ブドウの木の根に寄生して木全体を腐らせてしまうフィロキセラ。
19世紀後半には害虫フィロキセラが世界中に繁殖していきます。
耐性のあるブドウの木もありますが、残念なことにワイン造りに使われるブドウ品種を実らせる木はフィロキセラに弱いという特徴があるため、ワイン生産は世界的に脅威にさらされることとなりました。
根の部分から寄生することや、フィロキセラの繁殖が広がったことによって、現在ほとんどのブドウ栽培家は畑に植えた木にブドウ栽培用の木をつなぐ「接ぎ木」という方法で栽培しています。
自根での栽培のほうが味わいも香りも良くなるのですが、昔のように自根で造っているワイン生産者は世界でも極わずかです。
ワイン業界を大きく変えてしまったフィロキセラ。
悔しいことにも、ワインを語るうえでは欠かせない存在となっています。
【目次】
では、上の目次に沿ってフィロキセラについて説明します。
フィロキセラ(Phylloxera)とは
フィロキセラ(Phylloxera)とは、ブドウネアブラムシ(葡萄根油虫)というアブラムシの1種のことです。
体長1~2mmほどの小さな昆虫で、ブドウの木の根や葉の部分に寄生します。
根に寄生すると根の一部が瘤のようになり、葉に寄生すると葉にプツプツと茶色い出来物のようなものが生じます。
ブドウの木にはヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラ(Vitis vinifera)やアメリカ系のヴィティス・ラブルスカ(Vitis Labrusca)などの品種がありますが、ヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラはフィロキセラへの耐性がなく、フィロキセラが寄生すると数年で木全体が枯れ果ててしまいます。
カベルネ・ソーヴィニョンやピノ・ノワールなどワインに使われるブドウ品種のほとんどはヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラですので、ワイン生産者にとってフィロキセラは名前すら聞きたくない、忌避すべき存在です。
フィロキセラの歴史
フィロキセラがヨーロッパに侵入してきたのは1863年のこと。
フランスのコート・デュ・ローヌで発見されました。
ワイン生産者がブドウ品種を改良するために、品種の掛け合わせをしようと輸入してきたアメリカ系のブドウの木が原因となったと考えられています。
このブドウの木に付着していたフィロキセラが現地・フランスのブドウの木に繁殖し、ヨーロッパ諸国に、さらには世界中にフィロキセラの脅威が広がります。
このときフィロキセラはヨーロッパ中の畑の3分の1を枯死させるという甚大な被害をもたらしました。
その脅威は日本にも影響し、明治から昭和初期にかけてブドウ栽培の歴史のうち最大の危機を迎えることになりました。
1935年にフィロキセラの研究は実を結びました。
これでようやく日本のブドウ栽培家はほっと胸をなでおろすことができたのではないでしょうか。
フィロキセラの厄介な特徴
ブドウが不作になる原因としては天候以外にもあり、病気や害虫が影響します。
天候を変えることはできませんが、病気や害虫が原因となるものに関しては可能な限り対策が取られています。
そうして、毎年質の良いブドウをたくさん収穫するための取り組みが行われているのです。
ベト病やウドンコ病といったカビ系の病気に関しては果実の周りの風通しを良くしたり農薬を使ったりして対策し、昆虫やダニに関しては殺虫剤などで対策しています。
そこで問題となるのはフィロキセラ。
この害虫は非常に厄介な性質を持ちます。
フィロキセラはブドウの木の根に寄生するので土の中に生息するため、殺虫剤で駆除することができません。
寄生されればブドウの木を枯らされてしまうのにもかかわらず、駆除ができないのです。
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フィロキセラの対策
駆除ができないフィロキセラに対して、フィロキセラの耐性が強いアメリカ系のブドウの木を使う方法が取られるようになりました。
ただし、繊細な味わいを表現するためにはアメリカ系のブドウの木ではなく、ヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラを使う必要がありました。
そこで、根の部分には台木としてアメリカ系のブドウの木を用い、地上の部分には穂木としてヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラという品種を接ぎ木して栽培する方法が取られるようになります。
フィロキセラは世界的に広まったこともあり、この方法は世界中のブドウ栽培家のスタンダードな方法となっています。
台木(だいぎ)に使われるブドウの木の種類
台木にはアメリカ系のブドウの木が使われますが、その中でも様々な品種があり、主要なものだけでも数十を数えます。
台木として使われる品種として代表的なのが以下の3種です。
<台木として使われるブドウ品種(例)>
- ヴィティス・ルペストリス
- ヴィティス・リパリア
- ヴィティス・ベルランデュエリ
ブドウ造りにかかわる方の中では、三大台木品種として名高いものです。
このうち2品種を掛け合わせたり、1つの品種とヴィニフェラ系の品種と掛け合わせをしたりしてブドウ造りに使われます。
それぞれ土壌との適合性や穂木の育ち方が異なりますので、ブドウ栽培家は自分の畑の条件に合った台木選びが必要になります。
フィロキセラの脅威が届いていない地域や国もある
アルゼンチンやオーストラリアのうち、一部の地域ではフィロキセラの脅威から逃れているブドウ産地もあります。
現在もフィロキセラが入ってこないように厳重に警戒しながらブドウ造りが行われています。
なお、チリに関しては全域でフィロキセラの被害を受けていません。
そのため、チリで造られるブドウは接ぎ木ではなく、自根が使われています。
フィロキセラの繁殖のために世界的には接ぎ木を使ったブドウ栽培が定着しつつありますが、本来ならチリで造られるワインのように、ヴィティス・ヴィニフェラ自体の根を使ってブドウが造られていたはずです。
どちらが良いかは感じ方によっても異なりますが、自根で造られるブドウを使って造られる貴重なチリワインには目が離せませんね。
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まとめ
ワイン造りの歴史に大きく影響を与えたフィロキセラ。
一時はブドウ造りに危機が生じるほどの脅威となっていました。
フィロキセラの繁殖によってブドウ栽培方法も変わり、完成するワインの味わいを変えてしまいました。
こうしてワイン業界を大きく変えた存在ですから、フィロキセラなしでワインを語ることはできないでしょう。