ラングドック ~眠れる巨象か新世界か?フランス最大のワイン産地を徹底解説

ラングドックは、AOPワインよりも、IGPペイ・ドックの生産量の方が多い産地。AOPの方が高い等級ですから、どうしても軽く見られがちです。今では半分ほどの規模に縮小しましたが、1970年頃には、45万ヘクタールもの畑があったと言われています。

でも、地中海気候に恵まれた、果実味豊かなワインを生み出す、フランス最大の産地という言い方もできます。さらには、安旨ワインだけでなく、チャレンジ精神旺盛な生産者が、オーガニックや古木を活かした凝縮感あふれるワイン造りをしている産地でもあります。今回は、この広大なワイン産地を、ポイントを絞って見ていきましょう。

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【目次】
1. 大きいことは良いことか? ~フランス最大のワイン産地ラングドック
2. ワインの湖 ~ラングドックワインの歴史
3. 地中海気候とオーガニック天国 ~ラングドックの特徴
4. ラングドックの注目アペラシオンとIGPペイ・ドック
5. 保守的風土とラングドックワイン改革の波
6. 伝説の泡の発祥の地と酒精強化ワイン
7. ラングドックのまとめ


1. 大きいことは良いことか? ~フランス最大のワイン産地ラングドック

ラングドック・ルーション地図

ラングドックとルーションは、1982年に政治経済合理化の観点から統合。広義のラングドックは、23万ヘクタールほどの広大な畑を有しています。

ワイン産地としては、フランス随一の大規模な産地だと言うのに、今ひとつ日本の消費者には、なじみがありませんね。どれだけすごいかと言うと、ラングドックだけでチリやオーストラリアなどのワイン生産国、丸ごと1国分よりも広い栽培面積を有しているということになるのです。うち狭義のラングドック地方は、生産の9割。ルーション地方は1割です。

歴史的に高収量のバルクの赤ワイン産地でしたが、近年では、AOPワインも増えてきました。AOPラングドックは輸出も順調に増えて、米国が第一の輸出先。サブ・アペラシオン等も含めて40弱のAOPがあります。

約8千ヘクタールの広域ラングドックAOPの他、ミネルヴォア、コルビエール等のアペラシオンが広がり、AOP全体では4万ヘクタールの面積を有します。一方、IGPペイ・ドックは、IGPではフランス最大。12万ヘクタールを栽培面積に有します。

2. ワインの湖 ~ラングドックワインの歴史

紀元前5世紀頃までには、ギリシャからブドウ栽培が流入。ローマは、紀元前2世紀には進出して、ブドウ栽培を広げました。プロヴァンスと並んで、フランスでも最古の産地の一つです。

17世紀にミディ運河が建設されると、地中海と大西洋が繋がり、ワイン造りが伸びていきます。そして、モンペリエとパリの間に1845年に列車が通るようになると、軽めの赤ワイン供給基地として活躍。生産量が大幅に増えました。

その後、補助金などのおかげもあって過剰生産に陥り、21世紀初頭にはワインの湖と揶揄されるようになりました。そのため政府の援助を受けて、抜根と過剰在庫ワインの蒸留プロジェクトが進められました。蒸留したアルコールは、工業用、医薬用、燃料用として活用されます。

当時は品質が悪くて売れなかったという理由が大きかったのですが、直近2023年にも緊急避難的な蒸留プロジェクトが話題となりました。

需要が落ち販売低迷で、過剰生産となったようです。航空機などの貿易紛争に端を発した、米国の報復的な関税とコロナ禍が追い打ちをかけた影響です。

3. 地中海気候とオーガニック天国 ~ラングドックの特徴

地中海気候

この産地は大きく言えば、天候に恵まれた地中海性気候。年間平均気温は、15℃で、年300日を超える日照があります。雨は、春、秋に纏まって降って、ブドウの生育シーズンに豊富な日照が降り注ぎ、乾燥した天候が続きます。

