世界中のトップワイン生産者に、ZOOMを用いたオンラインインタヴューを敢行するこのシリーズ。栄えある第1回は、カリフォルニア州ソノマ・コースト地区から、リトライ・ワインズのテッド・レモン氏をお迎えする。カリフォルニアでブルゴーニュ品種を造る数ある生産者の中で、名実ともにトップ3には入ろうかという超大物だ。筆者にとっても、「神」と仰ぎ見る造り手のひとり。テンションはブチ上がりである。
文・写真/立花 峰夫
【目次】
1. テッド・レモン Ted Lemon とはいかなる人か?
2. テッドとの問答
3. テッドのワインを飲んでみよう!
4. さいごに
1. テッド・レモン Ted Lemon とはいかなる人か?
カリフォルニアきっての「ブルゴーニュ人」がテッド・レモンだ。1984年、24歳の若さでムルソー村御三家のひとつ、ドメーヌ・ギ・ルーロの栽培醸造長に就任し、2ヴィンテージを仕切ったという伝説の持ち主。これはアメリカ人が、ブルゴーニュのドメーヌの責任者になった初めての例である。ルーロの長になる前に師事したヴィニュロンも、ジャック・セイス、オベール・ド・ヴィレーヌなどなど、当地の偉人名鑑だから恐れ入る。
カリフォルニアでは、カレラのジョシュ・ジェンセンのもとで短期間働いたほか、ナパでかつて名を馳せたシャトー・ウォルトナーの初代醸造責任者を努め、フリーの醸造コンサルタントとしても働いた。しかし、ブルゴーニュ品種への思いを断ち切れずにソノマに移った93年、わずか300ケースの生産量でリトライ・ワインズを設立。それから30年近くたった今も、年間生産量はわずか5000~7000ケースに過ぎない小さなワイナリーだが、その品質はピノ・ノワール、シャルドネともに驚嘆の一言に尽きる。
とりわけ、2010年代前半から彼の地で盛り上がった「ニュー・カリフォルニア・ワイン」のブームの立役者・中心人物のひとりとして、テッドの名声はうなぎ登りになった。以下写真は、当時サンフランシスコ在住だった有力ジャーナリストのジョン・ボネが2013年に上梓した、『 New California Wine 』の表紙である。畑にかがむテッドのカッコいいこと。鋤がこれほど似合う男はいない。
リトライでは、ピノ・ノワールとシャルドネに特化して、カリフォルニア州ソノマ郡のソノマ・コースト地区、およびメンドシーノ郡アンダーソン・ヴァレーに位置する冷涼な単一畑からブドウを購入して、畑名をラベルに冠したワインの数々を生産している。自社畑もソノマとメンドシーノにひとつずつあり、そこではルドルフ・シュタイナーもびっくりの完全なビオディナミ栽培を実施する(同農法の公式認証団体であるデメテールが、「充分に厳格ではない」という理由で、あえて認証を取らないほどだ)。ワイナリーは、ソノマ・コースト地区にあり、醸造棟に隣接する自社畑がザ・ピヴォットである。