スプマンテとは? ~プロセッコだけじゃない!イタリア、スパークリングワインの魅力に迫る

「スプマンテ」とは、イタリアで造られるスパークリングワインの総称です。イタリアは、土着ブドウの宝庫。300種類とも400種類ともいわれる数多くのブドウが栽培されている国です。こうした、さまざまな品種を使ったスプマンテが至る所で造られています。

安うまワインの銘柄も多くあって、日本でも大人気のイタリア・ワインですが、スプマンテも押さえておくと泡の選択肢が大きく広がります。シャンパーニュも好きだけど、イタリアのトレントDOCも美味しいよねとか、さらりと言ってみたいですよね!

アペリティフとしてはもちろんのこと、最近ではフリー・フローで前菜からメイン料理まで合わせるのも、お洒落なスパークリング。色々なワイン・スタイルの引き出しを持っていると、お友達やソムリエさん達からも尊敬のまなざしを集めるかもです。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】

1. イタリアの泡「スプマンテ」は世界最大!
2. スプマンテ代表は、やっぱりプロセッコとアスティ
3. 伝統方式スプマンテの御三家
4. ピノ・ネロ種スプマンテの聖地
5. 赤いスプマンテ
6. スプマンテのまとめ


1. イタリアの泡「スプマンテ」は世界最大

泡好きには堪らないのがイタリアです。北部イタリアのヴァッレ・ダオスタ州の産地ブラン・ド・モルジェ・エ・ド・ラ・サルでは、標高1000メートル前後の斜面で収穫される溌剌とした酸とハーブの香りが印象的な白ブドウ、プリエ・ブラン種でスプマンテが造られます。

フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州のアペラシオン、フリウリDOCでは、オレンジワイン造りにも使われるリボッラ・ジャッラが、スプマンテに使われます。

ローマが州都のラツィオ州では、白ブドウのマルヴァジアからフラスカーティDOCが造られます。

マルケ州の白ブドウ栽培面積1位はヴェルデッキオ。海のヴェルデッキオで知られる、ヴェルデッキオ・デイ・カステッリ・ディ・イエージDOC、そして、山のヴェルデッキオで知られる、ヴェルデッキオ ディ・マテリカDOC。そのいずれでも、スプマンテの生産が許されています。

さらに南に行って、シチリア島でも高品質の土着白ブドウ品種、カリカンテやカタラットから溌剌としたスプマンテが生まれます。

イタリアは世界最大のスパークリング・ワイン生産国。2018年には、世界の4分の1を超える生産をしています。それまでの10年間で、生産量は2倍以上に増えました。

生産量にして6割以上、消費量にして半分をプロセッコが占めます。輸出も価格ベースではフランスに次ぐ第2位ですが、ボリューム・ベースでは世界の4割を超え断トツのトップ。2020年はコロナ禍でスパークリングの販売は控えめでしたが、プロセッコのDOCとDOCGを合わせて5. 5億本。フランスのシャンパーニュの2.5億本やスペインのカバの2億本を遥かに上回っています。

この巨大なスパークリングワイン生産大国のイタリアから、今回は、特に北部イタリアの銘醸地を中心に、知っておきたい、飲んでおきたいスプマンテを取り上げます。

2. スプマンテ代表はやっぱりプロセッコとアスティ

プロセッコ

プロセッコは、ヴェネト州とフリウリ州を跨いで、9つの県で2万ヘクタールを超える広大な産地を持ちます。

その昔、プロセッコは田舎方式で造られていた時代がありました。主要ブドウ品種のグレラは晩熟。そのため、醸造が寒い冬の期間に入ってしまい、発酵が途中で止まってしまうケースがあったのです。それならと瓶詰をすると、今度は春になって気温が上がり、瓶内で再発酵。二酸化炭素が発生したという寸法です。自然派ワインで知られる微発泡のペットナットは、この方式で造られています。

今では、珍しくなった、この方式で造るプロセッコは、スイ・リエーヴィティ(シュール・リー)の名前で、少量市場に出回っています。少し曇りがあり、果実風味に加えて、澱から来るトースト香が感じられます。

