ケルナーとは? ~再興なるか、北国の白ブドウ品種「ケルナー」について徹底解説

みなさん、ケルナーのワインを飲んだことがありますでしょうか?かなりの中上級者でなければ、この品種の生まれ故郷、ドイツのケルナーを飲まれることは稀ではないかと想像します。日本では安定した知名度が出てきたこの品種。一方、ドイツでは、減少の一途をたどってはいるものの、まだまだ世界最大の栽培面積を有しています。海外市場で流通する高級品では、イタリアのアルト・アディジェが注目です。今回は、このケルナーに光を当ててみましょう。

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【目次】
1. 詩人の名を受け継ぐロマンティックな品種「ケルナー」
2. 交配品種ケルナーの強みと弱み
3. ケルナーの主要産地:ドイツ、イタリア、そして日本
4. ケルナーのまとめ


1. 詩人の名を受け継ぐロマンティックな品種「ケルナー」

トロリンガー × リースリング

トロリンガー/リースリング

北海道ワインやドイツワインのファンや、ブラインドテイスティング好きの愛好家。それに、業界従事者を除けば、知る人ぞ知る品種。と言うと、言い過ぎかもしれませんが、今では、微妙な知名度のブドウ品種です。友人同士で楽しむ持ち寄りワイン会では、余り登場しないのではないでしょうか。でも、昔は結構人気があったのです。

ドイツでは、1970年代に人気が出始めて、90年代初頭のピーク時には8,000ヘクタールに届くかと思われました。ところが、2022年までには、2,000ヘクタールほどに低下。シルヴァーナーや、ワイスブルグンダー(ピノ・ブラン)にも後塵を拝するようになってしまいました。

全世界で見て、同じくらいの栽培面積の品種はというと、黒ブドウのグラシアーノ辺り。スペインのリオハなどで、テンプラニーリョのサポート役としてブレンドに使われています。単一品種のワイン用ブドウとしては、ちょっと、寂しい栽培面積のレンジです。

このブドウを生み出したのは、アウグスト・ヘロルドという人物。黒ブドウのトロリンガーと白ブドウのリースリングを掛け合わせ、このアロマティックな品種を誕生させました。

ヘロルドは、ドイツ・ヴュルテンベルクの、ヴァインスベルクのブドウ研究機関の責任者でした。ヴュルテンベルクは、バーデンに隣接して、フランケンの南部に立地。バーデンと共に、ドイツ最南部のワイン産地で、赤ワインが有名。トロリンガーやレンベルガーが広い栽培面積を占めています。

トロリンガーは、イタリアのアルト・アディジェが起源と目されていて、別名スキアヴァ・グロッサ。スキアヴァ品種のグループの一つで、中でも、最も栽培されている品種です。この品種名よりも、ドイツ名のトロリンガーの方が知られています。ミュラー・トゥルガウの祖先でもあります。主として、ヴュルテンベルクで、フルーティな、淡い色の赤ワインとして造られるのが典型的。

ドイツ人の手による育種交配品種としては、最も繁殖した品種とも言われます。

交配品種という意味では、ミュラー・トゥルガウの方が、ドイツでの栽培面積は広いのですが、こちらは、1882年にスイス人の植物学者ヘルマン・ミュラー氏がドイツのガイゼンハイム大学で勤務していた折に開発したもの。スイスの州である、トゥルガウを名前に冠しています。

他方、ケルナーは、シュヴァーベンのドイツ詩人、ユスティヌス・ケルナーから、ブドウの名前を取りました。

2. 交配品種ケルナーの強みと弱み

ケルナー

ケルナー

育種交配は、フィロキセラ禍以降、研究機関で病害虫耐性、成熟度向上や消費者の需要に応える為に、開発が続けられてきました。ケルナーもこうして生まれてきた交配種のひとつです。

ドイツのブドウ育種の歴史は古く、ヴィティス・ヴィニフェラ同士の交配育種や、例えば、ヴィティス・ベルランディエリとヴィティス・リパリアの様に種が異なる間での、交雑育種が行われてきました。

