アパルトヘイト政策が廃止されて30年。世界的に広く認知される様になった南アフリカのワイン。スティーン、ケープ・ブレンド、キャップ・クラシック、ケープ・サウス・コーストのピノ・ノワールにシャルドネ。古木に無灌漑のブドウ栽培と切り口は多様化している。コロナ禍ではワインの国内販売や海外への輸出も一時禁止されて、日本の南アフリカワインのファンも大いに心配したことも記憶に新しい。
そんな中でも2010年以降特に注目を集めて来たのは、なんといってもスワートランドだろう。67 Pall Mall(イギリスとシンガポールに拠点を置くワイン愛好家の会員制クラブ)のマスター・オブ・ワインのリチャード・ヘミングが、スワートランドに変革をもたらした生産者の一人、アンドレア・マリヌーに切り込む。
【目次】
①アンドレアとスワートランドの歴史
②土壌が造るワイン
③スワートランド・インデペンデント・プロデューサーズ
④シラーとシラーズ
⑤まとめ
①アンドレアとスワートランドの歴史
「南アフリカの写真を見て、ワインを何本か飲んだら、すぐ好きになったわ。90年代の半ばから後半に全然手に入らなかった南アのワインがどんどん出回ったの。大学卒業後に、海外のインターンシップに行くなら南アだと思ったわ。現地に着いた瞬間には、もう、ここにいなきゃいけないって感じたわ。」
アンドレアはサンフランシスコで育ちUCデーヴィスで学び、南仏で働き、伴侶となるクリスとシャンパーニュで出会う。そして、彼女はクリスとそして彼の出身の南アフリカのワインに恋をする。なんともロマンチックな話だが、アンドレアの話しぶりは実にてきぱきと滑舌が良い。ワイン・エンスージアスト誌でワイン・メーカー・オブ・ザ・イヤーにも輝いている。
https://www.youtube.com/watch?v=cCgFX__LLv4&t=195s
「2007年にワイン造りを始めた時には古木に恵まれた素晴らしいブドウ畑や古い土壌があるのにこの産地は知られていなかった。だから、土地も建物も畑もなにも持っていない、そんな私たち2人だったけど、産地の評価に貢献するのには、うってつけだったわ。」
18世紀に遡る歴史を持つ生産者のアレスフェローレンやラムズフック。強力な権力を持った南 アフリカワイン醸造者協同組合連合(KWV)から1948年に協同組合として独立したスワートランド・ワイナリー。こうした歴史を持つ独立系のワイナリーはあったものの、灌漑を活用して収量を増やして協同組合や大手企業に販売するブドウ栽培者たちも多かった。
アパルトヘイトが終わり南ア産のワインの海外進出が可能になる1990年代以降になってKWVも規制機関としての強力な権力を失い、量よりも質を追求する新しい世代が生まれる環境が整ってきた。
節目となったのは、チャールズ・バックがこの地のソーヴィニョン・ブランに魅了されてワイナリー「スパイス・ルート」を始めたとき。そこで素晴らしい才能、イーベン・サディが見いだされる。そして、きらぼしの様に新進気鋭の醸造家が集まった2000年代後半。新しい時代の幕開けだ。
このムーヴメントをイーベン・サディと共に盛り上げてきたのが、2007年にこの地の歴史に加わったアンドレアとクリス・マリヌー夫妻という訳だ。いまではスワートランドのワイン産地としての評価も着実に固まってきた。