あの人のワイン人生 vol.8 ~ブリークリー美香さん「ブラインドテイスティング達人の軌跡」

「興味がないことにはどうにも心が動きませんが、好きなこととなれば夢中になってしまうんです」。にこやかに話すその姿からも、内に秘めた熱い情熱が静かに伝わってくるのがブリークリー美香さんです。2024年10月に開催された世界ブラインドテイスティング選手権「World Tasting CHAMPIONSHIP」で、過去最高の4位になった日本チームの一員でもあります。そんな彼女の挑戦の軌跡をたどりました。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】
1. 雪山で育まれた集中力
2. ワインの道、知らないからこそ始めた一歩
3. ブラインドテイスティングの世界へ
4. 必勝!ブラインドテイスティング練習術
5. 世界大会への挑戦、苦労とよろこびの味わい
6. 喜びと悔しさ、白ワインと赤ワインのドラマ
7. 最高のチームと再び世界へ
8. ブラインドテイスティング、仲間と共に深める喜び


1. 雪山で育まれた集中力

学生時代は体育会スキー部に所属していました。本格的にスキーを始めたのは大学からという初級者だったので、「幼い頃から滑り慣れている部員たちに追いつきたい!」と奮起し、冬休みには長野県のロッジに住み込み、配膳などの手伝いをしながら長期で雪山に滞在し、ひたむきにスキーの練習に励みました。思えば、好きなことに全力でのめり込む性格と集中力は、この頃から形になっていたのかもしれません。

学生チャンピオンを決める大会で優勝。スキー部同期の皆さんと

2. ワインの道、知らないからこそ始めた一歩

2017年、家族の紹介で、アカデミー・デュ・ヴァンの門を叩きました。最初に受講したのはWSET Level2という国際資格の初心者コースです。しかし、その頃の私は「シャブリ」が品種なのか土地の名前なのかすらわからない状態でした。教室を見渡せば、日本ソムリエ協会認定のソムリエやワインエキスパートの資格を持つ人ばかり。毎回、授業についていくだけで必死でした。

それでも、その後中級コースであるLevel 3にまで進んだのは、「ここでやめたらきっと後悔する」と思ったからです。結果、筆記もテイスティングも「Distinction(優良)」で合格。日本ソムリエ協会の資格を持っていないワイン初心者でしたが、一見難しそうに思えることでもひるまずに一歩を踏み出したこと、そして出来ないからこそひたむきに頑張ったことで得られた結果と、ワインの世界で初めて自信を得る機会となりました。

演習問題を作成して勉強。左はLevel2、右はLevel3のときのもの

3. ブラインドテイスティングの世界へ

2020年10月に日本ソムリエ協会のワインエキスパート資格を取得。そして翌年の1月、友人に誘われて別のスクールが主催するブラインドテイスティング大会に挑戦することになりました。その時点で私が知っていたのは、試験に出るような基本のブドウ品種約10種類だけでしたが、迷う品種が少なくて済んだからか、幸運にも予選を通過することができました。

その後、同じ大会の次の予選や、他の大会の予選を突破していくうちに、ワイン仲間から練習会に誘われることが増え、自然とブラインドテイスティングに熱中するようになりました。気づけば、楽しみながらワインの奥深い世界にすっかり魅了されておりました。

2022年 日本ソムリエ協会主催J.S.A.ブラインドテイスティングコンテストで第二位に

4. 必勝!ブラインドテイスティング練習術

「畳の上の水練よりも実践を!」を信条に、ワインスクールや練習会で日々ブラインドテイスティングの感覚を磨くよう心掛けています。大会が近づくと、自宅での週に1回の練習会に加え、他の練習会にも参加します。

練習用のワインは小瓶に詰めわけて保管

自宅の練習会では、参加者に白ワインと赤ワインを1本ずつ持ち寄ってもらっています。ワインはペットボトルに移し替え、答えを書いた紙をボトルの底に貼るようにしています。こうすると、自分の分も含めて誰がどのワインを持参したか分からず、ブラインド状態で純粋にワインに向き合うことができるようになります。練習は白ワイン6本を一度にテイスティングすることからスタート。1種類あたりの所要時間は3分で、6種類全部テイスティングし終わってから1番から順番に答えを発表し、全員が答えを発表した後、底の紙を開いて正解を明らかにします。

答えが明かされる瞬間には、歓声やため息が飛び交い、一気に盛り上がります。驚くことに、ブラインドテイスティングの達人でも自分のワインを間違えることも。当てた人からは何故その品種を当てられたかコメントを聞き、それがヒントとなって次の練習会や大会での正当に繋がったりしています。

持参したワインを同じ形のペットボトルに詰め替えて仲間と練習

5. 世界大会への挑戦、苦労とよろこびの味わい

なによりもチームワークが大切とされている世界大会ですが、2024年チームの4人の中の1人として選出されました。選出後、まず取り組んだのは、過去に出題されたワインのリストアップと分析。似たようなワインが出たときに正確に答えられるよう、入念に準備を進めました。