タンク方式

しかし、ほとんどはタンク方式で造られます。シャンパーニュなどのトラディショナル・メソッド(伝統方式)で行われるルミアージュ(動瓶)デゴルジュマン(澱抜き)の作業が省けます。長期間の澱との接触もしませんから、市場に早く投入できて、コストも抑えられます。フルーティ、フローラルな果実由来の香りに重きを置いて、シャンパーニュの特徴のトーストやブリオッシュの香りを必要としないスタイルには最適です。

スパークリング・ワインの2次発酵を密閉された容器で行なう、このタンク方式は、イタリアでは「シャルマ方式」とフランス風に呼ぶよりも、「マルティノッティ方式」と言う方が通です。19世紀末にピエモンテ州のワイン醸造学者だったフェデリコ・マルティノッティが最初に特許申請したからこう呼ばれます。ところが、それから間もなくして、フランス人のユージン・シャルマが実用化して特許申請し直したのです。シャルマは、大手スパークリングワインメーカーであるコンパニ・フランセーズ・デ・グラン・ヴァンの創業メンバーでした。ですから、工業化レベルまで、技術の完成度を上げることができました。このタンクは、ステンレス製の密閉された圧力容器で、オートクレーブとも呼ばれます。工程も伝統方式と比べるとシンプル。グレラやドイツのリースリングなど果実の風味を引き出すには最適な方式です。

2009年に起きたこと

昔は、まだDOCだった、コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ。そしてヴェネト州とフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州を産地とする、幾つかのIGTに2009年に変化が訪れます。

コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネがDOCGに格上げされて、IGTが纏めてDOCに格上げされたのです。そして、「プロセッコ」を原産地呼称名にするために、ブドウ品種名を元はフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州のシノニムであるグレラと改称しました。

グレラ

もともとはプロセッコと呼ばれていた、この白ブドウ品種。樹勢が強く、上がりやすい収量を抑えればセミ・アロマティックな特徴がでてきます。仕立ては短梢で新梢を下向けに垂らしたシルヴォズや、弓形に新梢を仕立てる長梢剪定などが使われています。

コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネの収量は、ヘクタール当り、13.5トン。一般的なプロセッコDOCの18トンよりは抑えられています。でも、シャンパーニュの基本収量の10.4トンと比べると高いですね。

でも、必ずしも一概に語れないのは、ヴィンテージによって、収量は調整されるからです。ちなみに、2020年の収量は消費の伸び悩みを踏まえて、コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネは12トン、シャンパーニュは、8トンでした。

ともあれ、プロセッコという産地表記は、今では、コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネと、もう一つのDOCGアソロと、プロセッコDOCで認められた産地以外では使えなくなりました。同じブドウを使ったスプマンテには、ブドウ品種のグレラが表記できるだけです。

ブドウ品種がそのまま、特定地域のスパークリングワインの原産地呼称名となっていたので、他の産地で造られた場合でもプロセッコという名称になってしまっては不味い!それではと、ブドウ品種名を変えてしまったという面白い経緯です。

DOCとDOCG

プロセッコDOCは、最もベーシックなアペラシオンです。微発泡や非発泡ワイン(スティル・ワイン)も生産が認められていますが、基本はスパークリングワイン。やや甘口のエクストラ・ドライと辛口のブリュットが、併せて9割を超えています。輸出も8割近くで、世界的に飲まれています。協同組合がベース・ワインを造り、それを個々のワイナリーが瓶詰して二次発酵するというモデルも機能しています。

直近では、ロゼも登場。グレラと共に10~15パーセントのピノ・ノワール(ピノ・ネロ)を使います。

また、トレヴィーゾとトリエステで収穫、醸造、瓶詰されたワインは、その産地名をラベルに追記できます。

プロセッコ・スペリオーレ・コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネDOCGは、イタリアで最も重要なスプマンテと言って良いでしょう。大陸性気候で、ヴェネト州の標高にも恵まれた丘陵地のブドウから造られます。コネリアーノは東部でアドリア海からの温暖な影響を受け、熟度の高いブドウが収穫されます。ヴァルドッビアーデネは、西部の山岳地帯に近く、冷涼な気候で酸が高いのが特徴です。

