ワインバーのオーナーにして、世界の歴史や文化の視点からワインをわかりやすく語る達人。ワイン以外の酒類にも幅広い知識と愛情を持つ筆者が、ひもとくワインと書物の世界。お気に入りのワインと共に楽しみたい。今回は、フランスで認められたナチュラルワインの造り手の物語と、イタリアワインのベストガイドです。
文/遠藤 利三郎
【目次】
1.「大岡弘武のワインづくり」を読む。
2.「イタリアワイン生産者ガイド100」を読む。
1.「大岡弘武のワインづくり」を読む。
良書だ。自然派ワインの世界では知らない人はいないだろう大岡弘武さんの著作。
コルナスでのワイン造りから一転、帰国したと言う知らせにも驚いたが、岡山でワイナリーを立ち上げたというニュースにもとても驚いた。一体何があったのか、日本でワイン造りをするにしてもなぜ岡山なのか。その疑問の答えが全てこの本に記されている。
それにしても、読むにつれ醸し出されてくる大岡氏の自然派ワインへのこだわりが凄い。自分のことを自然派原理主義者と言って憚らない。が、その思想はとてものびやかで穏やかだ。近代的なワインと自然派を対立させるようなこともない。筆致は物腰柔らかく分かりやすく、そして考えさせられることが多い。あ、彼の造るワインみたいだ(なんとなくムーミンに登場するスナフキンを連想した)。
かと思うと、最近流行りの「うすうま」系を「つくり手としては、つまらないワイン」、「一言でいえば薄い」とバッサリ切る。切り捨てるだけでなく、その理由と自分の造りたいワインのタイプの違いを明確に説明している。
また岡山のワイナリーを建設する様子も事細かくに書かれているのも読んでいて面白い。ネットのオークションサイトを利用するなどして、建設費用がなんと600万円だと!
(以前、はすみふぁーむ&ワイナリーの蓮見さんが自著『ゼロから始めるワイナリー起業』で醸造場を500万円で建てたと書いていた。中古の醸造機器を根気よく探せば、そのくらいの予算で収まるのだ)
この本、自然派のブドウ栽培とワイン造りが、造り手の視点で詳細に(その都度の判断理由も含めて。これが読んでいて実に腹に落ちる)描かれている。自然派ワインの好きな方もそうでない方にも、ワイン好きの方にぜひ読んでいただきたい一冊。きっと自然派に対する見方が変わること請け合いだ。(大岡弘武著/エクスナレッジ)