しかし、壁は高く、リストアップしたワインのうち約2割しか日本に輸入されていないという現実に直面します。さらに、国内大会で使う練習用ワインは3,000円前後が多いのに対し、世界大会では30,000円を超える高級ワインが出題されることもしばしば。そして、渡航費や滞在費、練習用ワインの費用がすべて自己負担という厳しい状況もありました。

そんな中、普段の練習会では吐器を使っていますが、世界大会のアイテムはとても美味しくて思わずゴックンと飲んでしまうことも。トップテイスターである他の選手の大変奥深い分析なども間近で聞くことができ、世界大会の練習は、「これがずっと続いて欲しい」と思うぐらい楽しく実りあるものでした。

6. 喜びと悔しさ、白ワインと赤ワインのドラマ

大会本番は、スパークリングワインに続いて白ワイン、赤ワイン、酒精強化など合計12種出題されます。当てるのは品種、国、産地とヴィンテージの4つで、1本ごとに結果が集計され、順位がスクリーンに映し出されました。今回の大会では、白ワインは練習と似たアイテムが出たこともあって全て品種、国、産地まで当てることができ、白ワインの途中から見事1位に。ところが、赤ワインになると、日本では手に入らないタイプのワインが立て続けに出題され、一時順位を落としましたが、最後には挽回し、最終的には総合4位になることができました。

総合4位という結果は過去最高順位でして、嬉しく誇らしく感じる一方、「最後まで迷ったあちらの品種を選択していたら…」と悔しさがよぎることも。喜びと悔しさが入り混じる、忘れられない大会となりました。

日本チームと。左から横山さん、片山さん、大倉野さん、ブリークリーさん、監督の石塚さん

7. 最高のチームと再び世界へ

素晴らしいメンバーに恵まれたことは、本当に幸運でした。

驚異的な分析力と記憶力をお持ちの片山正樹さんは、品種の分析に加え、チーム内で誰がどこで間違えたのかを分析し、「この品種では〇〇さんの意見を優先しよう」と的確に指揮をとってくれました。大倉野泰造さんはブラインドテイスティングの実績も経験もとても豊富です。今回も過去の経験からのヴィンテージの最終調整により、すべてストレートで当てられたワインがあり、大変頼りになりました。横山武信さんは、ワインが注がれてから「グラスに手を触れても良い」と合図があるまでの間、鋭い視線でグラスを凝視し、「泡3つ!」と、泡の数まで数えるほどの洞察力を発揮。それが引き金で当てられた産地もあり、日本チームが白ワインを当てていたので、隣のチームもワインを凝視しはじめたほどでした。

今回の大会での日本チームの躍進ぶりに、日本チームの監督(パリ在住)と親しい主催者も喜ばれ、来年もぜひ同じチームで出場して大会を盛り上げて欲しいと監督に連絡が来たようです。このメンバーと2025年の世界大会にも挑戦できることはとても嬉しく光栄ですが、さらに上の順位を目指すためには日本には輸入されていないワインもなんとか手に入れて練習しなければと、身の引き締まる思いでもあります。

8. ブラインドテイスティング、仲間と共に深める喜び

最後に、ブリークリー美香さんにブラインドテイスティングのコツを伺いました。

「ブラインドテイスティングは、頭で考えるだけでは身につきません。実際に体験することが何より大切です」とのこと。ただし、練習用のワインをそろえるのは、時間的にも経済的にも負担が大きいのが現実。一人での勉強には限界があるため、仲間を増やして一緒に練習することが効果的だと言います。

「仲間と共に学び、研鑽し合えば、テイスティングの道のりがより豊かで楽しいものになりますよ」と語るその笑顔には、経験に裏打ちされた確信がありました。

プロフィール

ブリークリー美香(ブリークリーみか)

  • 星座:おとめ座
  • 血液型:B型
  • ワイン以外の趣味:旅行、おいしいお店巡り
  • 好きな食べ物:霜降り牛
  • もし生まれ変わったら何になりたい?:デコピン(大谷翔平選手の犬)
  • 酔っぱらったらどうなる?:コンビニで普段食べないような色々な食べ物を買い込んでいるのに、翌朝気づきます。
  • 人生を変えたワイン:(1本だけで)―Gantenbein Pinot Noir。それまでNapa Valleyの濃いワインが大好きで、むしろPinot Noirはあまり得意ではなかったのですが、Pinot Noirってこんなに美味しいんだ!と教えてくれたワインです。

豊かな人生を、ワインとともに

(ワインスクール無料体験のご案内)

世界的に高名なワイン評論家スティーヴン・スパリュアはパリで1972年にワインスクールを立ち上げました。そのスタイルを受け継ぎ、1987年、日本初のワインスクールとしてアカデミー・デュ・ヴァンが開校しました。

シーズンごとに開講されるワインの講座数は150以上。初心者からプロフェッショナルまで、ワインや酒、食文化の好奇心を満たす多彩な講座をご用意しています。

ワインスクール
アカデミー・デュ・ヴァン