今や、この高品質なDOCGはプロセッコDOCとの差別化が課題です。

ヴァルドッビアーデネの中でも特色を持った43村がリヴェと呼ばれています。主として、急峻な立地で高品質なブドウが生産される村が選抜。岩がちで、石灰質土壌の土地や、粘土質が豊富で、骨格がしっかりしたワインが造られる畑など、様々な特徴を持った村があります。収量もヘクタール当り13トンと抑えられています。ヴィンテージもラベルに記載されます。ただ、すべての村々が個性を持ったワインを産出するといったレベルには到達していないのも事実。なので、リヴェという名称を使わずに単一畑を売りにする生産者もいます。

ヴァルドッビアーデネで最高の産地は、公的な唯一のサブ・ゾーンである、カルティツェです。南向きの急斜面、107ヘクタールしかない貴重な産地です。氷堆石や砂岩などの土壌。収穫も手摘みが義務付けられています。収量も12トン。スプマンテのみの生産で、微発泡やスティル・ワインは造られません。香り高く、凝縮度も高い、最高級のプロセッコです。それでも、5000円ほどで手に入れることができるところが、安うまのイタリア・ワインの面目躍如たるゆえんです。

アスティ

ピエモンテ州の最大アペラシオンでも有る、アスティは、モスカート・ビアンコから造られる甘口のスプマンテ。同じアペラシオンから微発泡のモスカート・ダスティも造られています。この産地は、ワインの王と称される赤ワインの、バローロや女王と讃えられるバルバレスコの産地とも重なっています。

2020年は、アスティは5千万本を超える生産。モスカート・ダスティを加えると9千万本を超えます。

石灰質土壌のテッレ・ビアンケの丘陵地の急斜面。ここで栽培されるアスティの収量は、ヘクタール当り10トンです。

19世紀にカルロ・ガンチアが開発したころは、シャンパーニュで学んできた、伝統方式を使ったものでした。甘口で口当たりが良いため、アメリカでも大いに人気がでます。

タンク方式への切り替えは20世紀に入ってからです。イギリスでも1960年代から、特に1970年代以降には知名度が上がります。フローラルな香りとマスカットの香りを放つアロマティックなスプマンテで、早飲みワインです。

2017年以前は、アスティは甘口で、アルコール度数は最高でも9. 5パーセントと規定されていました。その後は、様々な甘さのスタイルが造れるようになってきて、最高アルコール度数の制限も撤廃されました。

醸造方法に特徴があり、タンク方式の中でも、特にアスティ方式と呼ばれます。ベースとなるワインを発酵させますが、完全にドライになる前に一度、中断します。その後、発酵を再開。5~6気圧程度の、多くは残糖のあるスパークリングになります。

最初の発酵では、二酸化炭素はタンクの外に排出。発酵が進んで、所定の糖度まで落ちると、今度はタンクを密閉して発酵を再開。気圧と残糖が計画通りになれば、冷却して発酵を止めるという寸法です。この様に、アスティ方式は、1次発酵を分けて行う、タンク方式の変則版なのです。

現在では、ほとんどがこの方式で造られていて、起源である伝統方式は一握りの生産者が取り入れるだけです。果実味豊で、フレッシュなタイプのスパークリングには、アスティ方式が向いています。

微発泡ワインのモスカート・ダスティは2.5気圧程度で、軽くて低アルコール。ラッパーのカニエ・ウエストやドレイクが支持して人気を博しています。酸と残糖、低めのアルコールが調和を生んで、アカシアなどのフローラルな香りとリンゴや梨といった果実香と合わさって爽やかな風味を味わえます。

一般的に、発泡酒は3気圧以上、微発泡は1~2.5気圧と覚えておきましょう。

3. 伝統方式スプマンテの御三家

フランチャコルタ

イタリア北西部。州都ミラノを有するロンバルディア州にあるのがフランチャコルタ。北部は山岳部でアルプス山脈の一角。コモ湖、イゼオ湖、ガルダ湖と美しい湖にも恵まれています。一般的には、温和な大陸性気候で、シャンパーニュよりも酸は控えめです。

土壌は、氷河に削られた岩石や土砂が堆積した、氷堆石の緩やかな傾斜地。イゼオ湖が大陸性気候を和らげると共に、山がちな地形が、北からの寒冷な影響から守ってくれるという恵まれた産地です。

