サンテミリオンとは? ~最新の格付け情報にも注目!ボルドー右岸の代表ワイン産地「サンテミリオン」を徹底解説

サンテミリオン

ボルドー右岸の名産地サンテミリオン。中世の面影を残す美しい街並みと周辺のブドウ畑は世界遺産にも登録され、ワイン愛好家なら一度は訪れたい産地です。ワインはメルロ主体のものが多く、その滑らかで芳醇なワインは世界屈指の品質で知られています。一方、定期的な見直しがあるサンテミリオンの格付けでは、ランクの入れ替わりも激しく、2022年の最新の格付けではトップクラスの3シャトーが撤退したことでも話題になりました。今回は、ワインを学ぶ上で必ず押さえておきたいサンテミリオンについて最新情報を含めてたっぷりと解説していきます。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】
1. サンテミリオンのワインの特徴
2. 「ガレージ・ワイン」と右岸の躍進
3. サンテミリオンの気候と土壌、ブドウ品種
4. サンテミリオンのAOC
5. 波乱万丈の格付けシステム
6. 観光も楽しい世界遺産の街サンテミリオン
7. 飲んでみたい!サンテミリオンのヴィンテージ
8. サンテミリオンのまとめ


1. サンテミリオンのワインの特徴

ジロンド川とその支流により右岸と左岸で大きく分かれるボルドー地方。サンテミリオンのワイン産地は、ジロンド川とドルトーニュ川の右岸に位置するサンテミリオンの街を拠点に広がっています。カベルネ・ソーヴィニヨン主体でワインが造られる左岸に対し、サンテミリオンではメルロの栽培比率が高く、続いてカベルネ・フランやカベルネ・ソーヴィニヨンと続きます。

ワインは、シンプルで早飲みスタイルのものから、ボルドー1級シャトーにも引けを取らない素晴らしい品質のワインまでさまざまです。最上のものは、プラムなど多層的な果実のアロマにヴァニラやクローブなど上質な樽香をまとい、数十年と熟成しうる長期熟成ポテンシャルを持ちます。ただしカベルネ主体のボルドー左岸と比べると、タンニンが控えめで柔らかいスタイルになりやすく、飲み頃まで長期間待たずにワインが楽しめるケースが多いのも魅力です。

また、左岸と比べるとシャトーの規模が小さいのも特徴といえるでしょう。サンテミリオンには、約5000haに数多くのシャトーが密集しており、シャトーの平均敷地面積は約8haと、ボルドー左岸のシャトーの半分以下。例えば五大シャトーだとシャトー・ムートン・ロートシルトで年間約30万本、シャトー・マルゴーで約20万本などそれなりの生産規模がありますが、サンテミリオンの場合、シャトー・シュヴァル・ブランで約72000本、シャトー・オーゾンヌにいたっては約24000本と生産本数も少なく、希少なワインとなりやすい傾向があります。

特に、サンテミリオンの格付けが制定された1955年以来、サンテミリオンの格付けの最高位に君臨し続けているオーゾンヌシュヴァル・ブランは別格の存在。オーゾンヌは14世紀の文書に記述が残る歴史の古いシャトー。オーナーの変遷などにより一時期は不調に陥ったものの見事に立ち直り、現在はヴォ―ティエ家による家族経営のもと、「ボルドーでも最も入手困難」と称される世界最高峰のワインが造られています。シュヴァル・ブランは、長い間同じ一族によって経営されていましたが1998年にベルギー人実業家アルベール・フレールとLVMHの社長ベルナール・アルノーの手に渡りました。惜しみない投資のもと、畑や醸造設備に最新の技術を導入し、現代的なワイン造りを行っています

