ナチュラル・ワイン、よもやま話。Vol.1 – できてますか?ナチュラルワインとビオワインの区分。

ナチュラルワインにまつわる、あれこれを、楽しく掘り下げる新連載。第一回目は、ナチュラル・ワインとビオ・ワインの違いについて。耳障りのよい言葉のウラに潜む、グレーな事実(深くて遠い河の対岸)? を解き明かします。


【目次】

1.日本にも届き始めた、INAO認定”ナチュラル方式ワイン”。
2.今までは亜硫酸以外に、味付け用・認可添加物が多数。
3.無認証ナチュラル・ワインで、逮捕される??
.区分のための”魔法の”質問。


1. 日本にも届き始めた、INAO認定”ナチュラル方式ワイン”。

オーガニック(ビオ)・ラーメン という流派があり、そこから「けしからんぞ! オーガニック(ビオ)と言いつつ化学調味料など添加物が多すぎるぞ!」 との信念で、化学調味料などの添加物を今までの1/3以下、またはゼロにまで低減した、ナチュラル・ラーメンという流派ができた。
そんな感じなのです。
オーガニック・ワインとナチュラル・ワイン(ヴァン・ナチュール)のちがい。
そしていよいよ。INAO(国立原産地名称委員会。農務省管轄)、および“フランス不正行為防止総局(内部に欺瞞行為処罰局を含む)”が、そのナチュラルワインの認証に動きました。「もう、エセ・ナチュラル・ワインは許さん!」と国家も立ち上がった訳です。

となると、今まであまり細かいことは気にしないO型の人も、 オーガニック(ビオ)・ワインとナチュラル・ワインは、区分はつけておいた方が、ワイン選びの際に得、かもしれません。
なにせ、パリで一番偉そうな顔をしているデパート(だと私は感じる)、ギャラリー・ラファイエットの最新支店、シャンゼリゼ店のワイン売り場は とうとう、100%ナチュラル・ワイン・オンリーという時代、でもあるのですから。

INAO認定、ヴァン・メトード・ナチュール(自然方式ワイン)の認証ロゴ。
左:亜硫酸添加30mg/L以下、右:無添加の二種がある。

 

2.亜硫酸(酸化防止剤)量以外にも、味付け用、認可添加物が多数。

手短に申し上げると、ナチュラル・ワインはオーガニック(=ビオ)・ワインより醸造時の添加物に対する基準がはるかに厳しい、ということです。
EU がオーガニック・ワイン認証に容認している亜硫酸(酸化防止剤)添加上限は、赤ワイン100mg/l、 白ワイン150mg/l(甘口を除く)。 その他、ワインに渋みを加える補タンニン、酸を加える補酸、アルコール度数を上げるための補糖、そして果実味を濃厚にする特性がある酵母、フレッシュな香りを出すための酵母などなど、培養商用酵母の使用もOKです。

しかし。
ナチュラル・ワインの亜硫酸(酸化防止剤)添加上限は、わずかに赤・20mg/l 、 白・30mg/lのみ。 それ以外の添加物(味付け)は一切認めないというのが 基本です。

この基準は、かのティエリー・ピュズラ(仏・ロワール)などが設立に尽力したフランス・ナチュラル・ワイン協会が定めたものです。
もちろん、ビオディナミの認証団体、 デメテールなどにも、昔から亜硫酸添加上限はありまして、その関係性を表すと下記の表となります。

ちなみにピラミッド型で上が頂点ぽくなっているのは単に生産されているワインの絶対量が少ないという意味です。亜硫酸添加ゼロのものが、それだけで位階の最上位と言う意味ではありませんので、どうぞお怒りにならないでくださいね。

フランス・ナチュラル・ワイン協会設立の立役者、ティエリー・ピュズラ

 

3.無認証ナチュラルワインで、逮捕される??

そんな混沌の中、昨年11月、いよいよ発表されたINAOがナチュラルワインの認証基準。呼称は「Vin Méthode Nature」、日本語に訳すと”自然方式ワイン”との、ワンクッション置いた言い回しです。
この歴史的快挙は、ミュスカデの生産者ラ・パオネリのジャック・カロジェ、サン・ニコラ・ド・ブルグイユのセバスチャン・ダヴィッド、アルザスのクリスチャン・ビネールなどが率いる生産者グループ、「ヴァン・ナチュール防衛協会」の長年の政府へのロビー活動が実った結果です。