イゼオ湖

フランチャコルタはイゼオ湖の南のアペラシオン。この地方では、中世の昔から発泡酒が造られていたといわれています。2021年には、21百万本とコロナ禍の中で、販売量を大幅に伸ばしています。輸出は、15パーセントにも満たないレベルで、プロセッコなどの海外が主要市場となっているスプマンテとは趣を異にしています。

現代の伝統方式のスパークリングは、ベルルッキ・ワイナリーが1961年に販売したことが始まりです。ピノ・ビアンコのスパークリングを、ピノ・ディ・フランチャコルタという名称で広めます。消費のたかまりに連れて、投資も引き寄せます。ベルルッキの後、カ・デル・ボスコもピノ・ディ・フランチャコルタを1972年に生産開始。ベラヴィスタなども続きます。こうした、シャンパーニュに負けないスパークリングを造ろうという先人達の努力が報われ、1995年には、伝統方式スパークリングとして初のDOCGを与えられました。この3千ヘクタールほどの産地からはクリュが生まれてくる動きがあり、今は産地全体を押し上げようと生産者達が一致団結しています。

伝統方式

伝統方式のスパークリングでは、一次発酵でベース・ワインを造った後は、酵母や糖分などを含んだリキュール・ド・ティラージュを添加。ゆっくりと発酵が進み、二酸化炭素がワインに溶け込んでいきます。その後、酵母が自己分解して澱を放出。沈殿した澱を静かにワインのネック部分に集めて(動瓶)、冷却して氷の塊と共に澱抜き(デゴルジュマン)をします。そして、目減りしたワインや甘味の調整に糖分(ドサージュ)やワインを含む、「門出のリキュール」を加えます。複雑で時間もコストも掛かる方式です。

栽培されているブドウ品種は、シャルドネ、ピノ・ネロとピノ・ビアンコですが、シャルドネが最大品種です。ピノ・ビアンコはブレンドの半分を超えて使うことはできません。オーガニック栽培が主流です。ヘクタール当り3300本程度の中程度の植栽密度で、収量上限は、ヘクタール当り12トンです。

収穫は手摘みで、全房のブドウを収穫します。全房圧搾は、タンニンやアントシアニンを特に黒ブドウのピノ・ネロから抽出されることを抑えます。また、梗が付いているので果汁の流れが良くなりますが、一方で破砕したブドウよりも一回に圧搾できる量は減りますので、手間暇が掛かります。

フランチャコルタでは、近年、エルバマットという在来品種に使用が認められ、10パーセント以下の比率で含むことができるようになりました。ロンバルディアの古い品種で、晩熟で糖度があまり上がらないという特徴があります。ですので、温暖化が進む中でも、十分に高い酸と低いフェノールを実現できるので、スパークリングワイン造りには適しています。但し、この品種は「サテン」と呼ばれるシャルドネ100パーセントのブラン・ド・ブランへの使用は許されていません。

一方、ロゼ・シャンパーニュはピノ・ネロを35パーセント使う必要がありますが、直接圧搾方式でも醸しでも、ブレンドでも良いという自由なワイン造りができます。

標準のキュヴェでも澱熟成は18か月。シャンパーニュよりも長期間です。また、単一年のブドウが使われる事が多くあります。これがリゼルヴァになると60か月という超長期熟成となります。また、サテンは4.5気圧から最大で5気圧。通常の6気圧よりも、やや低めの瓶内圧力と、最低2年の澱熟成が相まって、柔らかい触感が生まれます。

泡の科学

瓶内の気圧が高いほど、二酸化炭素がワインに沢山溶け込んでいます。瓶内のワインに溶けている二酸化炭素分子と、コルクとワインの液面との間(ヘッド・スペース)に存在する二酸化炭素分子の圧力はヘンリーの法則でつり合いが取れています。それが、栓が抜かれると、大気中の二酸化炭素の圧力とバランスを取ろうとして、ワインから泡が放出されるのです。こうしたワイン・ギークな話題にご興味のある方は、「シャンパン 泡の科学」(白水社)を読むと詳しく解説されています。

瓶内の気圧が高いほど泡は大きくて、量も多くなります。4グラムの糖分を加えることによって、概ね、瓶内気圧が1気圧程度上昇しますので、平均的なスパークリングの6気圧を得るには、24グラムの糖分が必要になります。スパークリングが長い期間熟成されると、コルクから少しずつ二酸化炭素が抜けていくので、泡がきめ細やかに感じられるようになります。