とは言うものの、広い産地。北部は、大陸性の気候の影響を受けますし、西部は、大陸性気候の影響と大西洋の影響を受けます。この産地で有名な風に、北西から来る、乾燥して冷涼なトラモンタンがあります。頻繁に吹くこの風のお蔭で病害の脅威は和らいでいます。そして、アフリカから来る、暑く乾燥した南風で、秋や春に時に強く吹くシロッコも有名です。

気候に恵まれたこのラングドックも、気候変動の影響を受けています。2019年はとくに暑い年で、40℃を超える気温で熱波に襲われて、収穫の半分を失う生産者も出たほどです。対策には、被覆植物の導入や灌漑などさまざまな工夫をしています。

オーガニック栽培が盛んな産地ですが、病害に使える薬剤が限られると言う苦労もあります。うどん粉病に使う、硫黄は、熱波の際には、葉焼けを招くことがあり、農作業にも一つ一つ注意が必要です。

温暖化に耐えるブドウ品種の採用も行われています。もともと暖かい気候ですから、サンジョヴェーゼ等のイタリア品種やギリシャなどのさらに温暖な産地の品種に目を付けています。

オーガニック天国

ラングドックは、フランス最大のオーガニック天国。ラングドックとルーションを含めた広義のラングドックで、フランス全体の3分の1、世界の10分の1のオーガニック栽培を担っています。

消費者の人気も高まって、アメリカやイギリスでは、コロナ禍を挟んで、年率7パーセント程度の消費の伸びを見せています。オーガニックワインは、栽培の点だけでなく、醸造、熟成の工程でも人的な介入や添加剤が少ない場合が多いこともあり、国内生産、国内消費が主流。フランスでは99パーセントが国内産です。

オーガニックの一歩手前とも言っても良い認証が、HVE、環境価値重視認証です。フランス農業・食糧省による、農業環境の認証。樹木の保護など、生物多様性に重きが置かれています。殺菌や殺虫剤の散布はむやみやたらにはできません。

この認証取得では、ボルドーがある、ジロンド県が最多。2030年には、100パーセントのサステイナブル栽培を目指しています。これに次ぐ、シャンパーニュ、アルザスの後が、ラングドック。

こうしたオーガニックやサステイナブル栽培。気候の良いラングドックだからと言って、楽勝という訳ではありません。ラングドックでも高額なワインを造る生産者の一つ、AOPラ・クラップの、シャトー・ラ・ネグリ。HVE認証を取得していますが、ラングドックの中でも、地中海への近さでは一二を争う沿岸アペラシオンです。海の影響が強く、湿度も上がり、オーガニック栽培へ完全移行するには難しさもあります。

ラングドックの主なブドウ品種

ラングドックのワインは、概して、ミディアムからフルボディで、果実味豊富な新世界のワインを思わせるような豊満なものが多く見られます。

黒ブドウ品種では、グルナッシュ、シラー、ムールヴェ―ドル、カリニャン、サンソ―、ルドネール・ペリュなどが挙げられます。

ラングドック側では、シラーが最大品種で、続いてグルナッシュ、メルロ、カリニャン。ルーション側では、グルナッシュ、シラー、カリニャン、ミュスカと続きます。

いずれも、黒ブドウ品種が優勢ですが、東のラングドック側は、ローヌ品種の影響が強いことと、IGPペイ・ドックで使われるメルロなどの国際品種の栽培面積が大きいことが特徴です。ルーション側の風の強さや痩せた土壌は、シラー栽培には厳しい環境だという生産者もいます。

さらに、西部は、南西地方やボルドーとの距離的な近さから、カベルネ・ソーヴィニョンなどのボルドー品種を旗印にするアペラシオンもあります。

この産地の伝統品種、カリニャンやサンソ―の栽培面積は減少しています。カリニャンは、タンニンも酸も高い品種で、近年、古木のワインは見直されています。一方で、収量の高いものは、収斂性を和らげて飲みやすいフルーティなワインにするために、マセラシオン・カルボニックを使ったワイン造りが、まだ行われています。

カリニャンは、スペイン北東部が起源でスペインでは、マズエラ(マスエロ)と呼ばれています。植民地でワインの大供給拠点で有った、アルジェリアの独立を補う形で、フランスで栽培が拡大して、1968年には、21万ヘクタールの栽培面積に拡大。しかし、今日では、フランス全国で3万ヘクタールほどへと減少しています。

