ゼクトとは? ~世界一の泡大国、ドイツが誇るスパークリングワイン

お祝いやイベントに華を添えてくれるワインといえば、1にも2にもスパークリングワイン。その代表格シャンパーニュの輸入量は日本が世界第13位と、日本人は泡が好きな国民です。とはいってもシャンパーニュはなかなか高価で飲める機会も限られてきますよね。そんな時に知っておくと役に立つのが、その他の世界の泡。今回はドイツが誇るスパークリングワイン「ゼクト」をご紹介していきます。

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【目次】
1. ゼクトとは?ドイツのスパークリングワインの分類
2. シャンパーニュに学んだゼクトの歴史
3. ゼクトの4つの製法
4. ドイツならではの品種も!ゼクトに使われる品種
5. ゼクトのさまざまなカテゴリ
6. トロッケンは本当に辛口?ゼクトの甘辛度
7. 押さえておきたいゼクトの有名生産者
7. ゼクトのまとめ


1. ゼクトとは?ドイツのスパークリングワインの分類

ゼクトとは、主にドイツで生産されるスパークリングワイン。ドイツでスパークリングワインのことを「シャウムヴァイン」といいますが、より基準が厳しく高品質なカテゴリに分類されるものが「ゼクト」です。さらに気圧やアルコール度数が低い「ぺールヴァイン」も含めるとドイツには大きく3つのスパークリングワインの分類があります。

シャウムヴァイン

ドイツでのスパークリングワインの総称。炭酸ガスの気圧は、20℃で3気圧以上。アルコールは 9.5%以上。

ゼクト

炭酸ガスの気圧は20℃で3.5気圧以上、アルコール度数10%以上。泡はタンク方式か瓶内二次発酵方式によって造られ、炭酸ガス注入は不可。後述するように、ゼクトの中にも様々な分類があります。

ペールヴァイン

イタリアのフリッツァンテやフランスのペティヤンに相当する、微発泡ワイン。炭酸ガスの気圧は20℃で1~2.5気圧。最低アルコール度数7%と低め。品質はベースワインの質に左右され、通常は安価なベースワインから、タンク方式または炭酸ガス注入方式で造られます。

実はドイツ人のスパークリングワイン消費量は世界一!世界中で生産される年間約20億本のスパークリングワインのうち、1/5の4億本がドイツで消費されているんです。生産量もイタリア、フランスに次ぎ世界第3位と多いのですが、ほとんどが国内で消費され輸出されるのはわずか10%超。いかにドイツ人が泡好きかわかると思います。

2. シャンパーニュに学んだゼクトの歴史

ドイツのスパークリングワインの大半を占めるゼクト。1957年にEUの前身である欧州経済共同体(EEC)が設立され、イタリア、スペイン、フランス等から安価なベースワインが安価に輸入できるようになったことで、1950年代から飛躍的に生産量が増えました。現在も低価格の大量生産ブランドが9割以上に生産を占めています。

ゼクトの歴史は200年ほど前に遡ります。最古の醸造所として知られるのが1826年創業のケスラー醸造所。シャンパーニュでワイン造りを学んだクリスティアン・フォン・ケスラーが設立しました。実はシャンパーニュとドイツの結びつきは深く、18世紀末から19世紀前半にかけて、多くのドイツ人がシャンパーニュに渡りました。例えばボランジェ、ドゥーツ、クリュッグのように、シャンパーニュにはドイツ系メゾンが多く残っています。ドイツではケスラー醸造所に続き、現ロートケプヒェン社ヘンケル社などの大会社がゼクトの生産を開始。当時はシャンパーニュに倣ったスタイルでしたが、ワイン生産の工業化とともに大手メゾンも瓶内二次発酵による伝統方式から、より簡単なタンク方式へと移行していきました。今でもゼクトはタンク方式が主流で、瓶内二次発酵方式によるものはわずか5パーセントほどに留まっています。細かい製法については、次の項目で詳しく説明していきますね。

