注目! 世界のワインニュース(2021年3月) 贋作&詐欺エブリウェア

とても悲しいことだが、ワインの世界にも悪い奴はたくさんいて、ひどい犯罪が世界のあちこちで日夜起きている。筆者は基本的には死刑廃止論者だが、ワインで悪さをやる輩は「埋めちゃえ!」とか思うほうだ。プンプン。でも、しょせんワインの犯罪は詐欺関係が多いから、パクられて懲役打たれても、わりとすぐ出てきちゃうのよねえ。今月は、最近立て続けに野に放たれた、希代の詐欺師ふたりについてと、中国での贋作ワインのニュースを、筆者の居酒屋解説とともにお届けしよう。

文/立花 峰夫


【目次】

1. 高級ワイン贋作者ルディ・クルニアワン国外追放
2. ワイン出資金詐欺師ジョン・フォックス釈放
3. 中国で偽造「イエロー・テイル」が出回る


1. 高級ワイン贋作者ルディ・クルニアワン国外追放

アメリカ在住インドネシア人だったルディ・クルニアワンは、莫大な量の高級ワイン贋作ボトル(とりわけブルゴーニュの希少古酒が多い)を、ロサンゼルスの自宅工房でせっせと制作して販売し、巨万の富を得ていた人物。2002年から2012年にかけてこうした偽造は行われたが、FBIなどの調査によって2012年春に逮捕・起訴され、懲役10年の刑に服していた。

昨年11月、刑期を1年ほど残して出所を果たしたルディは、米国への滞在許可のない不法移民の身分だったため、昨年12月中に国外追放された。今のところ、行方知らず。

ルディについてのドキュメンタリー映画、『すっぱいブドウ』のポスター。

<居酒屋解説>
「コンティ博士」の異名をもつアメリカのインドネシア移民、ルディ・クルニアワンはかつて、ワイン収集家の世界で大変な評判の持ち主だった。若造のくせに有名オークションでトップロットをバンバン競り落とし、超高級レストランでそうした高級ワインをポンポン抜いては友人たちに毎晩のように振る舞ったのだ。日本の片隅でひっそり暮す庶民ドリンカーの筆者のところまで、「なんかすんごいアジア人のにーちゃんが、アメリカで突然出てきた」という噂が、21世紀はじめにすでに伝わってきたほどだ。

しかし、そうこうしているうちに、ルディが友人たちに個人的に譲渡したり、オークションを通じて再販売したりするワインが、すべて偽物という衝撃の事実が明らかになる。そして逮捕・収監へ。このあたりの話は、Netflixが2016年に制作した秀逸なドキュメンタリー映画『すっぱいブドウ』で見た人も多いだろうし、Google先生に聞いてもいろいろ情報や、ルディのガンクビ写真が出てくるので、ここではくどくど述べない(なお、本稿執筆時点では、日本のNetflixでこのドキュメンタリーは視聴できなくなっているようだ。残念)。

ルディの手による贋作ワイン、FBIが自宅工房から押収したものはガシャンガシャンと重機で粉砕処分されたが、市場に放出されてしまっていた相当量のボトルは、いまも世界市場をババ抜きのババのようにグルグル回っている。その市場価格は、600億円相当にもなるとも言われていて、私たちも知らず知らずのうちに、ルディの「作品」を買ったり、口にしたりしている可能性を否定しきれない。

さて、アメリカ国外へ追放になったものの、自由の身になったルディの今後については、いろんな憶測がすでに流れている。高度なノウハウと技術をもつ贋作者であり、「創造的ブレンド」によって、ワイン愛好家ですら見破られないような美味なる偽物を生み出す能力があるルディには、犯罪組織からのラブコールが引きも切らないだろう。一方で、FBIあたりに雇われて、「ホワイトハッカー」のように今後は贋作者と戦う正義の男になるという、希望的観測もささやかれている。

なお、かつてアメリカでも指折りの高級店でソムリエをしていた筆者の友人は、何度もルディの持ち込みワイン会でサービスを担当し、ご相伴にあずかったという。「いやー、ルディいい奴でしたよ、店にとっては。チップいっぱいくれるし、ふるまってくれるワインも美味かったし」と、苦笑いしつつも教えてくれた。もちろん「いい奴」なのはうわべだけの悪党に違いないが、動向がとっても気になるところだ。日本に潜伏してたらどーしよー!?

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