南北40キロの南東向きの斜面に、宝石のような珠玉の畑が並ぶコート・ドール。屈指のテロワールから類い稀なる銘酒が生み出される、今も昔も人々を魅了して止まない特別な産地です。この地を20年以上欠かすことなく訪れている奥山久美子が、コート・ドールを取り巻く昨今の社会情勢や注目の造り手の姿に焦点を当てながら、黄金の丘の魅力に迫ります。最終回は、ドメーヌのマダムとして地域やワイン造りに一生を捧げる、日本人女性のストーリーを紹介。
文・写真/奥山久美子
【目次】
1.コート・ドールの2つの都市 ディジョンとボーヌ
2.ビーズ千砂〔ドメーヌ・シモン・ビーズ〕〜コート・ドールのドメーヌ当主に嫁いだドラマティックな人生
3.フルーロ久美子〔ドメーヌ・フルーロ・ラローズ/シャトー・デュ・パスタン〕〜ドメーヌを支える理想的な良妻賢母
1.コート・ドールの2つの都市 ディジョンとボーヌ
ブルゴーニュのドメーヌに嫁ぎ、コート・ドールに移り住んでフランスのしきたりの中で奮闘する女性の造り手がいます。今回は私が特に親しくさせていただいている2名をご紹介。その前に、彼女たちが根を下ろしたこの土地の情景についてお話しましょう。
コート・ドールの美しい村々には、卓越したワインを生むブドウ畑が整然と広がっています。中世からの歴史があり銘醸ワインが生まれる1,247のクリマ(ブドウ栽培区画)は、ボーヌとディジョンの旧市街とともに2015年にユネスコの世界遺産に登録されました。
北に位置するディジョンはかつて栄華を誇ったブルゴーニュ公国時代(シャルルマーニュ大帝の没後843年~1482年)の行政の中心都市です。今ではあまり栽培されていませんが昔はカラシナの産地で、この種の外皮を取り除いて作ったのがおなじみのディジョンマスタードです。
ワインの集積地として発展したボーヌは、ブルゴーニュワインの首都と呼ばれ、今や大観光地。城壁に囲まれた1km四方の小さい街とその周辺には、老舗のネゴシアンが点在し、瀟洒なホテルが数軒と絶品のブルゴーニュ料理を供するレストランやビストロ、ワインショップやブティックが通りに軒を連ねます。特に、オスピス・ド・ボーヌの前に位置するカルノ広場周辺には目を惹くお店が集まり、ディズニーランドさながら常にきれいに清掃されています。また、毎週土曜日の朝早くから正午まで、カルノ広場の室内市場と屋外市場を中心に開かれる朝市では、ブルゴーニュの豊富な食材の揃い踏みが見てとれます。ブレス鶏、シャロレ牛AOC(原産地呼称)などの食肉や、トリュフにチーズ等、フランス随一の食べ物とワインが集まっているグルメ垂涎の地域です。