貴腐ワインは、栽培が難しく稀少であることもあり、ワイン愛飲家にも人気のある極甘口タイプのワインです。
1本100万円以上するものも珍しくなく、オークションでは1本1,000万円近くで落札されたものもあると言います。
それだけ人気のある貴腐ワイン。どうして人気が集まるのでしょうか。ここでは、そんな貴腐ワインについてご紹介します。
【目次】
では、貴腐ワインについて、上の目次に沿って説明します。
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貴腐ワインとは
貴腐ワインというのは、貴腐(ボトリティス・シネレア/Botrytis Cinerea)菌というカビの力を借りて育てた原料ブドウを用いて造られたワインのことで、デザートワインの一種です。
貴腐ブドウから造られるこのワインには濃厚な甘さと、カビに由来する独特で複雑な風味が含まれています。
生産が難しく、希少なこの最高級のワインを「ワインの帝王」あるいは「帝王のワイン」とも呼ばれています。
関連:「デザートワイン(甘口ワイン)ってどんなワインのこと?」
甘さはどこから生まれるのか
貴腐ワインは、極甘口のワインです。その甘さはどこから生まれるのでしょうか。
それは原料として使われる貴腐ブドウがポイントです。
貴腐ブドウというのは、ブドウ品種ではありません。
通常の白ワインを造るのにも使われる白ブドウのリースリングやセミヨンといったブドウが、貴腐(ボトリティス・シネレア/Botrytis Cinerea)菌というカビの力によって貴腐ブドウに変貌するのです。
貴腐ブドウを収穫する際には、白ブドウが完熟しても収穫せずに待ちます。
そのブドウに貴腐菌というカビが付着すると、その貴腐菌がブドウの皮部分にいくつもの穴を開けます。
その穴から中の水分が蒸発し、木になったままの状態で干しブドウのようになっていきます。
水分が蒸発した結果、糖分やその他の成分が残った部分に凝縮されるため、貴腐ブドウには糖度の高いブドウとなるというわけです。
その貴腐ブドウを使って造っているからこそ、貴腐ワインは極めて甘いワインとなることができるのです。
なお、ブドウの中身は腐っていませんから、この糖度の詰まった貴腐ブドウの実を使ってワインを造ることができます。
しかし、この貴腐菌は未熟なブドウや果実部分に付着し、ブドウが灰色カビ病になってしまうと、ワイン造りに使えなくなってしまいます。
灰色カビ病にならないためには、特定の気象条件が満たされる必要があるのです。
貴腐ブドウが育つ条件とは
灰色カビ病にならずに貴腐ブドウに育てるためには特定の気象条件が満たされる必要がある、とお伝えしましたがどのような条件があるのか気になりますよね。
その条件というのは……
<貴腐ブドウが育つ条件>
- 夏に晴れる日が多いこと
- 9月から収穫までの間に朝霧が発生すること
- 9月から収穫までの間に日中は晴れること
9月以降では夜間の湿度が高く、昼は日照量が多いということが、貴腐ブドウを育成する上での重要なポイントです。
こうした特定の気象条件が揃ったときに初めて貴腐ブドウの収穫が可能となります。
貴腐ワインが高価になる理由とは
他のワインと比較すると、貴腐ワインは高価です。
どうして金額が高くなってしまうのでしょうか。
<貴腐ワインが高価になる理由>
それには3つの理由が挙げられます。
理由1:通常の収穫量と比較してごくわずかになるため
貴腐ワインの原料である貴腐ブドウは、干しブドウ状態で収穫します。
水分を蒸発させてしまう分、1つのブドウから得られる原料はごくわずかになってしまうのです。
フランス・ソーテルヌ地区にて貴腐ワインを生産するシャトー・ディケムでは、1本の木からグラス1杯分の原料しか得られないとも言うほどです。
理由2:生産や収穫に手間がかかるため
貴腐ブドウが育つには厳しい気象条件があることはお伝えした通りです。
完熟したブドウをさらに見守って育てていく必要がありますので、通常のブドウよりも生産に手間暇をかけているのです。