AOPワインでは、ブドウ品種はブレンドされます。いわゆるGSMと呼ばれるグルナッシュ、シラー、ムールヴェ―ドルを中心としたブレンドの赤ワイン。最低でも、2品種のブレンドが必要となり、1品種の構成比率にはアペラシオンによって規制が掛かります。白ワインでもほとんどが、ブレンドです。

ですから単一品種のヴァラエタルワインを造りたい場合やアペラシオンの規則上認められていないブドウ品種を使用したい場合は、IGPに等級を落とさなければなりません。

白ブドウ品種では、グルナッシュ・グラン、ブールブラン、ピックプール、クレレット、ミュスカ・ブラン・ア・プティ・ブラン、マカブー(マカベオ)が代表品種として挙げられます。加えて、マルサンヌ、ルーサンヌと言ったローヌ品種、そして、海を越えたコルス島の、イタリアではヴェルメンティーノの名称で呼ばれるロールの栽培が増えて、彩りを添えています。

古木の宝庫

ラングドックは、古木の宝庫でもあります。カリニャン、グルナッシュ、ムールヴェ―ドル、シラーなどの古木が株仕立てで栽培されています。

例えばAOPフォジェールでは、ブリジット・シュヴァリエのドメーヌ・ド・セベンヌが、樹齢70年の古木のオーガニック栽培をしています。この生産者は、イギリスをベースとした、オールド・ヴァイン・カンファレンス(古木会議)の、スポンサーもしています。

古木会議は、複数のマスター・オブ・ワインが発起人になっていて、世界的な古木栽培の意見交換や啓蒙を通して古木保護の活動をしています。

古木は、AOPフォジェールに限らず、中央部の、AOPサン・シニアンでも、100年を超えるカリニャンが栽培されています。

ラングドックは、乾燥した痩せた土壌が多く、植栽密度も低め。古木も多くあることから、栽培面積の広さとは対照的に、収量は、意外にも低いのです。

4. ラングドックの注目アペラシオンとIGPペイ・ドック

片岩土壌のアペラシオン

AOPフォジェールは、ナルボンヌの北東。地中海から車で40分ほど。土壌が、100%片岩で有る、痩せた土壌の厳しい環境で有名です。水はけが良い事で知られていて、一方で、この母岩の特徴でもある、板状の亀裂が走ります。このため、ブドウ樹が深く根を張り、保湿された水分を夏場に得る事ができるとされています。同様の土壌では、ポルトガルのドウロがありますが、養分である窒素が不足がちだと言われます。

収量は、ヘクタール当たり、30ヘクトリットルを割り込む厳しさ。この地方特有の風景の、ガリーグやマキと呼ばれる、低木地のローズマリーや、タイム、フレンチ・ラベンダーが彩を添えています。標高は、200から400メートルほど。中央山塊からの風から守られた、地中海性気候で、シラーやグルナッシュ、ムールヴェ―ドルの、GSM品種が中心。白は、ヴィオニエやクレレットも栽培されています。この産地では、オード・ヴィーでは知られているフィーヌ・フォジェールも産出しています。

希少な白ワインのアペラシオン

AOPピックプール・ド・ピネは、白ブドウのピックプール・ブランを使った白ワインを産出します。日本では、余り知られていないブドウですが、シャトーヌフ・デュ・パプの使用可能13品種に含まれています。唇をヒリヒリさせるという名前が示す通り、文字通り高い酸に恵まれています。

生産量の過半が輸出で、特にイギリスで人気の高い白ワイン。成功の陰には、早飲みできて、コスパが良いのと、品質改善に生産者が努力をしたことがあります。低温発酵や、スキンコンタクト等の導入を行いました。独立したアペラシオンとなったのは、2017年と意外と最近。そのお蔭も有ってか90年代初頭から、2018年迄で、生産量は5倍に伸びています。協同組合による生産が大半を占める中で、独立系ではフェリーヌ・ジュルダンが大手。

