あの人のワイン人生Vol.9 ~大森祥子さん「行動力が未来を変える!輸入会社、ワイン講師へ」

「実は、中学高校時代の私は、クラスでは静かで存在感の薄い生徒だったんです。」そう語るのは、オーストリアワイン専門輸入会社「wine-bridge」を立ち上げた大森祥子さんです。それでも、彼女にはスーパーポジティブなエネルギーと、「無理だ」と言われても行動に移す力がありました。「その力を身につけることができたのは、子育てを通じてだと思います」と、彼女は控えめに付け加えます。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】
1. 子どもの難病と向き合う
2. オーストリアへの旅と運命の出会い
3. ワインの学びで広がる世界
4. オーストリアワイン輸入と販路の拡大
5. 大阪で紡ぐ新たなワインストーリー
6. 行動力で切り拓く未来


1. 子どもの難病と向き合う

音楽大学を卒業後、ピアノ講師、結婚を機に公立中学校の音楽教師として働いていました。翌年、長男を授かりますが、新生児仮死で生まれ、生後すぐの手術で命を取り留めたものの、珍しい難病を患っていることを告げられたのです。わたしにしたら何ら普通の子と変わらない可愛い子。ショックを受けながらも、落ち込んでる場合じゃない、この子を健康に育て上げると気持ちを湧き立て、情報収集、とにかく行動する。患者数が少なかったのですが、ちょうど患者会を立ち上げようという動きがあり、そこに参加し、我が子のために頑張る親御さんと一緒に、政治家に医療費や医療費補助を掛け合ったり、状況を変えていく試みをしました。今、思えばこのとき、難しいと思うことでも行動してみることで、何かが変わっていくということを自分自身が知ることができたのだと思います。

次男とピアノの演奏会に出演

2. オーストリアへの旅と運命の出会い

それから数年後、私は子育てと共に、夫の自営の仕事を手伝うようになりました。家事に、仕事に、育児に―常にオーバーワークの日々。そんな中、ふと一息つくためにオーストリアへ旅に出ることを決めました。理由はシンプルで、当時練習していたブラームスの作品が生まれた地を見てみたかったからです。

オーストリアでは、現地に住む友人が「元気がないときは酒だ!」と言い放ち、私をワイナリーに連れて行ってくれました。訪れたのは、ウィーンから30キロほど南下したタッテンドルフ村にある「ランダウアー」というワイナリー。何種類ものワインを試飲しましたが、当時の私はワインに詳しくありませんでした。それでも、現地で飲むワインは格別で、特に「ザンクトラウレント」とラベルに書かれた一本に心を奪われました。(余談ですが、当時は「ザンクトラウレント」というのが地名だと思い込んでいました。)

さて、そのワイナリーで20数本のワインを購入し、ウィーンに戻って確認してみると、なんと購入した覚えのない展示品のボトルが混ざっていることに気づいたのです。慌ててワイナリーに連絡を試みましたが繋がらず、最終的には友人が返却してくれました。その後、ワイナリーの女将ヨハンナとスカイプを通じて直接話す機会がありました。

ヨハンナは「こんな田舎までわざわざ来てくれたこと、そして日本で私たちのワインを楽しんでくれることが本当に嬉しい」と笑顔で語りました。その言葉は、まるで矢で射抜かれたように私の心に深く響きました。そして私は決心したのです。「このワインを、自分以外の一人でも多くの人に味わってほしい」と。それが、私がオーストリアワインを輸入販売する仕事を始めるきっかけとなったのでした。

ヨハンナと初めて会った時の写真

3. ワインの学びで広がる世界

その後、友人の勧めで酒販免許を取得しましたが、何から始めればいいのか全く分からず、右往左往するばかりでした。ワイン業界はプロ意識が非常に高く、新参者や知識のない人間に対してなかなか扉を開いてくれません。そこでようやく気づいたのです。免許を持っているだけでは何の意味もない。ワインを扱うには、まず自分自身がしっかりとした知識を持たなければならないのだと。

そして、たどり着いたのがアカデミー・デュ・ヴァンでした。体験レッスンを受けたあの日が、私の新たなキャリアの出発点となりました。Step-Ⅰという初心者クラスでは、クラスメイトの自己紹介がとても印象的でした。飲食店や酒販関係のプロだけでなく、全国からさまざまな職業や年齢層の方々が集まっていて、これまで経験してきた学校とは全く違う雰囲気。「これから楽しくなりそうだな」と胸が躍ったことを覚えています。