2. 「ガレージ・ワイン」と右岸の躍進

1855年の格付けにボルドー左岸のワイン(オー・メドック&ソーテルヌ)のみが対象となったように、18世紀から19世紀にかけて世界的な名声を確立したボルドー左岸のワインに比べ、サンテミリオン・ポムロールなど右岸のワインは、比較的最近まで二流の扱いを受けていました。その評価が変わったのは、1980年代以降。ポムロールシャトー・ペトリュスル・パンなど少量生産・高品質のワインが、高値で取引される「ガレージ・ワイン」として絶大な人気を誇ります。1990年代になるとサンテミリオン地区からもガレージ・ワインが多数誕生し、シャトー・ヴァランドローラ・モンドットをはじめ少量生産のワインが注目を集めるようになります。

また右岸の躍進を語るに外せないのが、有名醸造コンサルタントの存在。ミッシェル・ローランやステファン・ドゥルノンクールといったコンサルタントが、ボルドーのみならず世界中のワイン造りに影響を与えるようになります。これらのワインのスタイルは、多くが摘房による極端な低収量、収穫期を極限まで遅らせた完熟ブドウの使用、丁寧な選果、高い新樽率等による、芳醇な果実味とフルボディ&滑らかな口当たりを持った魅惑的なワイン。このスタイルを好んだロバート・パーカーの影響もあり、世界的に大流行しました。好まれるワインのスタイルも変化した現在は、現在ではよりフレッシュでエレガントな味わいを志向する造り手も増えています。

3. サンテミリオンの気候と土壌、ブドウ品種

北緯45度と北海道とほぼ同緯度にありながら、暖流の影響により穏やかな海洋性気候を持つボルドー。より内陸にあるサンテミリオンは海の影響を受けにくくなり、昼夜の気温差はやや大きくなります。温暖で水はけの良い砂利質土壌が広がるボルドー左岸ではカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に向くのに対し、冷たい粘土質土壌が多い右岸はカベルネに比べて早熟なメルロやカベルネ・フランの栽培に向きます。

AOCサンテミリオンを名乗るのに認められているブドウ品種はメルロ、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、マルベック(コット)、カルムネール、プティ・ヴェルド(10%未満)ですが、実際の栽培面積は約8割(79%)がメルロの栽培で、次にカベルネ・フラン(15%)、カベルネ・ソーヴィニヨン(6%)と続きます。
(出展:https://bordeaux.guides.winefolly.com/regions/saint-emilion/

冷たい粘土質土壌でも育ち、冷涼な年でも熟しやすいメルロは、気候が不安定なボルドーにおいて大事な品種。ボルドーというとカベルネのイメージが強いかもしれませんが、実はボルドーで最も栽培されているのはメルロなのです。メルロについてはこちらの記事を参照。

ただし近年の気候変動の影響から、サンテミリオンでもカベルネ・フランの比率を高めるシャトーも少なくないようです。

サンテミリオンの土壌は大きく二つに分かれています。ポムロール地区に隣接する砂と砂利質の台地は「サンテミリオン・グラ―ヴ(グラ―ヴ=砂利)」と呼ばれ、カベルネ・フランの比率が高くなります。このエリアのワイン(ヴァン・ド・グラ―ヴ)は、全体的にフルーティーで腰の強いスタイルといわれています。有名シャトーとしては、シャトー・シュヴァル・ブランやシャトー・フィジャックが代表格。シュヴァル・ブランは、年にもよりますが、カベルネ・フランの比率が約半分を占めるというこの地域で非常に珍しいワインです。一方フィジャックは、2022年の格付けで最上級のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセAに昇格。こちらはカベルネ・ソーヴィニヨンの比率が高く、カベルネ・フランと合わせて60~70%と、右岸で最も高いカベルネ比率を誇るユニークなシャトーです。

もうひとつが、「サンテミリオン・コート(コート=丘)」と呼ばれる丘の斜面や高台エリア。石灰岩を母岩とする粘土石灰質が広がり、シャトー・オーゾンヌやシャトー・パヴィなど、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセの多くのシャトーが軒を連ねます。このエリアのワイン(ヴァン・ド・コート)は、ヴァン・ド・グラ―ヴに比べるとフルーティーさに欠けるものの、芳香に富み、スケールの大きいワインになるといわれています。