フランス国外の生産では、カリフォルニアのパソ・ロブレスのタブラス・クリーク。シャトーヌフ・デュ・パプのシャトー・ド・ボーカステルとパートナーです。暖かくても酸に切れ味が有ると、この品種を取り入れています。

AOPクレレット・デュ・ラングドックは、モンペリエ西部のアペラシオン。白ブドウのクレレットから、辛口、酒精強化、最低3年間熟成されるランシオと異なるスタイルが造られています。早飲みスタイルが中心です。

最初のアペラシオン

AOPフィトゥーは、南西部で、ラングドックで最も古い1948年に認定された赤ワインのアペラシオン。地中海側と内陸側の産地に分かれています。

伝統的な、カリニャンとグルナッシュを使ったワインは、半分弱が海外に向けて出荷されています。

この産地では、かつてグルナッシュの栽培が規制され、代わりに、ルドネール・プリュというグルナッシュの変異種が推奨された経緯があります。グルナッシュよりさらに晩熟で病気にも弱いと評判が今一つで、結局はグルナッシュに戻されました。グルナッシュから造られる、フィトゥーで生産可能だった酒精強化ワインのリヴザルト。この過剰生産を抑えようとしたことが、グルナッシュ栽培規制の、そもそもの趣旨だった様です。

最新のアペラシオン

AOPグレ・ド・モンペリエは、2023年11月に独立したアペラシオンが認定された最新の赤ワインのAOPです。シラー、グルナッシュ、ムールヴェ―ドルが主要品種。2024年のヴィンテージから、このアペラシオン名でワインが造られます。記念すべき、ヴィンテージのワインを1本買っておくのも良いかもです。

ボルドー品種のアペラシオン

AOPマルペールは、リムーに隣接する南西部の産地。ラングドックにありながら、南西地方そしてボルドーへと地続き。

メルロが主要品種で、グルナッシュやシラーと言ったローヌ品種に交じって、コット(マルベック)、カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フランも補助品種として使われています。

お隣のアペラシオン、AOPカバルデスでも、主要品種はカベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニョンにグルナッシュ、メルロ、シラーと仲良くボルドー品種とローヌ品種が並んでいます。

その他主要アペラシオン

AOPピク・サン・ルーと、AOPテラス・デュ・ラルザックは、北東部に広がり、プロヴァンス地方やローヌ地方に近い産地です。中央山塊の南部山麓に近いので、大陸性の影響を受けます。

ピク・サン・ルーは、ラングドックでも涼しい産地。最低5割、シラーをブレンドする必要があり、この品種が重要視されているのが分かります。

テラス・デュ・ラルザックは、比較的新しい赤ワインのアペラシオン。7割以上が、オーガニック栽培の手法を取り入れています。標高が高く、日較差も大きくなります。

AOPサン・シニアンはラングドックの内陸中央部にあります。北部は片岩、南部は石灰岩粘土質と土壌が分かれています。この産地のワインは、14世紀に病気に効用があると、パリの病院で処方されていたと言われます。

AOPコルビエールは、1万ヘクタールを超える、ラングドック最大のアペラシオン。この北に位置しているのが、AOPミネルヴォワ。地中海側のナルボンヌから内陸部のカルカッソンヌに広がる、大量生産ワインの産地でもあります。

コルビエールは、乾燥していて骨格がしっかりしたワイン。ミネルヴォアは、果実味を感じて、洗練された印象が出るとも言われています。

IGP ペイ・ドック

ブレンドが主体で、似たような品種構成。違いがわかり難いAOPワインを敬遠するあなた! IGPペイ・ドックはブレンドに加えて、単一ブドウ品種のヴァラエタルワインを探すのが楽です。お値段も、1,000円台から十分に楽しめるワインが勢ぞろい。伝統品種に拘らず、国際品種から幅広くワインが造られます。畑は、広義のラングドック全体の半分となる、12万ヘクタールを占めています。