ワインを学ぶ中で、私はそれまで勝手に抱いていた「ワインは気取った飲み物」という先入観が完全に覆されました。歴史や文学、芸術、聖書、化学、植物学など、あらゆる学問や文化と深く結びついていることに気づいたのです。「こんなに奥深い世界に足を踏み入れられたなんて!」という喜びと驚きが、私を前へと駆り立て、気が付いたら3年間でワインエキスパート、SAKE Diploma、WSET🄬Level3、チーズプロフェッショナルまで取得していたのです。

4. オーストリアワイン輸入と販路の拡大

そして、ついに2022年7月、ラウアンダーのワインを正式に輸入できるようになりました。しかし、最初に出展したオーストリア大使館主催のプロ向け試飲会では、厳しい洗礼を受けました。私のブースは閑古鳥が鳴くばかり。隣のブースでは賑やかな笑い声が響き、楽しそうな雰囲気に満ちているのを横目に、私は「閑古鳥に餌を撒く」ような気持ちで奮闘していました。

それでも諦めず、一人ひとりに声をかけ、テイスティングをお願いし、オーストリアワインへの熱意や、生産者と直接やり取りして得た情報、これまで学んできた知識を伝え続けました。その積み重ねが功を奏し、少しずつ販路が広がっていったのです。

なかでもご縁に恵まれたと思うことは、翌年の同じイベントで、コンラッド東京の森本美雪さんが、ラウアンダーのザンクトラウレントをセミナーで試飲アイテムとして取り上げてくださったことです。これをきっかけに、「当たって砕けろ」の精神でコンラッドに電話し、営業の機会をいただけないかとアタックしました。そしてその後、なんとコンラッド東京でラウアンダーのワインを導入してもらえることになったのです。

もちろん、この成果は一朝一夕で得られたものではありません。飛び込み営業を繰り返し、ときには断られることもありましたが、諦めないで行動を続けました。今振り返ると、自分でも驚くほどの行動力だったと思います。何度も「ダメかもしれない」と思う瞬間はありましたが、そのたびに「行動しなければ未来は変わらない、行動すれば未来が変わる」と心に言い聞かせて前に進むことを選びました。

5. 大阪で紡ぐ新たなワインストーリー

子どもたちが巣立ち、一息つけるようになった2024年。新たなご縁を頼りに大阪へ引っ越しました。とはいえ、まだ「大阪に住んでいる」という実感は薄く、見慣れない地名に戸惑ったり、電車で逆方向に向かってしまったりする日々です。関西弁もまだまだ話せません。それでも、不思議と毎日が楽しいのです。

その理由はひとつ――「ワイン」があるから。ワインに興味を持つ人たちとは自然に繋がることができる。そんな体験を、大阪でも毎日のように味わっています。人と人を繋ぐ不思議な力を、改めてワインに教えてもらっている気がします。

さらに、大阪では新たな挑戦の機会をいただきました。ご縁あって、アカデミー・デュ・ヴァンの講師を務めさせていただくことになったのです。

かつて自分が感じた「ワインを学ぶときのあのワクワク感」を、今度は受講生に伝えていきたいと思っています。ワインを学ぶことが、ただの知識習得ではなく、世界を旅するような体験であると感じてもらえるような講座にしたいと心から願っています。

6. 行動力で切り拓く未来

新しい土地、新しい挑戦。すべてが手探りの中で、ワインと共に築かれる新しい日々にワクワクしながら、大阪の暮らしに少しずつ馴染んでいく自分を楽しんでいます。そして、この地でもこれまでの経験を活かしながら、さらに行動力を持って新たな可能性を切り拓いていこうと心に決めています。


ワインが持つ力をもっと多くの人に届けるために、大森祥子先生の挑戦はこれからも続いていきそうです。

プロフィール

大森祥子(おおもりさちこ) @morilins
株式会社wine-bridge 代表取締役/アカデミー・デュ・ヴァン講師

  • 星座:双子座
  • 血液型:AB
  • ワイン以外の趣味:車
    (車が好きで、かつてはSUBARUアルシオーネSVXに28年乗り、 シビックタイプアールユーロのオーナー11年の経験があります)
  • 好きな食べ物:酢の物
  • もし生まれ変わったら何になりたい?:猫
  • 酔っぱらったらどうなる?:さらにおしゃべりになる
  • 人生を変えたワイン:LANDAUER ザンクトラウレント セレクション

 

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世界的に高名なワイン評論家スティーヴン・スパリュアはパリで1972年にワインスクールを立ち上げました。そのスタイルを受け継ぎ、1987年、日本初のワインスクールとしてアカデミー・デュ・ヴァンが開校しました。

シーズンごとに開講されるワインの講座数は150以上。初心者からプロフェッショナルまで、ワインや酒、食文化の好奇心を満たす多彩な講座をご用意しています。

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