この産地は、シャンパーニュと比べて温暖なため、さほどドサージュを必要としません。最近では、温暖化の影響もあり、ドサージュ無しでも、十分にバランスが取れたワインが造れるようになってきました。

トレントDOC

トレントDOCは、今や、年間12百万本の伝統方式スプマンテを生産する規模になりました。しかし、有名なフェラーリでも、輸出量は10パーセント程度。イタリア国内販売が好調なので、中々海外には回ってきません。でも、ワイナリーもアペラシオン協会も、海外市場での販売を増やしたい意向。ソーシャルメディアなどを通した消費者へのアピールを強化する方向です。

トレントは、イタリア北東部トレンティーノの、伝統方式で造るスプマンテのアペラシオン。1993年に、イタリアで初めて、伝統方式スプマンテのためだけに設けられました。

この産地は山がちで、山から生まれるスパークリングと評されています。800メートル以上の標高でも栽培が行われているのは驚きです。フランチャコルタよりも収穫は1か月ほど遅くなり、ブドウがゆっくりと成熟して、香り高く、また高い酸も保持できます。

土壌はカルシウムやマグネシウムが豊富なドロミテが有名です。北部イタリアの山地の地名にもなっている苦灰岩。マグネシウムは、葉緑素の主成分。欠乏すると、葉が黄化して生育が阻害されてしまう大切な栄養素です。

ブドウ品種は、シャルドネが中核で、ピノ・ネロ、更にピノ・ビアンコ、ムニエが加わることがあります。

収穫は手摘みで、フランチャコルタでは使用されない棚栽培も急斜面で使われています。他に、ギュイヨ、コルドンなどの垣根仕立ても。生産者の1割程度はオーガニック栽培を実施。フランチャコルタよりも、高めの酸のおかげでマロラクティック発酵も行われます。

ノン・ヴィンテージは、最低15か月の澱熟成。ヴィンテージは24か月、リゼルヴァは36か月の熟成が必要です。また、ロゼ・シャンパーニュも生産しています。最近では、ドサージュ無しも、ライン・アップに投入されています。

大手のフェラーリ、生産協同組合のカヴィット、やはり協同組合のグループであるメッツァコロナを除けば、大半は小規模生産者です。

フェラーリはジュリオ・フェッラーリが創立。この産地の先駆けとなりました。標高の高い産地では気候がシャンパーニュに似ていて、酸が高く保たれると、ジュリオ・フェッラーリは考えたのです。

フェラーリが事業を始めた1902年から今年で120年になります。現在では、自動車のF1レースの公式スパークリングワインに、シャンパーニュ以外では初めて起用されるに至っています。また、アメリカの優れたテレビ番組与えられる賞、エミー賞の公式スパークリングにもなっています。

スパークリングワイン生産用にパイオニア的に始めた、シャルドネの栽培も今では、トレンティーノでは最大品種になりました。イタリア全土で最も栽培比率が高い産地になっています。

アルタ・ランガ

アルタ・ランガはピエモンテ州の、伝統方式スプマンテのDOCGアペラシオンです。ブドウはシャルドネとピノ・ネロが使用されます。19世紀初頭にイタリアで最も昔に伝統方式スプマンテを造り始めたとの話もあります。19世紀半ばには、シャンパーニュで醸造を学んだ、カルロ・ガンチアが小規模な伝統方式の生産を始めて、エンリコ・セラフィーノ等の地元の生産者達に広まっていきます。

1990年にはピエモンテの伝統方式の生産者達がピノ・ノワールとシャルドネの植栽を期して、プロジェクトを立ち上げます。バローロやバルバレスコの生産者も参入します。そして、20ヘクタールの畑から始めて、順調に2002年にはDOCへ、そして2011年にはDOCGに昇格しました。

このアペラシオンに認められるには厳格な規則を守る必要があります。30か月の澱熟成が必要で、リゼルヴァは36か月間が必要です。スタンダード・キュヴェを比べると、シャンパーニュはおろか、フランチャコルタよりも更に長い熟成期間です。