20世紀前半には、冷涼な気候にも適応し、安定した収量が確保できるような品種を生み出すため、ケルナーの他にも、バッカス、ショイレーベやドルンフェルダーなどの開発が続きました。その他にも、耐病性に優れたレゲントやソラリスなどのピーヴィ―品種も、気候変動を背景として注目を集めています。

香りと味わい

リンゴや洋ナシ、アプリコット。そして、フローラルです。マスカットなどのトロピカルフルーツの香りを感じることもあります。ブラインドテイスティングでは、リースリングとの取り違えや、アルゼンチンのトロンテスと誤解する場合もある様です。それもその筈で、リースリングやマスカット系品種と同様にモノテルペンが香りの主体だから。酸の切れは、リースリングには及ばないものの、爽やかさが持ち味です。

栽培特性

収量が安定していて、同じ交配品種のミュラー・トゥルガウと比べても、糖度が高いので、生産者にも重宝されていました。収穫時には、23ブリックスを超え、ワインではアルコール度数が13パーセントまで上がる、リッチなワインも造られています。カナダでは、残糖が200グラムを超える甘口アイスワインもあるほどです。

耐寒性も高く、芽吹きもゆっくりですから、厳しい冬の凍害にも、遅霜の被害にも遭いにくく、生産者には安心な点があります。

ヴィティス・ヴィニフェラでも、シャルドネなどの良く知られた品種は、零下15℃から零下20℃程度が生育の下限。余りに温度が低いと花芽が死んでしまい、幹も割れて、根頭がんしゅ病などの病害で、ブドウ樹が枯れ死してしまいます。

リースリングなどの耐寒性が高い品種は、零下26℃程度まで耐えられるとされています。

冬の厳しい気温に耐えられても、春に新芽や新梢が生まれてくると、話は別。零下1℃から2℃程度で内部の水分が凍結して、霜の被害を受けます。芽吹きがゆっくりなら、遅霜の脅威が去るまで、やり過ごすことができる訳です。

一方、栽培上、難しい点も。果皮は厚いブドウではあるのですが、病害耐性には問題も。うどん粉病に掛かりやすいとされているのです。

うどん粉病は、かびに起因する病害には珍しく乾燥した場所で、発生します。茎や葉に、白い粉のようなカビが生え、その後、黒褐色化。果実が割れることや、奇形化も起こります。年に幾度も薬剤の散布が必要となり、手間暇が掛かります。樹冠管理に留意。風通しを良くして、硫黄や化学合成農薬、或いは、ミネラルオイルで先手管理をして、感染リスクを低減します。

うどん粉病

さらに、この品種は葉にまだら模様ができる、モザイクウィルスにも被害を受けることがあります。

こうした病害耐性の問題が、ドイツでの栽培面積の減少の一因とも言われています。

樹勢は強く、比較的晩熟。仕立ては、ギョイヨが一般的ですが、イギリスでは、樹勢の強さから、下向きの仕立てにして、樹勢を抑制する場合もあります。

3. ケルナーの主要産地:ドイツ、イタリア、そして日本

ドイツ


ドイツでは、ラインヘッセンファルツ、そしてヴュルテンベルクが栽培の中心地。ヴュルテンベルクのカール・ハイドルが、この地でケルナーを最初に栽培を始めた生産者の一人です。創業者は、元は体操選手で、1949年にワイナリーを設立。今では、ビオディナミのデメターの認証を取っている評判の良い生産者です。協同組合中心で有った当時に、傾斜地の畑にケルナーを植栽して、この品種を広める先駆けになりました。2代目当主は、小樽の導入にも取り組みました。

ケルナーの豊かな香りと爽やかな酸味の特徴を活かして、大振りのグラスで気軽に頂く、ショッペンヴァインとしても人気があります。スパークリングも良いですし、糖度も上がりますので、シュペートレーゼからアウスレーゼと言った、プレディカーツヴァイン等級のワインも造られています。

廉価で気軽に飲める、低アルコールの甘口白ワインのリープフラウミルヒ。日本でもその昔、原田知世のコマーシャルで、一世を風靡しました。このリープフラウミルヒでは、ミュラー・トゥルガウと共に、ケルナーは使用品種の一つとなっています。