3. ゼクトの4つの製法

ゼクトが興味深いのは、様々な製法が認められていること。例えばシャンパーニュなら必ず瓶内二次で泡が造られるように、製法が細かく規定されたスパークリングワインもありますが、ゼクトの場合は幅が広いので、スタイルも多岐にわたるんです。以下に4つの製法をご紹介します。

伝統方式(瓶内二次発酵方式)

シャンパーニュをはじめ高級スパークリングワインに使われる伝統的な製法です。まず一次発酵でスティルのベースワインを造ります。その後、酵母と糖分を加えて瓶詰めし、密閉した瓶内での二次発酵によって泡を閉じ込めていきます。ゼクトでは、シャルドネやピノ・ノワールなどシャンパーニュと同じ品種から造る場合によく用いられますが、リースリングでもこの方式を使う人もいます。その場合は、あえて澱との接触期間を短くし、品種香をマスキングしないようにする生産者も。タンク方式に比べて手間がかかるため、価格は高価になります。

トランスファー方式

トラディショナル方式と同じく瓶内二次発酵によって泡を閉じ込める方式。異なるのは、仕上げの際に瓶の中のスパークリングワインを加圧式タンクに移し、一気に冷却・ろ過を行うこと。これによってトラディショナル方式の動瓶と澱抜きの手間が省け、リーズナブルにワインを造ることができます。

シャルマ方式

大きな密閉タンクのなかで二次発酵を行い、泡をワインに溶け込ませる方法。高品質のものはタンクのなかで澱と一緒に3~6カ月ほど熟成されます。伝統方式に比べ短期間で大量にワインを生産でき、リリースまでの期間も短いため、コストも安くなるメリットがあります。かといって一概に伝統方式>シャルマ方式と思うのは危険!リースリングのように品種香を強く残したい場合は、あえてシャルマ方式で造る場合も多いのです。

田舎方式

一次発酵途中、まだ糖分が残っている段階でワインを瓶に詰めて、残りの発酵を瓶内で継続させることで泡を閉じ込めていきます。昔ながらのスパークリングワインの製法で、アンセストラル・メソッドとも呼ばれます。

4. ドイツならではの品種も!ゼクトに使われる品種

北緯50度付近とブドウの北限に位置し、冷涼な大陸性気候のドイツはスパークリングワインの生産に向いています。スパークリングワイン生産のためには、潜在アルコールが低く、高い酸度があるベースワインを使用することが重要だからです。

ゼクトに使われる主な品種は、リースリングピノ・ノワール

リースリングは13地域すべてで栽培されるドイツを代表する白ブドウ。品種の特徴として非常に酸が高いため、スパークリングワインの生産にも適しています。桃やリンゴといったアロマティックな香りを活かすため、タンク方式が主体ですが、瓶内二次発酵方式の複雑なスタイルも造られます。

黒ブドウの代表選手はピノ・ノワール。ドイツではシュぺートブルグンダーと呼ばれ、黒ブドウの生産量トップの品種です。

ほかにもシャルドネのほかに、ピノ・ブラン、ピノ・グリ、シルヴァネールなどドイツらしい品種も。高品質なゼクトは単一品種で造られることが多いですが、シャルドネやピノ・ノワールのブレンドなどからもゼクトが造られます。

珍しいところとしては、古代品種のエルブリングは覚えておきたい品種。2000年以上前から歴史ある品種で、モーゼル川周辺で中世に栄えた白ブドウです。酸味が非常に高くアルコール度数が低いことから、こちらもスパークリングワインに適しています。

5. ゼクトのさまざまなカテゴリ

by Mickis Fotowelt – stock.adobe.com

製法や原料により品質やスタイルが多岐にわたるゼクト。タンク方式の品種香を活かしたものからトラディショナル方式の複雑なタイプまで様々なため、裏を返せば、品質やスタイルか一目でわかりづらいという難点もあります。品質基準を見分けるため、ゼクトの中にもさらに細かく以下のカテゴリが規定されています。

ゼクト

ゼクトのうち9割以上を占めるのが、他国(フランス、イタリア、スペインなど)からもベースワインを輸入して造れる最も安価でベーシックな「ゼクト」。主にタンク方式で造られ、フレッシュ&フルーティー、飲みやすくするため残糖を残して造られるものも多いです。対してドイチャーゼクト以上は、原料はドイツ産のブドウと規定されています。

ドイチャーゼクト

ドイツ国内産のベースワインを使用したゼクト。フランスのIGPに相当するラントヴァイン(地理的表示ワイン)の基準をクリアしたベースワインに限られます。タンク方式でも瓶内二次発酵方式でも造られます。

ゼクトb.A.

