イギリスとシンガポールに拠点を持つワイン愛好家の会員制クラブ、67 Pall Mall※1が著名な生産者やマスター・オブ・ワインを招いたウェビナーをYouTubeで無料公開している。シャンパーニュ、ブルゴーニュ、ボルドーから新世界の隅々まで、様々な産地情報や飛び切りのワインを紹介してくれる。ここでしか聞けないディープなワイン造りの話やウンチクはワイン好きには堪らない。
文・織田豊
【目次】
①シャンパーニュ造りで気にするところは?
②ルイナールの目指すスタイル
③デゴルジュマンとジェッティング
④あくなき挑戦
⑤まとめ
①シャンパーニュ造りで気にするところは?
2020年も日本はシャンパーニュの輸入国として世界第3位。ワイン全般の消費量では、世界10位にも入らないのにだ。
如何に日本人が泡好き、それも高級なシャンパーニュが大好きなのかがわかる。
とはいうものの、たとえば、消費者がシャンパーニュとスパークリング・ワインの違いは何かと聞かれても、みんなが答えられるわけでは無いだろう。
愛好家の多くも大手メゾンや著名なレコルタン・マニピュラン、グラン・クリュの村名とドサージュ量を気にするところまでかもしれない。
67 Pall Mallのエピソードで1729年創業の世界最古のメゾン、ルイナールの最高醸造責任者(シェフ・ド・カーブ)のフレデリック・パナイオティスがシャンパーニュ愛好家、ワイン・マニアに垂涎のプレゼンテーションをしてくれた。
司会はマスター・ソムリエのロナン・セイバン。
お題はシャンパーニュ造りにおける酸化と還元だ。
「空気中には21%の酸素が含まれているけれど、二酸化炭素濃度は0.04%程度。シャンパーニュの瓶の中では、この割合がすっかり逆転する。」
のっけから、大所高所に立った科学的な話が展開される。
2007年のドン・ルイナール(プレステージ・キュヴェ)のドサージュ量の話がでると、「ドサージュ量の数値なんて気にしないね。正しいバランスで有るかどうかが大切なんだ。ドサージュの数値に執着しすぎる人もいるけど、私たちはメゾンのスタイルやヴィンテージのスタイルに合うようにするだけだね。」とズバッと本音でこたえる。
https://www.youtube.com/watch?v=Zbay2gdevAw&t=1189s
フレデリックは日本の文化や食を愛するかなりの日本びいきだが、表現はストレートだ。
ルイナールの前は同じLVMHグループのヴーヴ・クリコで10年以上のキャリアを積んだ。シャンパーニュで育ち子供の頃から小遣い稼ぎに畑にでて、その後、国立農業科学高等教育国際センターとインシアード経営大学院を卒業したエリートだ。
ワインのスタイルは頑固なまでに還元的な造りを支持する。
ワイン造りの様々な場面、果汁の段階や発酵中あるいは熟成中にワインが酸素と接触する可能性がある。
こうして酸素が溶け込んでしまうことを、どの様にワイン造りに活かすのか(好気的=酸化的)、あるいは抑えるのか(嫌気的=還元的)、それが醸造家の選択であり、ワインのスタイルに大きな影響をあたえる。