プレディカーツワイン生産者協会、ファウ・デー・ペー(VDP)による格付け。特級区画のグローセ・ラーゲや、1級区画のエアステ・ラーゲでは、産地毎に夫々の等級に適したブドウ品種を明示しています。

ところが、ラインヘッセンでもファルツでも、生誕地でもあるヴュルテンベルクでさえ、こうしたVDPの上位等級での使用品種にケルナーの名前は見当たりません。リースリングはスター品種ですから当然として、シャルドネやらソーヴィニョン・ブランといった国際品種をリスト入りさせながら、ドイツ生まれのケルナーを外すのは残念。

ケルナーは、お手頃価格のワインが中心です。勿論、カール・ハイドルの様に、品質の高いケルナーを造るワイナリーもありますが、高価格帯のワインは、あまり海外ではお目に掛かりません。

イタリア:アルト・アディジェ

本家ドイツ産のケルナーの国際的な流通が目立たたない中、イタリア北部のアルト・アディジェ(南チロル)、特にイザルコ渓谷が注目されています。

栽培面積は、130ヘクタールほど。1990年初頭には殆ど栽培されていなかったこの品種。イザルコ渓谷含めて、高い標高の土地での植栽が進みました。

イザルコ渓谷は、イタリア最北部の産地で冷涼。一方で、日照には恵まれているので、谷合では、黒ブドウも栽培されています。片岩や片麻岩、粘板岩土壌の、600メートルから900メートル程度の高標高が最も、ケルナーには向いていると言われます。

果実香に加えてフローラルな香りに、ハーブもまとったアロマティックなワイン。高めの酸も、澱との接触を施した豊かなボディに、ほどよく調和する。そうした素晴らしいワインに出会えます。

この産地では、代表的な協同組合のカンティーナ・ヴァッレ・イザルコ。ミュラー・トゥルガウに負けず劣らず、幅広い標高で栽培されて、栽培のしやすさが垣間見えます。

同社のキュヴェの一つ「ケルナー・アリストス」は、イギリスのワイン雑誌『デキャンタ―』の、2020年のコンテストで、ベスト・イン・ショー受賞ワインとして、トップ50銘柄の一つに選ばれました。イタリアの『ガンベロ・ロッソ社』が発行する、ワインガイドの『ヴィニ・ディ・イタリア』でも、例年、最高評価であるトレ・ビッキエリを獲得しています。

このワイナリーは、1961年設立と、歴史は浅いのですが、入門レベルから、このアリストス、更に上位のワインも有り、幅広いラインアップを有しています。

日本:北海道

北海道の葡萄畑

長野、新潟でも栽培されていますが、日本のケルナーの大半は、北海道で栽培。その北海道では、赤白含めて、醸造用の専用品種に限って言えば、ケルナーが50ヘクタールほどで、最大栽培面積を占めています。1973年に穂木がもたらされたとされています。

著名なインターネットの国際的なワイン情報及び価格比較サイトのワイン・サーチャーでも、北海道のケルナーがランクイン。キャメルファームなどの日本勢がイタリアのアルト・アディジェのワインに混じって、健闘しています。他にも、北海道ワインや、北海道中央葡萄酒・千歳ワイナリー等が、高評価。

ケルナーを生産している国同士という事で、日本のケルナーは、イタリアやドイツでも知られているようです。日本のワインの実力を世界の土俵で示すことができる、貴重な品種の一つとも言えるかも知れません。

4. ケルナーのまとめ

人が生み出したブドウ品種、ケルナー。生誕の歴史や、栽培上の特徴、そして代表産地を眺めてきました。ワイン選びの際に、リースリングやトロンテスなどのアロマティック品種を選ぶ前に、ちょっと立ち止まって、ケルナーを応援してあげませんか?甘やかなものから、溌剌とした辛口やスパークリングなど幅広いスタイルが有りますし、北海道ワインで品質の良いものが手に入るのも強みです。アカデミー・デュ・ヴァンでは、ドイツ、イタリアに焦点を当てた授業や、日本の生産者をお呼びした講座など多彩な内容でみなさんのお越しをお待ちしています。

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