ドイツ内の13の特定生産地域で生産された「クヴァリテーツヴァイン」から生産されたゼクトで、生産地域がラベル名に表示されます。タンク方式でも瓶内二次発酵方式でもOK。ゼクトb.Aの中には「ヴィンツァーゼクト」と「クレマン」の2つのカテゴリがあります。

ヴィンツァーゼクト

生産者元詰め(自家栽培&自家醸造)のベースワインを使用し、瓶内二次醗酵方式で最低9カ月間以上澱と一緒に熟成したもの。リースリングが使用されることが多いですが、他の品種からも造れます。澱と熟成させることで、酵母由来の複雑な香りがプラスされた辛口のスタイルに。ヴィンツァー=ワイン農家というとおり、ワイナリーの特徴が出やすいカテゴリで、小規模生産者が造るヴィンツァーゼクトが、現在注目を集めています。

クレマン

ゼクトのなかで最も厳しい基準が設けられた高品質なカテゴリ。白ブドウはすべて手収穫で全房圧搾(除梗せずに房を丸ごと圧搾)し、搾汁率、ドサージュ、亜硫酸使用規定も定められています。瓶内二次発酵にて9ヶ月以上の熟成が義務付けられています。

さらにワシのマークでお馴染みのVDPが認証するゼクトも存在します。VDP認証ゼクトはシャンパーニュを意識した高品質なゼクトを目指したもので、自家栽培のブドウを手摘み&全房圧搾し、瓶内二次発酵方式が必須になります。そのうえで熟成期間別に、最低15ヵ月熟成(ヴィンテージを記載する場合は最低24ヵ月)のものは「VDPゼクト」、最低36ヵ月熟成のヴィンテージ・ゼクトは「VDPゼクトプレステージ」と二段階に分かれています。

6. トロッケンは本当に辛口?ゼクトの甘辛度

好みのスパークリングワインを選ぶには、甘辛度をラベルから読み解く必要があります。ゼクトの基準もEUの基準と同じですが、用語が少し異なります。

  • ブリュット・ナチュレ:0~3g/L
  • エクストラ・ブリュット:0~6g/L
  • ブリュット:0~12g/L
  • エクストラ・トロッケン:12~17g/L
  • トロッケン:17~32g/L
  • ハルプ・トロッケン:32~50gL
  • ミルト:50g/L

辛口が欲しければ、ブリュット以上を選びましょう。
注意すべきは、トロッケン=辛口と言葉だけで翻訳してしまうこと。ゼクトにおける「トロッケン」は、残糖からみると中辛口~甘口に相当します。これを知っておかないと、うっかり甘いスパークリングワインを買ってしまった!となりかねないので気を付けましょう。

7. 押さえておきたいゼクトの有名生産者

息を吸うように泡を飲むドイツ人。スーパーマーケットにはスパークリングワインが大量に並んでいます。定番ブランドには、ロートケプヒェン社、ヘンケル社、シュロス・ヴァヘンハイム社などがあります。プレミアムゼクトの生産者として覚えておきたいのが、「ゼクトの帝王」の異名を持つラウムラント醸造所。ゼクト専門のワイナリーとして初めてVDPメンバになったことで有名です。

8. ゼクトのまとめ

泡好きという点で共通している日本とドイツ。安価でぐいぐい飲めるものからシャンパーニュスタイルのプレミアムなタイプまで選択肢が豊富なゼクトは、ぜひとも覚えておきたいスパークリングワインです。ワインショップやスーパーで「Sekt」の文字を見かけたら、ぜひ1本お持ち帰りしてみてくださいね。

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