フランス第一位の生産量を誇るIGPだけあって、売れ筋を抑えた品種構成です。

赤ワインは、第一位のメルロと第二位のカベルネ・ソーヴィニョンを併せると7割程度の生産量。白ワインも同様に第一位のシャルドネと第二位のソーヴィニョン・ブラン合計で、7割程度。ロゼは、グルナッシュ、サンソー、シラーで7割程度です。赤ワインが多くはありますが、それでも、半分弱。ロゼと白ワインが夫々3割程度と、バランスが取れた構成です。

安旨ワインだけではありません。AOPの規則は、融通が利かないので、イタリアのスーパー・タスカンの様に、素晴らしいワインを、IGPの等級でリリースする有名生産者も。

ドマ・ガサックのエメ・ギベール。そして、ローヌのジャン・ルイ・シャーヴ、ブルゴーニュのコシュ・デュリの元、研鑽を積んだ、ローラン・ヴェイエのグランジュ・デ・ペール。カベルネ・ソーヴィニョンをブレンドに加えたキュヴェをIGPでリリース。カルト的な人気を博しました。

5. 保守的風土とラングドックワイン改革の波

21世紀初頭に、カリフォルニアのロバート・モンダヴィがこの地に進出を図るも、あきらめざるを得なくなった逸話は有名です。協同組合を守ろうという意図が働いた様です。モンダヴィの進出が拒絶された事で、海外からの投資による大型プロジェクトが進展しなくなったとも言われています。

2004年のジョナサン・ノシター監督の『モンドヴィーノ』。エメ・ギベールは「ワインは死んだ」と言います。時流に乗っていた、ワイン・コンサルタントの、ミシェル・ロランや、モンダヴィとの緊張感を感じるドキュメンタリー映画でした。

今でも、まだ生産の過半は、協同組合が占めています。大手の協同組合と栽培農家の二層構造が、品質向上が伸び悩む理由の一つとも言われます。

AOPフォジェールでは、オーガニック栽培含めて、環境重視の栽培は早い段階から始まっていました。一方、御多分に漏れず、こちらの産地でも、協同組合のレ・クリュ・フォジェールが生産量の半分以上を占めています。オーガニックや亜硫酸無添加のワインもリリースしています。でも、この産地全体のオーガニック栽培を進めるためには、協同組合にブドウを納入する栽培農家がさらに、積極的になる必要が有るようです。

もちろん、協同組合が、みな保守的などということはありません。例えば、AOPコルビエールの、カステルモール協同組合は創業1921年で、早くから量より質を重視してきました。全量、手摘み。HEV認証も有していて、3割近くは、オーガニック栽培に転換中。グルナッシュや、カリニャンの古木を高級ラインに投入しています。

時代の寵児・文武両道のスーパースター

ジェラール・ベルトランは、現在は17のワイナリーを擁しています。AOPコルビエール、AOPミネルヴォア、AOPラ・クラープなどの数々のアペラシオンで評価の高いワインを生産しています。元著名なラグビー選手。

彼がAOPラングドック・カブリエールで造る、高級ロゼ「クロ・デュ・タンプル」は、世界を目指した一本です。この産地の華やかな歴史は、14世紀に遡り、フランス国王の公式な晩餐会にも当地のワインが供されました。

最近の南仏のロゼと言えば、プロヴァンスのシャトー・デスクランが良く知られています。有名なウイスパーエンジェルや上位クラスの、ガリュス。ベルトランのクロ・デュ・タンプルは、さらに高価格帯。2万円超えのロゼです。

ベルトランは、2000年代初頭に、ルドルフ・シュタイナーの本を読んで啓示を受けたという、筋金入りのビオディナミ生産者。ロワールのニコラ・ジョリーか、ラングドックのジェラール・ベルトランかという感じです。

ただ、彼の場合は、ビオディナミ原理主義というよりも、スマートなチームワークを重んじる、経営者という印象。元ラグビー選手だけあって、チームワークの築き方は抜群。外部調達するブドウも多いのですが、良い関係を長期的に構築。自社の求めるオーガニックワイン造りに沿った、ブドウ栽培方法を実現させています。

