロを中心とした華やかなブドウ品種、ネッビオーロを中心に解説してきました。しかし、実は、ピエモンテの最大品種はバルベーラ。そして、ピエモンテでは土着品種が過半を占めています。ですので、中々品種の上位番付に国際品種は見当たらず、栽培面積でバルベーラに続くのは、白ブドウ品種のモスカート・ビアンコ。そして、ドルチェットとなります。
2.1 王様の側近が輝ける産地、ピエモンテ
アルバでは、バローロの盛り立て役に徹していた黒ブドウ、バルベーラと、ドルチェットが夫々主役の座につける産地があります。
バルベーラでは、東部のロンバルディア州に近い、バルベーラ・ダスティ。北部の砂質を多く含む石灰質泥灰土からはフルボディのワインが、南部の白い石灰岩質土壌からは柔らかいワインが生まれます。バルベーラ・ダルバでは、バローロやバルバレスコを造る生産者たちが、バルベーラも一緒に造ることも多く、ネッビオーロ優先。ですが、バルベーラ・ダスティでは、優先的にバルベーラが良い畑で栽培されます。新樽を惜しみなく使ったもの、長期熟成に値するワインも含めて様々なスタイルが見つかります。このアペラシオンのサブ・リージョンだった、ニッツアが2014年に独立。独自のDOCG格付けを獲得しました。100%バルベーラ使用が必須。収量もバルベーラ・ダスティより低く抑える必要があります。
ドリアーニは、ドルチェット100%のワインを産出するDOCGのアペラシオンです。タラノ川上流の南西部で、バローロの更に南方に立地しています。最初にこの地でドルチェットの名前が見つかるのは16世紀に遡るという、歴史が古い産地です。ドルチェットのアペラシオンの中でも最高品質のワインを生む産地と言われます。ブリッコボッティなどの単一畑は、複雑性も備えた力強いワインを生みます。
2.2 ピエモンテで脚光を浴びる白ワイン
薫り高く酸も穏やか。ボディも厚くて、飲みやすいアルネイス。中世に遡る歴史を持つと言われますが、かつては目立つ存在ではありませんでした。ネッビオーロと混植して、その香りで鳥を引き付けて、鳥害からネッビオーロを守る盾に使われたことも。そして、タンニンの強くアルコールも高いネッビオーロとブレンドして、ワインをソフトにするのにも使われていました。
それでも、決して重要視されていたわけではありません。その名前が示すように「わんぱく小僧」のこのブドウ。必ずしも栽培は簡単では無く、1950年代には消えゆく運命にありました。それを救ったのが、有名生産者ヴィエッティ のアルフレード・クッラード。1960年代後半に、このブドウの復活に執念を傾けて、単一品種のワインをリリース。アルネイスの父と呼ばれました。有名産地は、タラノ川左岸のロエロ。バローロやバルバレスコの対岸に位置します。標高は低いものの、急斜面に恵まれていて、土壌は石灰岩質中心です。
ピエモンテの白ワインで最も知られているのは、ガヴィでは無いでしょうか。リグリア州に近い南東部。特に、ガヴィ・ディ・ガヴィ(Gavi di Gavi)が有名です。コルテーゼ100%のワインで、ガヴィ村のガヴィというワインという意味になります。
比較的、病害にも耐性があるのですが、問題は収量があがりやすいこと。一方、酸に恵まれているのは、特に温暖化の昨今、長所と言えます。ステンレスタンクを使った発酵でフレッシュさを楽しむワインが主流ですが、澱との接触や樽熟成を通して複雑性を高めたスタイルもあります。生産者では、ガヴィの立役者のラ・スコルカを憶えておきましょう。伝統的には赤ワインで知られていたこの産地で、白ワインを盛り立てて、1969年にガヴィ・デイ・ガヴィ(Gavi dei Gavi®)という商標を登録。ガヴィがDOCを取得するよりも前のことです。イタリア国内、米国市場を始めとして1960年代、70年代に人気が広がります。
最近、とみに人気が出てきたファッショナブルな白ワイン品種のティモラッソ。産地は、ガヴィのすぐ東隣のコッリ・トルトネージDOCです。1980年代に危うく絶滅というところまでいきましたが、ヴィニェーティ・マッサが復興。歴史は古くて、13世紀に遡ります。19世紀には栽培面積が広かったのですが、栽培が難しく、フィロキセラ禍の後は、他の品種に改植されていきました。樹勢は強いのに収量は低いので、同じ白ブドウでも多産なコルテーゼの方が生産者には受けたのです。今では、ヴィニェーティ・マッサの情熱が有名生産者たちにも伝染して、栽培面積が増えつつあります。
エルバルーチェ・ディ・カルーゾ・パッシートはトリノの北、アルプスの麓の200メートルから500メートルの産地。土壌は、氷堆積。氷河が削り取った土砂や岩石からできた土壌です。白ブドウ品種のエルバルーチェは、ピエモンテに栽培面積が集中しています。酸が高くて、パッシートスタイルの琥珀色の甘口ワインを造るのに最適です。パッシートのワイン造りは収穫したブドウを長い時間を掛けてゆっくりと乾燥させて、糖分や酸の濃度を上げるものです。このブドウからは、泡、白ワインも造られますが、中々お目に掛かれない甘口が、歴史もあり最も有名です。
2.3 多様なピエモンテの泡
ピエモンテ州の最大アペラシオンでも有る、アスティは、モスカート・ビアンコから造られる果実味豊かな甘口のスパークリング。同じアペラシオンから微発泡のモスカート・ダスティも造られています。フローラルな香りとマスカットの香りを放つアロマティックなスパークリング。醸造方法に特徴があり、タンク方式の中でも、特にアスティ方式と呼ばれます。微発泡ワインのモスカート・ダスティは、軽くて低アルコール。
アルタ・ランガは、伝統方式で造るスパークリングのDOCGアペラシオンです。ブドウはシャルドネとピノ・ネロが使用されます。30か月の澱熟成が必要で、リゼルヴァは36か月必要です。スタンダード・キュヴェを比較すると、シャンパーニュはおろか、フランチャコルタよりも更に長い熟成期間です。
甘口の赤いスパークリング、ブラケット・ダックイDOCG。主要品種のブラケットはアロマティックな黒ブドウ品種。早熟な品種でピエモンテ州の南東部、古代ローマの都市で、アックイ・テルメという温泉の街の周辺に栽培が集中しています。
3. バローロとピエモンテのまとめ
今回は、ワインの王様バローロを中心に解説していくと共に、ピエモンテ全体で押さえておきたいワイン、ブドウ品種を概説しました。バローロは、お値段も張るワインですが、栽培と醸造の難しさを理解できれば、納得感を持って楽しむことができるのでは無いでしょうか?また、赤ワインが有名なこの産地ですが、ボディのしっかりしたアルネイスや、しゃきっとしたガヴィは、レストランでの注文や家飲みの時にも選択肢に加えて間違い無し!イタリアでは、トスカーナを上回るアペラシオンに恵まれたピエモンテ。イタリア・ワインの中でもまず、最初に押さえたい産地の一つです。アカデミー・デュ・ヴァンでも、ピエモンテを始めとした、イタリアの講座を多数揃えて皆さんのお越しをお待ちしております。