伊東道生の『<頭>で飲むワイン』Vol.105

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フランスの葡萄畑のシリコンバレー

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伊東道生の『<頭>で飲むワイン』Vol.105

RVF誌の特集記事の表題です。みなさんは、どこを思い浮かべますか。ローヌですか、ラングドック?それともジュラ?

この記事では、ロワールです。先端を目指す精神、オルタナティブなスタイル、土着セパージュの愛好・・フランスの葡萄畑の未来を切り開く可能性・・ということです。

「私はフランスで可能な限り、最も詩的な旅をした。川の流れとともに私のイメージは広がり、海が近くなると、途方もないものとなった。」フランスの雑誌らしく、ロワールを旅した作家バルザックの言葉で、衒学気味に記事は始まっています。

普通ならシノン生まれのフランソワ・ラブレーを引き合いに出すところでしょうが、言い古されたところもあるのかな。

ここでは、クイズから始めます。ロワールの葡萄畑の面積は56000haですが、AOCとしては何番目の広さになるでしょうか。アペラシオンの数は? 20,30、50?セパージュは何種あるでしょう。10,15、20?このうち、ビオの面積は?5500、7500、8500?

ロワール川そのものも長く1000キロを越え、地区としては、中央山地にも及ぶ広い地域になります。

その中央山地に近いるオーヴェルニュ地方は、フィロキセラ以前は、フランスでも最も大きな葡萄畑の一つで、40000haに及んでいたこともありました。

今では、オーヴェルニュのイメージは山間のソーセージやジビエ料理、豆料理、そして何よりも「アリゴ」―マッシュポテトにカンタルチーズを混ぜてつくった郷土料理―にとらわれますが、葡萄の地でもあったのです。

葡萄栽培地としては、Cote Roanne(230ha)、Cote d’Auvergne(350ha)、Cote du Forez(115ha)、Saint-Purscain(700ha)からなるこの地域では、新しい世代の活躍が目立ち、赤のセパージュgamay-saint-romainやSaint-Purscainを代表する白のセパージュteressaillierを使用したワインがつくられています。

Cote Roanneではその半分がビオ栽培になっています。

またDomaine de Montcyの当主Laura Semeriaは30haの畑で、pinot noir, chardonnay, sauvignonと並んで土着セパージュのromorantinで辛口、甘口白ワイン(AOC Cour Cheverny)を製造しており、10年は熟成すると評価されています。

イタリア人である彼女の言うところでは、ロワールは極めて開かれた地域で、実験的方法が広く行われている、と。

こうした流れの中で、当然?AOC制度に対する疑問も出てきます。

Clos Roche Blancheの畑を2015年に半分取得したJulien Pineauは、トゥーレーヌAOCに疑問を抱いています。

その広すぎる地域が、問題のようです。

この傾向はLouis-Benjamin Dagneau (vin de France silex)とAlexandre Bain (vin de France mademoiselle 2016)という、いわゆるスター・ドメーヌと軌を一にするものです。

ロワールでは、かつて、というか今も安ワインの代名詞の一つであるミュスカデにも変化が起きています。

ミュスカデ・ルネサンスです!

Pierre-Marie Luneau (Domaine Pierre Luneau-Papin) などは10年から15年は熟成するミュスカデをつくっています。

それでは、ここで高評価のロワールを具体的にご紹介します。

まずはモンペリエで行われたビオワイン展覧会に出品されたロワール・ワインから。

Domaine Chrles Joguet,Chinon LA Varenne du Grand Chene 2017(赤).18点で30ユーロ。

Domaine de la Bergerie,Anjou Zerzilles 2017(白)17点で24ユーロ。

同じく17点でDomaine Claude Riffault,Sancerre Les Chailloux 2018(白)、26ユーロ。

Domaine Serol,Cote Roannaise(赤)17点で17.50ユーロ。

さて次に100銘柄を試飲したRVF誌のランキングです。

19点でClos Rougeard,saumur-champigny LesPoyeux 2014 カベルネ・フランによる、もはや伝説的赤ワイン。

ただ105ユーロと高い。念のために言っておきますと、今回ランキングされたワインは、これを含む三つのみが3桁で、後はほぼ50ユーロ以下です。

御安心ください。同じ19点のDomaine,du Collier,saumur-chmapigny Charpentrie 2015 これもカベルネ・フランによる素晴らしい赤ワインで55ユーロ。