急逝した父親の後を継いだ時には、従業員数名の会社でした。それが、今では、年商2900億円のグローバル企業に。ハーバードビジネスレビューにも取り上げられています。

6. 伝説の泡と酒精強化ワイン

伝説の泡の発祥の地「リムー」

リムーは、AOPマルペールの南に隣接するラングドック西部。ピレネー山麓に所在します。シャンパーニュよりも古くから瓶内二次発酵のスパークリングを開発していたと自負しています。ブランケット・リムーの歴史は、サンティレール修道院のベネディクト派の記録では1531年に遡るとされています。

クレマン・ド・リムーは、伝統製法のスパークリングワインのAOP。オード県の県庁所在地で、中世の城塞都市カルカッソンヌの南に立地しています。地中海と大西洋、ピレネーの気候の影響を受けます。シャルドネとシュナン・ブランが主要品種。ピノ・ノワールとモーザックは補助品種です。

ブランケット・ド・リムーも伝統製法のスパークリングですが、モーザックが主要品種。シャルドネ、シュナン・ブランは補助品種で、10パーセントを超えて使う事はできません。

ブランケット・メトード・アンセストラルは、田舎製法。伝統製法とは異なり二次発酵は、行わず、アルコール発酵が5~6パーセントに達したら、瓶詰。続きの発酵は、瓶内です。二酸化炭素が発生してスパークリングワインになるという寸法。7パーセント程度の低アルコールの残糖のある優しい味わいです。

ラングドックの酒精強化ワイン

ラングドックで、お値段が高いワインの番付には、酒精強化ワインがランクインしてきます。

AOPバニュルスは、地中海沿岸。スペインと国境を接します。スタイルの良く似た、AOPモーリーは、バニュルスの北西部の内陸に所在します。

早めに瓶詰をして還元的な熟成をするグルナッシュ主体のリマージュ。瓶熟成を含めた短期間の熟成に留めて、果実感を残します。モーリーでは、グルナと呼びます。

酸化的な熟成をした、トラディショネル。モーリーではトゥイルと呼びます。

グルナッシュ・ブランなどの白ブドウのブレンドを使った、バニュルス・ブラン。酸化熟成をしたアンブレ。白ブドウにグルナッシュを加えた、ロゼのスタイルもあります。

ブドウは過熟させて、水分が蒸発して萎びるまで収穫を待ちます。

発酵は、5~10パーセントの所で、アルコール度数96パーセントのスピリッツで停止されて、残糖を残したワインとなります。このプロセスをミュタージュと呼びます。バニュルスとモーリーでは、このミュタージュは、醸しの間に行われ、10~20日の醸しを行なう事で、タンニンやアントシアニンの抽出が促されます。

アルコール度数は、18パーセント前後。残糖は1リットル当たり100グラム程度の甘いワインは、食後酒として最適です。

熟成期間は、1年から、特別なヴィンテージに造られる、バニュルス・グラン・クリュでは30か月も。樽熟成でワインのめつぎをして、極力、酸化を抑制する造り手ももいますが、伝統的には、めつぎをしない酸化熟成。デミジョンと呼ばれるガラスでできた20リットルほどの容器で直射日光の下、意図的に酸化熟成させます。

デミジョン

色合いも、琥珀色や茶褐色に変わり、火の入った果実や、プルーンの風味が出てきます。さらに、長期間の酸化熟成と高温で、チーズやナッツの香りを発するスタイルにはランシオという表記も可能です。3年を超えて、15年、20年もの長期熟成をするものは、オール・ダージュと呼ばれます。

この他にも、ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランとミュスカ・ダレクサンドリアを使ったアロマティックなミュスカ・ド・リヴザルトなどの酒精強化ワインが生産されています。

7. ラングドックのまとめ

今回は、フランス最大産地のラングドックを駆け足で巡ってみました。あまりにも広く、捉えどころが難しい産地ですが、概要は頭に入りましたでしょうか?シャンパーニュ、ブルゴーニュやボルドー好きの高級ワイン志向のみなさん!庶民的なペイ・ドックにお気に入りを見つけてみませんか。イタリアワインにも劣らない、安旨ワインを発掘、あるいはスーパー・タスカンならぬ、スーパー・ラングドックが眠っている宝の山かも知れません。

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