それに、そんな貴重なブドウですから、収穫の際には1つひとつ厳選して丁寧に摘み取っていきます。
貴腐ブドウの生産や収穫には人手も時間もかかるのです。
理由3:気象条件などによっては貴腐ブドウを収穫できない年もあるため
先ほど貴腐ブドウが育つ条件をお伝えしましたが、この気象条件は毎年揃うわけではありません。
そのため、天候によっては収穫できる貴腐ブドウが少なくなってしまうこともあります。
あるいは、その年の気象条件が貴腐ブドウの栽培に適さないと判断した場合には貴腐ブドウにはせず、白ブドウが完熟したタイミングで収穫し、貴腐ワイン以外のワイン造りに使うという判断をする生産者もいます。
毎年一定量の貴腐ワインが造れるというわけではないのです。
稀少な上に生産コストが高いという特徴のある貴腐ワイン。
高価になる理由はお分かりいただけましたね。
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世界三大貴腐ワインとは
世界三大貴腐ワインとは「ソーテルヌ(Sauternes)」、「トカイ(Tokaji)」、「トロッケンベーレンアウスレーゼ(Trockenbeerenauslese)」の3つの貴腐ワインのことを指します。
では、上記「世界三大貴腐ワイン」について説明します。
フランスボルドー地方のソーテルヌ(Sauternes)
ソーテルヌは、フランス南西部に位置する貴腐ワインの産地です。
この地の貴腐ワインは、セミヨンというブドウ品種を主体として、ソーヴィニョン・ブランや場合によってはミュスカデルというブドウをブレンドして造られます。
アルコールは法定最低度数が13%と高アルコールで、甘さが強いという特徴があります。
それに加え、新樽熟成とカビ由来の独特な香りによって、複雑で濃厚な風味となります。
ハンガリーのトカイ(Tokaji)
トカイという貴腐ワインの産地は、ハンガリー北東部に位置しています。
フルミントと呼ばれる白ブドウを主軸としてハールシュレヴェリュという白ブドウをブレンドして造ります。
伝統的な製法としては、ペースト状にすり潰した貴腐ブドウを辛口ワインに加えて甘口にします。
ただ、最上位に位置するエッセンシアと呼ばれるタイプのワインは、貴腐ブドウのみを使って造っています。
アルコール度数が低く、極めて甘い貴腐ワインとなっています。
ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ(Trockenbeerenauslese)
トロッケンベーレンアウスレーゼというのは、実は産地名ではなく、ドイツのワイン法で定められたワインのカテゴリー名です。
一定以上の糖度を持つブドウ果汁から造られた甘口ワインは、地方やブドウ品種を問わずトロッケンベーレンアウスレーゼを名乗れます。
そんな中でも有名なのが南西部にあるラインガウ地方とモーゼル地方です。
リースリングというブドウから造られており、ソーテルヌにも匹敵する甘さと低アルコール(10%以下)というのが特徴です。
貴腐ワインをおいしく飲むには
貴腐ワインは食前酒としても食後酒としても飲むことのできるワインです。
食事と合わせるのであれば、定番の組み合わせとしては、ブルーチーズやフォアグラが挙げられます。
しっかりとした味わいのあるワインですので、クセの強いものや味の濃いものと相性が良いという特徴があります。
デザートやフルーツ、ハチミツなどともマッチするので、食後のデザートに合わせて楽しむのもおすすめです。
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まとめ
以上、貴腐ワインについてご紹介しました。
希少で極甘口タイプの貴腐ワイン。
その魅力を知ることはできましたでしょうか。
「貴腐ワインの魅力が分かった!」と感じては欲しいのですが、知識だけでは本当の魅力は分かりませんよね。
少し高価ではありますが、ぜひ一度貴腐ワインを味わってみてください。