シャトー・オーゾンヌ

4. サンテミリオンのAOC

サンテミリオンのAOCは大きく2つ、ベーシックな「AOCサンテミリオン」と上級の「AOCサンテミリオン・グラン・クリュ」です。この二つの違いは、指定地域の違いではなく、「AOCサンテミリオン・グラン・クリュ」を名乗る場合は、最大収量や最低アルコール度数の規定がより厳しくなります。熟成期間も、AOCサンテミリオンが6か月に対し、グラン・クリュでは20ヵ月以上の熟成が必要。ワインの分析・官能検査も、AOCサンテミリオンは1回、グラン・クリュでは2回受けることが必須です。

サンテミリオンの格付けシャトーは、グラン・クリュの条件を満たしている必要がありますが、それだけでは格付けには入りません(「グラン・クリュ」と名前に冠しているのに、紛らわしいですよね…)。格付けについては後ほど詳しく解説します。

そのほかにサンテミリオンの北側には「サンテミリオン」の名を冠するAOCが4つあり、メルロ主体の赤ワインを生産しています。この4つ(AOCモンターニュ・サンテミリオン、AOCリュサック・サンテミリオン、AOCサンジョルジュ・サンテミリオン、AOCピュイスガン・サンテミリオン)は合わせて「サンテミリオン衛星地区」と呼ばれています。AOCの基準は「AOCサンテミリオン」と同等で、赤ワインのみがAOCを名乗れ、白やロゼの場合はシンプルに「AOCボルドー」となります。

5. 波乱万丈の格付けシステム

ボルドーの中で最も流動的で厳しいといわれるサンテミリオンの格付け。お隣のポムロールには格付けがないため、右岸で唯一の公的格付けを持っているのがサンテミリオンとなります。格付け自体はボルドーの1855年のボルドー格付けからちょうど100年後の1955年に制定されました。最上級の第一特別級(プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ)と、特別級(グラン・クリュ・クラッセ)に分かれ、第一特別級はさらに上級のAとその下のBに分かれています。繰り返しになりますが、前述した「AOCサンテミリオン・グラン・クリュ」は、「グラン・クリュ」とつくものの、単なるAOC名であり格付けではありませんので、ご注意ください。

サンテミリオンの格付け
  • プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA(第一特別級A)
  • プルミエ・グラン・クリュ・クラッセB(第一特別級B)
  • グラン・クリュ・クラッセ(特別級)

 

1855年の格付けと大きく異なるのが、約10年毎に改定が行われること。これまで6回(1969年、1986年、1996年、2006年、2012年、2022年)にわたり改定が行われ、そのたびに話題を呼んできました。格付けが大きな影響力を持つボルドーでは、当然昇級・降格の結果に不満を抱くシャトーも現れます。2006年の見直しではその公平性を巡って訴訟が起こり、2011年までの暫定措置として1996年の格付けを復活させる一方、2006年に昇格したシャトーについてはそのままとする折衷策が取られました。

また、ワイン業界に衝撃を与えたのが2012年の格付けです。格付け始まって以来、第一特別級Aにはオーゾンヌとシュヴァル・ブランのみが君臨していましたが、そこにシャトー・パヴィとシャトー・アンジェリュスが加わったのです。さらに冒頭にご紹介した「ガレージ・ワイン」の代表格であるシャトー・ヴァランドローや、シャトー・ラ・ガフリエールは、当時格付け外だったにも関わらず高値で取引されていましたが、2012年の格付け見直しでプルミエ・グラン・クリュ・クラッセに昇格し、格付けシステムの中に取り込まれることとなりました。

2022年には最新の格付けが行われ、こちらも話題に。シャトー・フィジャックがプルミエ・グラン・クリュ・クラッセ「B」から「A」に昇格したのに加え、衝撃を与えたのが、