この認証は世界初の、政府など公的機関によるナチュラル・ワイン認証です。今までの基準を「公的なものじゃないでしょう。生産者が勝手に言ってるだけでしょう」と無視を決め込んだ人々(大手ネゴシアンなどにいました)も、 もう無視できないカテゴリーとなったわけです。

その基準が下記のもの。

  • 亜硫酸総添加量、赤白とも30mg/L以下。発酵前、発酵中の添加不可。
  • オーガニック栽培認証ブドウのみ使用可。
  • 収穫は全て手摘み
  • 野生酵母のみの醸造
  • 濾過、補糖、補酸、補タンニン、逆浸透膜、スピニング・コーンほか醸造段階でのほとんどの人的介入の禁止(例:低温浸漬などは可)

なかなか厳しいですね。

これを見て「あ、ちょっとやばいぞ、困ったな」と思ったあなたは、なかなかのナチュラル・ワイン通です。
論議を呼びそうなのは、二行目の”オーガニック認証が必須”、という点。
ご存知の通り、先祖代々オーガニック栽培を続けている生産者なのに、認証自体に全く興味がなく、申請すらしていない生産者は数多くいます。

ナチュラル・ワインの最高峰とも言われる神話的生産者、ジェラール・シュレール(アルザス)、フィリップ・ジャンボン(ブルゴーニュ)、ヤン・ドリュー(ブルゴーニュ)など。トップ中のトップ生産者なのに オーガニック認証を申請していない生産者は無数。つまり自動的に、INAOのナチュラル方式ワインには認定されないわけです。

新たなカオスの発生です。
こうなると筆者としては、”ピュア・ワイン(純粋ワイン)”とか、”実質自然派ワイン”、とか”準・自然派ワイン”等々、新カテゴリー? が必要か・・・・とさえ思われますが、もうしばらく、INAOがどの程度の厳密さでこの呼称を適応、監督していくか見守りたいところです。

ちなみに日本の農水省はJASの有機認証のない野菜が、有機野菜を謳うことにしっかり目を光らせています。例えば然るべき出版社で、レストラン記事に有機野菜での料理と書くには、JAS有機認証の確認が必要です。(私も、新入社員の頃それを怠り、よく上司に叱られました)。

フランス政府がもし日本並みにその基準を適用した場合、シュレールなど多くのナチュラル・ワインを、ナチュラル・ワインとして売ることも書くことも違法、になる可能性さえ想定が必要かもです。
そこで”ナチュラル・ワインとナチュラル方式ワインは違うんだ!”と主張しても、さすがにあまりに子供の逆ギレじみてますね。

アルザス、自然派の巨匠、クリスチャン・ビネールも新認証設立に尽力した。

 

4.区分のための”魔法の”質問。

それにしても。今でも本当に多いですよね。ワインショップで「ナチュラル・ワインをください」と言っているのに「 はいはいこれですよ~。このマークのワインです」と言って、緑の旗の単なるEUオーガニック・ワイン(亜硫酸どっさり、の場合が多い) のワイン(味の素たっぷりのラーメン?)を勧められるケース。

つい先日も、有名大手デパートで、「100種のナチュラル・ワインをそろえたコーナーがあります」と聞いて、行くとどう見ても単なるオーガニック・ワインが多数、“ナチュラル・ワイン”という大きな看板の真下に並んでいました。(オージー・ビーフを松阪牛と称して売ると、犯罪ですよ)。
売るほうも オーガニック(=ビオ)・ワインとナチュラル・ワインの区別がついてないケースが多いわけです。

そんな中、たった一言でそのショップが信用できるかどうか、判別する魔法の質問があります。それは、
「ナチュラル・ワインとオーガニック・ワインってどう違うんですか?」

然るべきデパートや大型店のソムリエさんでも、しどろもどろ、全く逆の答えというケースが残念ながら多いです。
「ナチュラル・ワインはオーガニック・ワインより、さらに添加物の基準が厳しいんです」という答えがポンと帰ってきたら、100点。
その人が勧めるワインを、色々買って間違いないはずです。

ともあれ。いよいよこの秋から、日本にも下の写真のように、INAO太鼓判”ナチュラル方式ワイン”が届き始めました。
店頭で見かけられたら、最も頼りになるであろうナチュラル・ワイン認証として、ぜひ温かい目で見てあげてください。

 

寺下 光彦 Mitsuhiko Terashita

アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校、自然派ワイン、および40年以上熟成イタリア・ワイン、各クラス講師。「ヴィノテーク(休刊)」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記事を寄稿。イタリア、フランスなどのほか、ジョージア、ギリシャ、オーストリア、中国などワイン産地に計50回以上渡航取材。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査員の経歴も。

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