18.5点はRichard Lery,vin de France Les Noels de Montbenaulu シュナンによる素晴らしい白ワインで40ユーロ。

18点。すべて辛口もしくは甘口白ワインです。

Domaine de Belliviere jasnieres Calligramme 42ユーロ。

Domaine Gerard Boulay,sancerre Comtesse 2018、32ユーロ。

du Clos Naudin, vouvray moelleux Reserve 2018、49ユーロ。

Delesvaux,coteaux-du-layon Selection de grains nobles 2010、35ユーロ。

aux Moines, savennieres Roche-aux-Moines 2017、30ユーロ。

La Ferme de la Sansonniere, vin de France La Lune 2018、28ユーロ。

サンセールでビオのパイオニアとなったDomaine Alphonse Mollot, Saoncerre Paradis 2016は17点。

Domaine Vacheron, Sancerre Les Romains 2016も同点で30ユーロ。

上に挙げたミュスカデを探してみると、Domaine de la Papiere, muscadet Sevre-et-Maine sur lie Les Gras Moutons 2018はわずか10ユーロですが17点。

ご存知Dagneauのsilex 2017が17.5点で110ユーロなので、試してみる価値はありそうです。

Luneau-Papinのミュスカデ2014は同じく17点で25ユーロ。

17点でもう一つ。Domaine de Nelle Vue, muscadet Gaia 2018は26ユーロです。

MontlouisやVeuvrayなどもよいワインが出てきていますが、なかでもDomaine de la Taille aux loups, Montluis-sur-LoireのTriple Zero(15.5点18ユーロ)は、ロワールでなくてはならない微発泡ワインとして、推薦の一品です。このワインは少なからぬ影響を与え、地域の自然派・発泡ワインの増加を促しています。

まだまだありますが、とりあえずここまでで。

RVF誌の同号の特集記事には、10年経った伝説の2010ボルドーもありますが、そこ記されている値段を見ると頭がクラクラしますが―Petrus 3085ユーロ!もう飲み物の値段ではない―ロワールは健全です。

ロワール地区に含まれるオルレアンは、中世ではパリからも近く「フランスのワイン」としてブルゴーニュに匹敵する高品質ワインを生産していました。

16世紀半ばになっても、オルレアンのワインは、フランスのどこのワインよりも高値で取引されていました。

しかし17世紀になると都市化の波に押され、安ワインを生産、葡萄畑さえも撲滅されてしまいます。

今ではオルレアンはワイン・ビネガーで知られていますが、このビネガーと共にいただいた牡蠣と地元ワインが未だに忘れられません。

残念ながら今回の特集では触れられていないですが、私としては是非、オルレアン・ルネサンスを願います。

最後に、ワインとは関係ない、私的な話です。

Bordeauxの形容詞「ボルドーの」はbordlaisとか、Nice(ニース)の形容詞をnicois-サラダ・ニソワーズですね-というように、ロワールLoireにも形容詞があってligerienと言うようです。

恥ずかしながら今回初めて知りました。

ちなみに仏和辞書にも載っていませんでした。

ラテン語でロワールをLigerと言うことから来ているそうです。

ボルドーのラテン名はburdigalaブルディガラ、この名前のついたお店がありますね。

答え:ロワールは、AOCとしては4番目です。アペラシオンの数は51。

セパージュは22種です。ロワールでのビオは7566haで、601の生産者が行っています。

2020.02.21


伊東道生 Michio Ito

東京農工大学工学研究院言語文化科学部門教授。名古屋生まれ。
高校時代から上方落語をはじめとする関西文化にあこがれ、大学時代は大阪で学び、後に『大阪の表現力』(パルコ出版)を出版。哲学を専門としながらも、大学では、教養科目としてドイツ語のほかフランス語の授業を行うことも。
ワインの知識を活かして『ワイナート』誌に「味は美を語れるか」を連載。美学の視点からワイン批評に切り込んでいる。

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