産地の標高も、フランチャコルタよりも高め。最低でも、250メートルの標高。谷間の平地での栽培は許されません。石灰質や泥灰土、砂質といった土壌の、500~800メートル程度の標高で、ゆっくりとブドウが成熟します。植栽密度は、ヘクタール当り最低4000本。ギュイヨかコルドンの仕立てで、地面からの高さまで、きっちりと規定されています。最大収量はヘクタール11トンです。

生産量は、限定的で65万本程度です。ヴィンテージのスプマンテのみが生産されていて、前年以前のリザーヴ・ワインは使われません。アペラシオンの規則が定められる時に、バローロなどの優れたスティル・ワインと同じように、ヴィンテージ毎の特徴を訴求したいとの議論があったようです。

価格は低めに抑えられていて、お買い得感が高いアペラシオンです。

4. ピノ・ネロ種スプマンテの聖地

オルトレポー・パヴェーゼ・メトード・クラシコは、フランチャコルタに次いで、2番目に伝統方式スプマンテのDOCGを2007年に取得しました。このアペラシオンの特徴は、ピノ・ネロを主要品種としているところです。最低、7割、ピノ・ネロを使わなければなりません。

ピノ・ネロの産地としては、イタリア最大。ロンバルディア州のブドウ栽培面積全体の4分の1近くを占めます。ミラノからでも、日帰りで訪問できる、ポー川の南側にある産地です。ロンバルディアでは、ピエモンテ州に続いて19世紀半ばに政治家の後押しも有って、ピノ・ネロの栽培が進みます。今では、地元では我こそは、ブルゴーニュやシャンパーニュに次ぐピノ・ネロの産地だと自負しているほどです。

ピノ・ネロ以外には、シャルドネ、ピノ・ビアンコ、ピノ・グリージョを補助品種として使用する事ができます。

ロゼの中には特別に、「クルアゼ」という名称が与えられた特別なワインがあります。

この名称は、オルトレポー・パヴェーゼ ・ワイン保護協会のブランド名となっています。100パーセントのピノ・ネロが必要になります。また、醸造にも厳しい規定が。

今やシャンパーニュを含めて殆どのロゼ・スパークリングで一般的になっている赤ワインのブレンド。世の中のロゼの高級スティル・ワイン造りでは認められていませんが、スパークリングのロゼでは例外になっているのです。

シャンパーニュでは、ボランジェ、テタンジェ、ルイナールなどの数多くの有名メゾンが赤ワインのブレンドを採用しています。7パーセントから15パーセント程度の少量の赤ワインを混ぜるのです。

しかし、クルアゼではブレンドは認められません。ベース・ワインをロゼワインとして造り、それを瓶内二次発酵するのです。どの程度、果皮からの抽出をするのかにもよりますが、赤ワインをブレンドするよりも、繊細な果実香や柔らかな触感が出ると考える生産者もいます。

5. 赤いスプマンテ

ランブルスコ

エミリア・ロマーニャ州の赤いスプマンテ。アルコール度数が控えめで明るい色をしたワインが70年代、80年代に一世を風靡。米国では廉価で甘口のものに、特に人気がありました。一方で、大量消費型のバルク・ワインと酷評されたこともありました。

赤いスプマンテ ランブルスコ

ランブルスコは、さまざまな種類の黒ブドウ品種のグループです。ワインが造られる地域やアペラシオンによって、使われる品種が変わります。

代表的なアペラシオンは、沖積土壌の平たんな土地のランブルスコ・ディ・ソルバーラDOC。典型的なカジュアルで軽いワインを造る、ランブルスコ・ディ・ソルバーラ種が主要品種。ランブルスコ・サラミーノ種も加えられます。

このソルバーラ種は雌花で、受粉の為に他のブドウ品種が必要で、最大栽培面積を有するサラミーノ種と混植されます。

ランブルスコ・グラスパロッサ種は、香り高く、タンニンも豊富でボディも厚め。南部砂質土壌の丘陵地帯で栽培されて、アペラシオンは、ランブルスコ・グラスパロッサ・ディ・カステルヴェトロDOCです。