プルミエ・グラン・クリュ・クラッセAのオーゾンヌ、シュヴァル・ブラン、アンジェリュスの3シャトーが格付けの申請を取り下げたこと。これまで格付けの正当性をめぐる議論が続いてきましたが、その格付けの評価基準が、純粋なるワインの品質やテロワールなどから離れ、マーケティング(プロモーションや国内外での評価、ワインツーリズム)など副次的な要素が重視されすぎていることも大きな理由の一つと言われています。パヴィ以外の3シャトーが、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセAのシャトーが格付けから撤退する.となると、格付け自体の信頼性がゆるぐ事態となってしまいますよね……。

一方、格付けに頼らず成功した孤高の存在といえば、シャトー・テルトル・ロートブッフ。1970年後半にフランソワ・ミジャヴィル氏がシャトーを受け継いだ後、1980年初頭より劇的に品質を改善させ、サンテミリオンのトップクラスへと昇りつめました。格付けは本質ではない」と格付け制度には加わらないものの、「ボルドー右岸のメルロの名手」として知られるワインは、メルロ好きなら一度は飲んでみたいワインです。

6. 観光も楽しい世界遺産の街サンテミリオン

サンテミリオンは、世界で初めて「ワイン産地」として世界遺産に登録された歴史的な産地です。サンテミリオンの街とその周辺の8つの村、ブドウ畑全体が「サンテミリオン地域(ジュリディクシオン・ド・サン・テミリオン)」として1998年にユネスコ世界遺産の認定を受けました。

実際、サンテミリオンのワイン造りの歴史は古く、紀元前1世紀になると、古代ローマ人によってブドウが植えられました。「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」の途上にあったサンテミリオンは、多くの旅人が行きかう街として栄え、サンテミリオンのワインも優れたワインとして評判となったのです。重厚な石造りの建物が立ち並ぶ街には当時の面影が残り、石畳の小道を歩いていると、中世にタイムスリップしたような気分になります。巨大な石灰岩をくりぬいて一枚岩で造ったモノリス教会など歴史的建造物も多く、ワイン好きならぜひ訪れたい魅力的な場所です。

サンテミリオンのモノリス教会

モノリス教会

7. 飲んでみたい!サンテミリオンのヴィンテージ

ワイン教育機関のワインスカラーギルドによると、2000年以降でグレートヴィンテージに当たるのが2005年、2009年、2010年、2019年

  • 2005年
    非常に乾燥した年で、熟したタンニンを持つ芳醇で肉厚なワイン
  • 2009年
    晴天が多く、メルロの糖度が上がった年。リッチでビロードのような力強いワイン
  • 2010年
    理想的な天候により果実は小粒になり、アントシアニンの量は2005年や2009年より多く、長期熟成に適したストラクチャーのあるワイン
  • 2019年
    生育期に熱波や乾燥があったものの、後半に雨が降り、凝縮しているがフレッシュで、タンニンと酸味が豊富

と評価されています。

それ以前だと、特に偉大な年として知られる1989年1990年、それに続く1998年は是非とも飲んでみたいヴィンテージです。サンテミリオンの上質なワインは、長熟のポテンシャルを持つため、思い入れのある年のワインを購入して、セラーで保管するのもおすすめです。

また20世紀最高峰の歴史的なヴィンテージとして知られるのが1947年。2010年に開催されたクリスティーズのオークションでは、シュヴァル・ブラン1947年の6リットル瓶が、過去最高額の30万4375ドル(3135万円)で落札され、話題となりました。

お値段に関してですが、シュヴァル・ブランやオーゾンヌなどはさすがに市価10万円を超えるものの、2022年にプルミエ・グラン・クリュ・クラッセAに昇格したシャトー・フィジャックなどは約5万円前後と、お隣のポムロールなどと比べてかなり良心的といえるでしょう。

8. サンテミリオンのまとめ

サンテミリオンと一口にいっても、コートとグラ―ヴでテロワールが分かれるなど、非常に奥が深い産地です。また、有名シャトーやガレージ・ワインはもちろんのこと、格付けに入らずとも素晴らしい品質のワインも多数あります。ぜひサンテミリオンにも注目して、その魅惑的なワインを味わってみて下さいね。

サンテミリオン

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