ランブルスコは、微発泡の割合が大きいのですが、スパークリングもタンク方式を中心に生産されています。また、DOCのアペラシオンで使われるよりもIGT向けに多く使われていて、2020年では、1億6千万本の内、4分の3がIGT。輸出は甘口(ドルチェ)や中甘口(アマービレ)が主流ですが、イタリア国内向けには辛口(セッコ)や中辛口(セミセッコ)が普及しています。

大半が、タンク方式ですが、一部、伝統方式や田舎方式で造られるものもあります。また、数少ないですが、スパークリングの白のスタイルで造られることもあります。

ブラケット・ダックイ

ブラケットはアロマティックな黒ブドウ品種。早熟な品種でピエモンテ州の南東部、古代ローマの都市で、アックイ・テルメという温泉の街の周辺に栽培が集中しています。伝説では、アックイのワインと呼ばれて、シーザーが、そして後にはアントニウスがクレオパトラに贈呈していたとの話も。媚薬としても効果があると考えられていたという話も残っています。

閑話休題、今は、甘口の赤いスパークリング、ブラケット・ダックイDOCGの主要品種に使われています。アペラシオンの規則上は、97パーセントの使用が必要。3パーセントは他品種の使用が可能ですが、実際は単一品種で造られます。

赤系のストロベリーやラズベリーの風味。ピエモンテ州の名門ワイナリーの当主アルトゥロ・ベルサーノらの先駆者が、このスパークリングワインを生み出しました。タンク方式で造られたスパークリングでアルコールは、5~6パーセントと抑え気味です。香りの高さを活かすため、低温で発酵します。このアペラシオンでは、スパークリング以外にも赤ワインや低圧の微発泡ワインも造られています。

ヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナ

マルケ州のヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナDOCGはイタリアでも最小面積のDOCGの一つ。栽培地は70ヘクタールもありません。アドリア海から内陸へ60キロほどで、山と丘陵地からなる産地。アペニン山脈の450~600メートルほどの斜面で栽培されています。厳しい規定があり、谷間の平地での栽培や、逆に700メートルを超える高地での栽培は認められません。また、日照も十分な土地での栽培が必要です。

このアペラシオンが珍しいのは、その面積だけではありません。赤色のスパークリングワインだけを造る、たった一つのDOCGだということです。辛口から甘口迄のスタイルがありますが、黒ブドウのヴェルナッチャ・ネラを最低85パーセント使用しなければなりません。収量は、ヘクタール当り10トン。このブドウ品種、ジャンシス・ロビンソンの「ワイン用 葡萄品種大事典」ではグルナッシュと同一と整理されていますが、この産地土着のブドウ品種だという人達もいます。

更に珍しいのは、3段階の発酵をすることです。ベース・ワインを造った後に、最低4割の陰干ししたブドウを使用して冬場に2か月ほどの発酵をします。ブドウの乾燥にはフルッタイオと呼ばれる専用の場所が当てられます。そして、ベース・ワインとブレンド。春には、主としてタンク方式で、ティラージュを添加して二酸化炭素を発生させます。こうした、とても手間暇をかけたワイン造りをするのです。

このスパークリングは、少し高めの温度で、大振りのグラスで華やかな香りを楽しみます。この産地では、11月中旬に、フェスティバルが催され、ワインのテイスティング会や陰干し中のブドウの様子を見学することもできます。

6. スプマンテのまとめ

イタリアの北部銘醸地を中心とした、有名スプマンテのアペラシオンを巡る旅。楽しんでいただけましたでしょうか。実は、タンク方式が最初に発明されたのはイタリア。伝統方式はと言えば、シャンパーニュよりも圧倒的に長い熟成期間を定めたアペラシオンもありましたね。新しい発見が沢山あったのでは無いでしょうか?いつもの「シャンパーニュで乾杯!」を、時にはスプマンテに変えてみませんか。

豊かな人生を、ワインとともに

(ワインスクール無料体験のご案内)

世界的に高名なワイン評論家スティーヴン・スパリュアはパリで1972年にワインスクールを立ち上げました。そのスタイルを受け継ぎ、1987年、日本初のワインスクールとしてアカデミー・デュ・ヴァンが開校しました。

シーズンごとに開講されるワインの講座数は150以上。初心者からプロフェッショナルまで、ワインや酒、食文化の好奇心を満たす多彩な講座をご用意しています。

ワインスクール
アカデミー・デュ・ヴァン